あきらめずに前へ 飲酒運転ゼロへの誓い
「『息子さんが事故に遭いました。即死です』と言われました」
我が子の命を奪った車は飲酒運転。母は息子に誓いました。「飲酒運転をゼロにする」。
「飲酒運転撲滅キャンペーンしてます」
山本美也子さん。夫の浩之さんは20歳の時に交通事故に遭い、今は車いすマラソンの選手として活躍しています。長男・寛大さんが、亡くなったのは10年前の冬のこと。
福岡県粕屋町で、時速75キロで走ってきた車に2人の高校生が、後ろからはねられました。車を運転していたのは当時35歳の男。事故を起こす直前まで居酒屋でビールや焼酎を飲んでいました。
美也子さん「マンションにはマスコミの方でいっぱいでした。『寛大くんが飲酒運転の車にはねられたんですけど、どう思いますか』ということでした。そのとき初めて『あー寛大は飲酒運転の車にはねられたんだ』って…」
寛大さんの葬儀にはおよそ1500人が参列し、悲しみに暮れました。
美也子さん「友達は本当にたくさんいましたね」「友達から聞いた話は『すごい寛大にありがとう』って、支えられた」「寛大自身も人にふんわり寄り添う生き方ができていたのかなって、やっぱり思うんですよね」
寛大さんの四十九日。遺品のカバンの中から1通の手紙が…
美也子さん「これの中に『ありがとう』って書いてあったんですよね」
授業で親に宛てて書いた手紙。手紙を見た美也子さんは、飲酒運転の撲滅を寛大さんに誓い、動き出しました。
美也子さん「本当に亡くなった命は帰ってきません」
寝る間を惜しんで、北海道から沖縄までどこへでも駆け付けました。積み重ねた講演は、1200回を超えました。けれど、いわれのない誹謗中傷を受けた事もあります。
美也子さん「みなさん取材を受けてお金をもらっていると思っている人もたくさんいて、『あんたたちは息子が死んだのを商売にしようとね』とかですね。『だいぶん、もうけたろう?』と言われました」
『伝わらない』『分かってもらえない』
手帳には苦悩する胸の内が記されていました。それでも、息子との誓い。あきらめずに前へ。弱音を見せない娘に、美也子さんの父も。
美也子さんの父・弘さん「本人じゃなきゃ分からない気持ちもいっぱいあるからね。あんたも俺に全部言うわけじゃないし、弱音吐かなかったね、あんた」
美也子さん「そうね、弱音はね」
弘さん「人に見せなかったね」
10年をむかえた、2月9日。現場には、2人に花束が手向けられていました。しかし、その夜、21歳の男が事故を起こし逮捕されました。飲酒運転でした。
美也子さん「うーん通過点でしょうね。まだまだ飲酒運転ゼロには程遠いからですね。目指すのはゼロ」
あきらめずに前へ。美也子さんの訴えは続きます。
2021年5月9日放送 NNNドキュメント’21
『あきらめずに前へ ~飲酒運転に息子を奪われた母~』
(福岡放送制作)を再編集しました。