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海上保安大学校 約70年の歴史で初 校歌の“ある歌詞”が変わったワケは【国際女性デー】

2025年3月12日 13:45
海上保安大学校 約70年の歴史で初 校歌の“ある歌詞”が変わったワケは【国際女性デー】
海上保安大学校の学生(提供:海上保安庁)

海上保安庁の幹部職員を育成する海上保安大学校。この学校で約70年歌われ続けた校歌の歌詞が去年、初めて変更されました。背景には、ある歌詞に残された男社会のイメージがありました。

■「男性に限った」校歌の歌詞

学校の校歌といえば、誰もが一度は歌ったことのあるもの。海上保安庁の幹部職員を育成する海上保安大学校(広島県呉市)にも、もちろん校歌があり、1956年に開校5周年を迎えた際に作られました。「いかなる試練にも負けず、頑張る若者」の姿が表現されていて約70年の歴史がある校歌なのですが、去年、ある変化があったのです。それは、歌詞の変更です。

変更されたのは2番の歌詞。冒頭の「マスト」など、船に関する言葉は当初から変わっていませんが、「若人」という部分はこれまで、「ますらを」という言葉が使われていました。なぜ、このように変更されたのか。きっかけは、OBが抱いた“ある違和感”でした。

■OBが抱いた違和感がきっかけ

2023年の夏ごろ、海上保安庁の元職員の男性から校歌に対する意見が届いたといいます。

「時代の流れをみて、歌詞を変えたほうがいいのではないか」。実は「ますらを」は「強く勇ましい男子」「立派な男」を意味する言葉で、女性に対しては使われない言葉です。海保大学校に女子学生が初めて入学したのは、設立から29年後の1980年で、校歌が作られた当時、海保大学校には女子学生はいませんでした。海上保安庁によりますと当時の状況も踏まえて、歌が作られたとみられています。

しかし近年、女子学生は増えてきているのが現状です。2015年に海保大学校に入学した学生のうち女子学生は15%ほどでしたが、去年は30%に。このことから、元職員の男性が、男性に限った歌詞に違和感を抱き、約70年、変わることのなかった校歌を変更することにつながったのです。

海の安全・安心を守る海上保安庁。担当者らは、音楽経験がほとんどない中、検討を重ね、リズムや語感のほか、「頑張る若者」という意味を損なわない歌詞として、現在の「若人」という言葉が採用されました。

新たな校歌は、去年の卒業式で初めてお披露目されました。伝統ある校歌が変わったことに、寂しさを感じる人もいましたが、「時代の流れに応じた変更なんだ」という声が多かったということです。

■限られていた“女性職員が乗れる船”

海上保安庁全体の女性職員の数も増えています。2023年時点で、女性職員は1316人で、全体の約1割ほどですが、9年前と比べるとほぼ2倍です。この増加に伴い、海上保安庁内で女性職員の働く環境が変わってきています。

「女性が乗れる船が、入庁した時よりも格段に増えている」

こう話すのは、海上保安庁で働く女性職員。巡視船などにも乗船経験がある海上保安官です。この女性が入庁したのは約20年前。当時、女性職員は先輩の名前が全員わかるくらい少ない人数だったためか、女性専用のトイレや風呂などが整備されている船が少なく、女性が乗ることができる船は限られていました。

しかし、女性職員が徐々に増えるに従って変化があらわれ、船に女性専用の風呂、洗濯機、トイレを整備した女性専用の部屋「女性諸室」の設置が進められました。ほかにも、様々な改修が進められ、2024年度時点で巡視船・巡視艇の全体の8割以上に、女性が乗ることができるようになりました。

女性専用のトイレや風呂の整備は、私たちからすると当たり前のことのように感じますが、これまで女性が少なかった職場だからこそ、状況が変わっているのは大きな一歩なのかもしれません。

「女性諸室」の設置には船ならではの苦労が解消できる、あるメリットもあったと、女性職員は話しました。船は、普通のオフィスとは構造が違います。すぐ近くにトイレがあるとは限らず、生理の時は、一度、自分の部屋まで生理用品を取りに行き、船内の階段をのぼってトイレまで向かう必要がありました。

しかし、女性だけの空間である「女性諸室」などは棚も設置できるので、そこに生理用品を置いておけるのです。トイレに行くための時間が少ないときも慌てずにすみ、安心感に変わったといいます。

■増えるロールモデル 気持ちの面でもプラスに

また、これまでは同じ職場に女性職員がおらず、ロールモデル(手本や目標になるような人物)やキャリアの相談をできる相手が少ない現状がありました。しかし、女性が増えたことで、様々な形で働く女性職員が増え、例えば、育児と両立しながら働く職員も少なくないといいます。そのため、キャリアについても様々なロールモデルを参考にでき、気持ちの面でもプラスとなっています。

海上保安庁は、キャリアに対する女性職員の不安を解消するため、希望する女性職員などが、職歴や経歴などから話を聞きたい先輩女性職員を選び、月に1度程度、相談できる制度も整えています。

男社会のイメージがあった海上保安庁。去年8月には、漫画や映画などから「海猿」の愛称でも知られる海上保安庁の潜水士に、海上保安庁発足以来、初めて女性の海上保安官が着任するなど、女性が活躍する場が広がっているのは確かです。

女性職員は「漁師さんや船乗りもまだ男性の割合が多い一方で、立ち入り検査に入ったときに(乗組員などに)女性がいると、身体検査を女性職員がしないといけないなど、一定数、女性職員は必要だと思う。女性も男性も、働きやすい環境を整備することが絶対に必要だと思う」と話しています。

海上保安庁で少しずつ誰もが働きやすい環境の整備が進められています。

最終更新日:2025年3月12日 13:45