歴代皇后に受け継がれる「皇居の養蚕」
皇后さまは、ことし2度目の皇居での養蚕に取り組まれています。先月6日、紅葉山御養蚕所で「御養蚕始の儀」に臨んだ後、25日には蚕にえさとなる桑を与える「御給桑」を行われました。今月に入り、繭の収穫などの作業、さらに11日には蚕の卵を採る「採種」などを行い、ことしの養蚕も大詰めを迎えています。皇居での養蚕は、明治以降、歴代皇后に受け継がれてきたものです。去年に続き、今年も新型コロナウイルスへの対策から、作業にあたる担当者を主任1人にし、飼育する蚕は純国産種の「小石丸」だけに絞っているということです。
――井上さん、このニュースにどんなことを思われますか?
コロナ禍でも、静かに養蚕が行われていることをうれしく思いました。皇后さまは5月6日からこれまで7回(6月16日現在)、養蚕の作業に臨まれています。ニュースは「歴代皇后に」と伝えていますが、明治天皇の皇后、昭憲皇太后が養蚕を始めたのが明治4年。中断もありましたが150年にわたって続いているわけで、伝統だと感じます。
――「紅葉山御養蚕所」はどのような施設ですか?
皇居の宮殿の裏手にあり、木造2階建ての築107年の建物です。屋根の上に風を入れるもうひとつの屋根を乗せた、養蚕特有の建物です。
ここで飼われているのが日本純粋種の「小石丸」です。小ぶりで、繭の真ん中が落花生の殻のようにくびれていて、糸が細いのが特徴です。外来種はくびれがない俵型をしていて、小石丸はくびれの分だけ取れる糸の量が少なく、経済性から廃れていきました。皇居でも廃止が検討されたことがありましたが、上皇后さまがもう少し様子を見ましょうと残され、その後、正倉院御物を復元する際に糸の細さが古代の糸の細さに近いことがわかって、増産されるなど注目されました。
――愛子さまも蚕を飼われているそうですね。
愛子さまも、ご自分で養蚕に取り組まれています。皇后さまの影響で生き物に関心をお持ちですが、親子で同じ取り組みをされるのはほほえましいですね。いま、国内の養蚕農家は激減し、関係者からは「皇室を最後の養蚕農家にしてはいけない」といった悲鳴も聞こえてきます。そんな状況の中で愛子さまの取り組みはとても心強いと思います。
【井上茂男(いのうえ・しげお)】
日本テレビ客員解説委員。皇室ジャーナリスト。元読売新聞編集委員。1957年生まれ。読売新聞社で宮内庁担当として天皇皇后両陛下のご結婚を取材。警視庁キャップ、社会部デスクなどを経て、編集委員として雅子さまの病気や愛子さまの成長を取材した。著書に『皇室ダイアリー』(中央公論新社)、『番記者が見た新天皇の素顔』(中公新書ラクレ)。