警察庁“見えない脅威”対抗 新組織設立へ
日々、高度化、巧妙化するサイバー攻撃。「見えない空間」での脅威に国をあげて対応すべく、警察庁は新しい組織を設置する組織改正案をまとめた。その名も「サイバー局」。新しい局の設置は1994年以来。捜査権限を持つ部隊もあるというこの組織の狙いとは。
■背景に国家レベルの関与か
「背景組織として山東省、青島省を拠点とする中国人民解放軍戦略支援部隊ネットワークシステム部、第61419部隊が関与している可能性が高い」
これは、ことし4月に行われた定例記者会見での松本光弘警察庁長官の発言。日本へのサイバー攻撃について、攻撃元に国家レベルの関与の疑いがあると発表したのは初めてとみられる。
2016年から翌年にかけ、JAXA=宇宙航空研究開発機構や防衛関連企業など国内のおよそ200の機関がサイバー攻撃を受けた事件。
警視庁公安部の捜査の結果、中国の人民解放軍の指示のもと、中国のハッカー集団「Tick」が行ったとみられることが判明している。
まさにいま日本を取り巻くサイバー攻撃は高度化、巧妙化し、国家を背景としたものや悪質なマルウェアを使用したものも多く、国の安全保障上にとっても喫緊の重要課題となっている。
そんな中、明らかになったのが警察庁の「サイバー局」構想。都道府県警察を指揮監督する国の機関である警察庁に、捜査権限を持つ組織をつくり国としてサイバー事案への対処能力を強化していくという。では一体どんな組織になるのか?
■組織横断的な対応強化
新設される「サイバー局」は、警察庁に現在あるサイバー犯罪対策の部門や情報技術解析などを受け持つ情報通信局の機能を集めて構成される。それだけではなく、これまで警察庁にはなかった捜査権限も持つ部隊もつくるという。
具体的には警察庁の地方機関である関東管区警察局に「サイバー直轄隊」を設置し、警察庁が指揮する形で直接捜査ができるようにする。人員は200人程度で構成される予定だ。
直轄隊が捜査する対象は行政機関や重要インフラに影響する重大事案や全国規模で被害が発生する事案などだが、都道府県警察と連携しながら捜査することも想定している。
ただ、捜査権限を持たせるためには警察法の改正が必要となる。具体的に条文をどう改正するかは検討中だというが、国の警察機関で捜査権限を持つのは皇族を護衛する「皇宮護衛官」以来となる。
■警察庁が直接捜査する利点
警察庁が捜査権限を持つことは、これまで「構想すらあまりされなかった」(警察庁幹部)という。それだけに今回の構想には増加するサイバー攻撃に対する警察庁の危機感が垣間見える。
一般的な事件とは違い、サイバー空間においては地理的な関係性が薄く、国境をこえた捜査が必要な場合も多い。都道府県警察では、捜査に限界がある場合もあり、国の機関である警察庁が直接、捜査を行うことで外国との連携が円滑になるほか、特定の国家が背景にあるサイバー事案などに国の警察として直接対処できるという。
■警察庁がFBI化?
国の機関である警察庁が捜査権限を持つ今回の組織改正案。サイバー捜査において、いわば日本版FBI=連邦捜査局のような組織になるのだろうか。この点について、警察庁幹部は「よく言われることだが、アメリカは連邦制。そもそも国の制度が違うから単純に日本とは比較できない」と話す。
「近いとすれば、原則、地域警察が捜査するものの重大犯罪やサイバー犯罪については国の法執行機関が捜査しているイギリスのNCA=国家犯罪対策庁かもしれない」(警察庁幹部)
■「28年ぶり」の意義
サイバー局と直轄隊は来年4月に発足する見通しだが、警察庁幹部は今回の組織改正案について、こう力説する。
「何に重点を置くか、国としてのメッセージを明確に示すことになる。この点においてサイバー局の設置は大きな意味がある」
警察庁で新たな局が設置されれば1994年の生活安全局の設置以来、28年ぶりとなる。