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冷凍・IT技術でパン屋の“働き方”改革

2021年6月16日 18:34
冷凍・IT技術でパン屋の“働き方”改革

店頭販売が前提となってきた地域のパン屋。株式会社パンフォーユーは、パン屋に冷凍技術×ITを導入することで、働き方改革や後継者不足に取り組み、地域経済の持続に貢献している。代表の矢野健太さん(32)にサービスに込める思いを聞いた。

■冷凍技術×ITを活かし、パン屋の働き方改革を可能に

独自のパン冷凍技術とITとを掛け合わせ、パンを作る人・売る人・食べる人の三方よしのサービスを提供しているパンフォーユー。オフィスや個人宅に冷凍パンを提供する他、パン屋を開業したい人に向けた開業支援サービス、パンを小ロットで仕入れたい業者に向けたサービスを展開する。

冷凍とITの導入により、地域のパン屋が抱えてきた課題を解決できるのがパンフォーユーの特徴だ。冷凍でもおいしいパンを提供できるようにすることで、製造時間の変更や販路拡大を可能に。また、デジタル化により配送伝票処理など事務作業の負担軽減を実現させている。代表の矢野さんは、地域のパン屋について次のように語る。

「店頭販売を前提とする地域のパン屋にとって、早朝からパン作りに取り掛かることは当たり前のこと。当日に売れ残りが出てしまった場合、廃棄となるのも仕方のないこととされてきました。また、卸販売など店頭以外の場所に売ろうとしたところで、納品時間は遅くとも昼過ぎ。早朝のパン作りがより大変になってしまい、『午後の空いた時間で作ろう』といったことは難しいんです」

パンフォーユーのサービスであれば、空いた時間に冷凍用のパンを作り、店頭販売以外の売り方が選べる。パン屋の働き方改革が可能となるサービスなのだ。

■「地域のパン屋さん」と話すことで見えてきた課題

新卒で大手広告代理店に入社後、教育系ベンチャーに転職し、地域系NPO団体へ。そんなキャリアを持つ矢野さんが「地域のパン屋」に向けた事業を始めた背景には、大学進学時や就活時に感じた都市部と地方とのギャップがある。

「私は群馬県出身です。大学で出てきた都会と比べると、地元である地方の仕事は種類が少なく、待遇面での魅力も劣ります。地域に魅力的な仕事を増やしたいという思いをずっと抱いてきました」

そんなある日、地域のパン屋でパンを買う機会があった。そのおいしさに驚いたという。

「都内のパンに負けず劣らず美味しいのに、値段は手頃なんですよ。一方、東京のパン屋に目を向けてみると、高級食パンが非常に人気で、長蛇の列をなしている状況があった。このギャップを知り、地域のパンを都市部に流通させたら面白いのではないかと思ったんです。ビジネスとして成り立つのでは、と」

地域のパン屋のパンを、店頭では買えない都市部に住む人へ。アイデアを思いついたあと、矢野さんは地域のパン屋との話を重ねた。その中で、パン屋側は課題と認識していないものの、「解決できる課題」が見えてきたという。その一つは後継者不足や労働者不足だ。

「パン屋=朝早くから重労働をしなければならないというイメージもあり、担い手が減っていると感じました。じゃあ、朝早くからパンを作らなくてもいいやり方ができれば解決できるのではないか。そんな風に思ったんです」

独自技術で冷凍させることにより、美味しいままパンを全国に提供できる。届いたその日に食べてもらう必要はなく、廃棄も出ない。受注生産というスタイルを選ぶことも可能だ。また、IT技術を導入することで、ラベルや配送伝票といった手間も削減されている。パンフォーユーを導入したパン屋からは、「廃棄ロスを減らして売上を維持しつつ、子どもとの時間を確保できるようになった」という話も寄せられているという。

パンフォーユーの特徴である独自冷凍技術そのものの開発に関しては、それほど苦労はなかったという。大変だったのは、冷凍パンのおいしさを顧客に知ってもらうこと。そのため、サービス立ち上げ当初、販売先として選んだのは「ある種、強制的に食べざるを得ない場所」。つまりオフィスだった。まず手に取ってもらい、おいしさを理解してもらった上で、選ばれるパンになっていく。おいしさの認知度向上が、個人宅向けサービスへの展開にもつながった。

■地域のパン屋の「働きがい」を支えられる会社に

サービス開始から丸4年。現状について、矢野さんは次のように語る。

「主目的である地域のパン屋さんたちの認知度が低いことが課題です。ありがたいことに、大手メディアを中心に取り上げていただける機会が増え、食品業界の認知度は上がっているのですが、肝心のパン屋さんたちは朝早くから働いているため、そうしたメディアに触れる機会がおそらく少ないのでしょう。こちらから知ってもらうため動かなければ、認知度は上がらない。最近、またあらためて積極的に訪問機会を増やしているところです」

その一方で、矢野さんは伝え方の難しさについても言及する。地域のパン屋の多くが目指すのは、大きなもうけではなくおいしいパンを一人でも多くのお客さんに届けること。そのため、ビジネス色の強い話には抵抗感を抱かれがちなのだという。

「うちのサービスを使えば売上が上がりますよ、という話には魅力を感じていただけないと感じています。ただ、私たちもそもそもお金もうけのためにこの事業をやっているわけではありません。事業立ち上げの根底にあるのは、地域社会に対して経済的に貢献できる仕事をしたいという思いです。だから、『売上や利益が上がるといった話はあまりしないで』と話すパン屋さんたちの気持ちに共感しています。もちろん、事業を続けるためにはビジネスとして成り立たせなければなりません。成り立たせながら、どう自分たちやパン屋さんの働きがいを実現させるか。そんなことを考え続けていますね」

パンフォーユーが掲げるミッションは「新しいパン経済圏を作り、地域経済に貢献する」だ。地域のパン屋のポテンシャルは高く、顧客から寄せられている期待は大きい。その期待にパン屋が無理なく応え続けられるよう、パンフォーユーは冷凍技術やITを活用する方法を提案していく。

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この記事は、日テレのキャンペーン「Good For the Planet」の一環で取材しました。

■「Good For the Planet」とは

SDGsの17項目を中心に、「地球にいいこと」を発見・発信していく日本テレビのキャンペーンです。
今年のテーマは「#今からスイッチ」。
地上波放送では2021年5月31日から6月6日、日テレ系の40番組以上が参加しました。
これにあわせて、日本テレビ報道局は様々な「地球にいいこと」や実践者を取材し、6月末まで記事を発信していきます。