ワクチンまだ 重症者診る訪問診療の現場
新型コロナウイルスの感染者急増で、医療提供体制がひっ迫する大阪。高齢者施設にいる感染者が重症化しても、入院先が見つからず、その施設で治療を受け続ける場合もあるといいます。施設を訪問して治療にあたる医師は、「医療崩壊に近い」と話しています。さらにその医師らは、まだワクチンを接種できていないということです。
医療法人社団日翔会理事長の渡辺克哉医師は、大阪府内で主に高齢者施設への訪問診療を行い、新型コロナウイルスの患者の治療も担っています。渡辺医師に話を聞きました。(取材は4月21日)
■搬送先が見つからない重症患者
――訪問診療の現場はどのような状況なのか。
「僕らは、日頃診ている患者さんが発熱しましたとなったら、まず施設にコロナの検査をしに行きます。抗原検査とPCR検査をして、陽性が出たら、今までであれば保健所に届けを出させてもらって、保健所が病院を選定して入院、というのが流れだったんですけども、今は入院ができない状態になっていますので、コロナ患者の治療を(施設内で)できる範囲でやらせてもらっています」
「いくつか回らせてもらっている中で、かなり多くの患者さんを診させてもらっているんですけど、2~3施設くらいがクラスターのような状態になっています」
――なぜ入院できないのか。
「第4波、大阪ではやりだしてから如実なんですけど、ベッドが満床で探しきれない。大阪市に関しては、すべて保健所を通して入院を決めていただいているので、病状を伝え、探していただいているが、待ち患者さんがすごく多いみたいで入院ができない。返事があるまで待機」
――重症患者でも入院先が見つからない。
「実際に今、診ている患者さんは1人、非常に重篤な患者さんがおられて、1分間に10リットル以上の酸素を吸入しています。酸素を吸っていない状態で(酸素飽和度が)93%以下が重症の分類に入ってくるんですけど、酸素を10リットル流していて、92%~93%、ひどいときは90%をきります。この患者さんに関して、今まで3回救急車を呼んでいるんですけれども、急に酸素飽和度が下がって。救急車が来ても、病院が見つからず搬送できないという状態で救急車に帰ってもらうという状態ですね」
「保健所とも5日以上前から連絡をやりとりして日々の状態を伝えていますが、入院先が見つからない、他に重症患者さんがおられますので、酸素が投与できる施設であれば待機をしてほしいという感じで言われました」
――10リットル以上酸素を吸入しないといけないというのはどういう状態か。
「もうこれ以上いったら人工呼吸器を使う、その一歩手前の状態です。酸素を10リットル在宅で流すなんて、10年以上在宅医療やっていますけれども、初めての経験です。ご家族とも話をさせていただいて『搬送先が見つからずに老人ホームで亡くなる可能性があります』という話までしています」
<<取材からおよそ3時間後、重篤だった80代の女性は入院先が見つかり搬送されたということです。陽性判明から11日後。重症化して8日後のことでした。>>
■クラスター発生施設にも向かう医師たち、ワクチンは
――渡辺医師はクラスターが発生した現場でも治療にあたるがワクチン接種は?
「僕自身がワクチンを打てていません。うちの看護師もワクチン打てていません。高齢者施設で働く職員さんも打てていません。救急隊も打てていません。防護服とかN95のマスクはつけていますけれども、それしかない状態ですね」
――医療従事者、特に渡辺医師のように患者と直に接する方はワクチンを接種していると思っていたが。
「ほかの地区はわからないですけど、僕らの病院もクリニックも順番は回ってきていないので。僕ら地域医療をやっている町の医者ですよね。まだウチのところには(ワクチンが)回ってきていないです。実際にそれでコロナの陽性患者を診ているというのが今の僕たち」
「僕らよりもひどい(状態)と思うのは、高齢者施設のスタッフ。身体の介助に入るので接する時間が長いんですよ」
――渡辺医師自身はPCR検査など管理はどのようにしているのか。
「PCR検査は私自身が週に2回3回しています。一番のリスクは僕ら感染してしまうこと。もちろん防御はしていますけども、なってしまう可能性はどうしてもある。僕らが他のところにうつしてしまうのが一番いけないので。僕らはワクチン打てていないし、自分たちが人に迷惑かけないようにするには、PCR検査をしまくるしかないと思います」
――大阪の医療現場はどのような状況か。
「崩壊に近いと思いますよね。在宅(施設の高齢者)で酸素を10リットルも流さないといけない状態というのは肌感覚としては崩壊に近いだろうなと思っていますけどね。けっして誰かが手を抜いているわけではないので、みんな精一杯やっているけれども、この患者さんの入院先も見つけられないぐらいの状態なので。かなり厳しいと思います」
――そのような状況の中、スタッフの皆さんはどのような思いで患者さんと向き合っているのか。
「責任感だと思います。僕らが診ないとか介護職員が診ないとかそんなことはできないので。介護施設のスタッフさんとか陽性になって、治療して帰ってきた人がまた働いていますからね。自分たちが診させてもらっている患者様に対しての責任感ですかね」
――ワクチンが回ってこないことに対してはどのように思う。
「専門家の先生方に振り分けてもらっているので、事情は他のところにもあると思うので、それは待つだけだと思っています。医療機関は高度救命救急などがクローズアップされることが多いと思うんですけれども、こういう現場で、目の前でなんの医療器具もなく、コロナを診ている医者なり、介護スタッフなり救命救急の人がいるんだっていうことは知ってほしいですね」
(撮影:医療法人社団 日翔会)