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子の選択狭める「ジェンダートラッキング」

2021年6月30日 15:46
子の選択狭める「ジェンダートラッキング」

性別にまつわる偏見や思い込み「ジェンダーバイアス」が生む弊害には、様々なものがある。中でも、子どもの将来へ影響を与えてしまうのが、「男性だから」「女性だから」と可能性を狭めてしまう「ジェンダートラッキング」だ。

■大人のバイアス発言が、子どもの将来の選択肢を狭めることも

周囲からの刷り込みや決めつけが強い環境で育つと、その子の将来にまで良くない影響を与えてしまうことがあるという。作家・コラムニストの犬山紙子さんは、小学校時代に言われた「女の子なのに」という言葉を、いまも鮮明に記憶しているそうだ。

「子どものころ算数が得意だったんですね。それで大人から『“女の子なのに”算数が得意なんて凄いね』と褒められました。その頃は深く考えず、素直に受け取って喜んでいたんです。でも、その後に男の子に算数のテストで負けても、あまり悔しくないというか、『相手は男の子だから仕方ない』と納得している自分がいました」

これもジェンダーバイアスの一種で、知らず知らずのうちに自分の可能性にストッパーをかけてしまった事象といえる。

日本テレビ解説委員で、大学院でジェンダーを研究している小西美穂が解説する。

「犬山さんの話は『ジェンダートラッキング』と呼ばれる例に当てはまります。たとえば、陸上競技のトラックで、男性と女性の走るコース、トラックが分けられているものとイメージすれば分かりやすいでしょう。親御さんや先生が、自分たちが持つ大人のバイアスによって、“能力の方向付け”をしてしまうことで、子どもたちも影響を受けてしまうのです」

たとえば、「女子は算数が苦手」や「女子は理系が不向き」であったり、「女の子は愛嬌があれば、勉強なんてしなくても良い」といったことを、周囲から言われ続けるとする。すると子どもの頭の中でも、「勉強なんて頑張らなくてもいいんだ」「数学は女性に向いていないのね」といったバイアスが掛かってしまい、関心が薄れて努力をしなくなってしまうことがあるという。

ジェンダートラッキングは、子どもの選択肢を狭める。本当はやる気や能力があっても、伸びしろを短くしてしまったり、才能の芽を摘み取ってしまったりというリスクがあるのだ。「男性脳」「女性脳」なども、同様に“トラッキング”してしまう言葉だろう。大人としては、根拠のない決めつけだけはしないよう意識しておきたい。

■ジェンダーにまつわる偏見を克服するために

ジェンダートラッキングが与える影響は、女性に限った話ではない。男性に対しても、同様のリスクがある。

サッカー元日本代表の中澤佑二さんは「小さいときは泣き虫だったので、よく『男なのに泣くな!』と言われたり、サッカーの練習中に走らずに歩いてしまうと、『男なのに歩くな!』と怒られたりしていました」と回想する。

お笑い芸人・チュートリアルの福田充徳さんも「自分も子どものころは、『男なんだから泣くな』『男なんだからこのくらいはできるだろう』と言われてきました」と共感する。

そうした言葉をきっかけに強くなれたという面もあるかもしれない。だが、ジェンダートラッキングに由来する悪影響もあるようだ。「“男なんだから”強くあらねば」という思い込みが行き過ぎて“弱音”が吐けず、メンタルに負担がかかってしまうこともあるという。

あるいは、男性が子どもと過ごす時間を確保するために、育休を取りたいと思った場合。制度も確立され、本来なら負い目を感じることなく育休を取得できるはずなのに、なぜかハードルが高いように感じてしまう。これこそ、ジェンダートラッキングの呪縛ともいえるだろう。

では、こういったジェンダートラッキング、ジェンダーバイアスを乗り越えていくには、どうすればよいのだろうか。小西が、ひとつのヒントを示した。

「『男なのに』『女なのに』という言葉が出たときに、『大丈夫かな』と考え方を点検することが大切です。『やっぱり男は』『やっぱり女は』という会話になったときも、そのあとにどんな言葉が続くのか、自分でレビューしてみるとよいかもしれません」

バイアス、つまり偏見については、普段の会話の中では、議論しづらい話題かもしれない。だが、ジェンダーバイアスを克服することで、生きやすくなる人はきっと増えるはず。「女性だから」「男性だから」と、性別で分けて考えるのではなく、まずは目の前にいる一人ひとりの個性と向き合うことが大切だ。

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この記事は、2021年3月27日に配信された「Update the world #3 ジェンダーバイアス」をもとに制作しました。

■「Update the world」とは日本テレビ「news zero」が取り組むオンライン配信番組。SDGsを羅針盤に、社会の価値観をアップデートするキッカケを、みなさんとともに考えていきます。

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