1万人の手に届いた特殊詐欺撲滅の秘策
およそ29億3200万円。これは、都内で発生した今年1月から5月までの特殊詐欺による被害額。去年の同じ時期と比べ4億3700万円あまり増加している。警視庁はこれまで特殊詐欺被害の撲滅を目指し詐欺グループの摘発はもちろんあの手この手で高齢者らに注意喚起をしてきた。そんな中、警視庁高井戸署では少しでも被害を防ごうとある秘策を打ち出した。1万人の手に届いたユニークなその秘策とは―。
■警視庁と地元の神社がタッグ
はがきサイズの1枚の紙。この紙こそが警視庁が打ち出した秘策。「疫病退散」の横には「詐欺退散」と力強く描かれている。参拝の証としてもらう御朱印の人気にあやかったチラシでその名も…「禍散(まがち)らし」。
特殊詐欺被害と新型コロナウイルスの「禍(まが)」=「災いや不幸な出来事」を「散らす」=「なくそう」という意味が込められているそうだ。
作成に協力したのは東京・杉並区にあり1000年近い歴史を誇る大宮八幡宮。何とか被害を減らそうと警視庁高井戸署が管内にある大宮八幡宮に協力を仰いだという。普段は安産祈願や縁結び、交通安全などを求めて参拝客が来るのだが・・・。
神社の権禰宜・田村仁志さん
「署からの依頼があり、詐欺が増えているということで、神社としてお力になれればというところで賛同させていただいた。神社は地域のコミュニティー、みなさんが集まる場所でもあるので効果的な施策だと思う」
■チラシには神職の祈祷が…
実はこの紙、ただの紙ではない。まず和紙が使われている。さらに神社で実際に神職による祈祷まで行われている。この「禍散(まがち)らし」は珍しいからか御利益を求めてか人気も上々。
普段の特殊詐欺撲滅のイベントで配られるチラシはせいぜい数百枚だが大宮八幡宮の境内をはじめ管内にある駅や金融機関に置くと異例の1万枚近くを配ることができたという。これには高井戸署も舌を巻いた。
警視庁高井戸署 林忠正生活安全課長
「うちで作ったチラシはなかなか持って行ってくれない。配ってもその辺にポイと捨てられちゃうことも多い。まず、チラシを持ってもらう、そしてコミュニケーションの中に取り入れてもらう。チラシが『ちょっと待てよ』とひと呼吸おける材料になれば」
■神の力が宿ったチラシの効果は…?
実は、高井戸署管内ではことしはじめ、1月のたった1か月で8件の被害が確認される事態となっていた。
そんな中翌月から「禍散(まがち)らし」の配布を始めると2月の被害は3件に減少、3月は1件に抑え込まれたという。
御朱印ブームに目を向けた高井戸署の作戦が、功を奏したのだろうか。
■御朱印風のチラシは他にも…
実は、御朱印風のチラシは、ほかにもいくつかある。千代田区にある日枝神社は麹町署と、台東区にある下谷神社は上野署とタッグを組んでいる。いずれも歴史ある神社ばかりだ。
デザインや紙の大きさは様々だが、いずれもそれぞれの警察署と神社のこだわりが詰まった御利益がありそうなものばかりとなっている。神様は信じてもどうか詐欺グループの話は信じないでほしい。御朱印風のチラシにはそんな思いも詰まっているのかもしれない。
写真提供:警視庁・高井戸署