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街に出る医師「患者の生活イメージできる」

2021年6月10日 18:01
街に出る医師「患者の生活イメージできる」

“コミュニティードクター”の漆畑宗介さん(33)。秋田の病院で週4日間勤務しながら、週1日は街に出て住民との交流に力を入れている。生活環境も知ることで、地域住民の健康と幸せに貢献したい。そんな思いの漆畑さんが街に飛び出すまでの話を聞いた。

■住民の健康と幸せをサポートする医師

この春、大学時代を過ごした秋田に移住した漆畑さん。医師として病院に勤務するかたわら、毎週水曜日は「地域活動の日」としてコミュニティードクターの活動にいそしむ。秋田に来る前、東京では団地で暮らしながら、団地を含む地域の人との交流を活発に行っていた。

「秋田に来たばかりで、今は地域で暮らす人を知るために、いろんな方と顔つなぎをしながら、情報を集めているところです」

漆畑さんの専門は家庭医。広く総合的な診療を行う分野だ。コミュニティードクターという名称は学会などに定められているわけではない。“コミュニティーナース”の医者版として、病院の中だけでなく住民の生活に寄り添うことを目指しているという。

「街に出て、住民の生活に寄り添いながら健康や幸せを作っていくような看護師が、コミュニティーナース。同じように、病院から飛び出して、医者ならではの視点で住民の健康や幸せに関われる存在になりたいと思い、コミュニティードクターとして活動してます。

例えば、一人暮らしをしている高齢者のもとに医師として往診するだけだと、診察をして薬を出して終わりかもしれない。生活や暮らしに寄り添っていれば、その人にとっての幸せは薬を飲むことではなく人と話す機会を増やすことと気づくかもしれません。そうすれば、リハビリを増やして外に出る機会を増やしたりと、ケアプランの方向を修正できる。そういう視点を提供することがコミュニティードクターとしての役割だと思います」

健康に加え、幸せを考えることにこだわりをもっているという。病院にいると、病院を訪れた患者しか知ることができない。しかし、地域に出ることで、病院外で困りごとを抱えている人と出会い、その人の暮らしを知ることにもつながる。

■地域医療とがん治療

漆畑さんが地域医療に興味を持ったのは、秋田大学の医学部に入学した1年生の頃。がん患者の話を聞くというボランティアに参加したことがきっかけだ。

「がん患者さんの話を聞く中で、治療や通院のために、秋田の地方部から都市部まで時間をかけて通っていると知りました。残された人生の時間の中で、通院に時間をかけるのってどうなんだろう。その人が暮らす地域で、がんの治療が受けられたらいいのではと感じました。残された時間を、その人が過ごしたいように使ってほしいと思ったんです」

地域医療とがん治療。双方への関心の中「まずは地域を学んだ方が良いだろう」という勧めがあり、東京の病院で研修医となった漆畑さん。家庭医の専門医となり、地域での往診もするようになる。しかし、生活にもっと寄り添いたいと感じたという。

「往診すればその人の生活が見えると言われていますが、正直、そこまで見えないと感じました。往診で接すると『お医者さんに来た』みたいな雰囲気になるんです。暮らしを知るためには、医師ではない出会い方をしなければならない。地域に飛び出す必要があると感じたんです」

そんな考えを持つ中で、団地に往診に行くことがあった。認知症で一人暮らしをする高齢者を診る中で、話すことが好きだと知り、診療以外の時間でも話すために遊びに行くようになったという。次第に団地の行事にも参加するようになり、自分でも一部屋借りて住み始めた。

「住んでいる高齢者の方同士が話すサロンがあって、顔を出すようになりました。地域やそこで暮らす人を知ることは、医療を提供するときにいきると感じました。例えば、買い物の話を聞いた時も、具体的に買い物をしている場所がわかりますし、そのお店の惣菜は塩分が多いけどどんなものを買っているんだろうと想像できます。また、散歩していると聞いた時に、どんな道を、どれくらいの距離を歩いているか想像できます。地域を知るからこそ、患者さんの生活をより具体的にイメージできます」

2年ほど団地で暮らしながら、コミュニティードクターとして活動。ある時からは、水曜日の午後の時間は、仕事として街に出て話を聞いたりするようになったという。そして、結婚を機に、秋田に移住した。

■暮らしの未来と地域の未来の重なり

秋田に来てから2か月ほど。漆畑さんは「医療者が地域で“実感値を得る”ことの意味は大きい」と感じているという。

「例えば、秋田は冬の間は雪がすごいので家の中に引きこもることが多くて血糖値や血圧が上がりやすいとか、春先に田植えが始まる時期には腰を痛めたりする人が多いとか、時期によって体の状態が変わるんですよね。それがわかっているなら、腰痛になる前に生活習慣へのアドバイスをするとか、自然や生活リズムに合った別のアプローチを提案できると思うんです。医者が実感しないと、わからないことも多いですね」

また、都市部と比較して、家で暮らすことの難しさも感じるという。

「東京などの都市部は、介護サービスが充実しているので、寝たきりの方や認知症の方でも一人で家で暮らすことができます。しかし、この地方では介護サービスが充実していなかったり、雪が降ることで生活が厳しくなったりするので、家で暮らすハードルが高い。施設に入るしかないと感じている人もいて、本当にそれでいいのか、東京から来たからこそ感じることもあります」

暮らしと地域の状態が密接に関わっているからこそ、生活者の未来と地域の未来を一緒に考える必要がある。今暮らしている人の思いを聞き未来を考えることも、コミュニティードクターの役割ではと、漆畑さんは語る。

「東京にいたときには感じなかったのですが、その人の20年後の暮らしとその地域の20年後の状態が深く関係してることを感じます。患者さんだけでなく、地域の今後も併せて考える必要があると考えるようになりました。コミュニティーをどうするかは答えがない問いです。山奥で暮らしている人は町に集めてしまえばいい、という意見の人もいるかもしれませんが、そこには文化や歴史があり、住みたくて住んでいる人がいます。そういう人の思いや歴史をわかっておく役割も、街の継続を考えた時に、大事だと考えています」

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この記事は、日テレのキャンペーン「Good For the Planet」の一環で取材しました。

■「Good For the Planet」とは

SDGsの17項目を中心に、「地球にいいこと」を発見・発信していく日本テレビのキャンペーンです。
今年のテーマは「#今からスイッチ」。
地上波放送では2021年5月31日から6月6日、日テレ系の40番組以上が参加しました。
これにあわせて、日本テレビ報道局は様々な「地球にいいこと」や実践者を取材し、6月末まで記事を発信していきます。