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ジェンダー特集に「かつてない難しさ」

2021年6月12日 13:00
ジェンダー特集に「かつてない難しさ」

老舗ビジネス誌「週刊東洋経済」(6月12日号)が創刊以来初めて「ジェンダー」をテーマに特集を組んだ。編集部に読者の反響を取材すると、そこにはジェンダーに関心の薄い“粘土層”の実態が。「編集はかつてないほどの難しさがあった」という同誌編集部の大野和幸編集委員に「news every.」キャスター小西美穂が聞いた。

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■老舗ビジネス誌で異例の「ジェンダー」特集■

――経済誌としては異例のテーマに挑まれたと思いますが、どんな経緯があったのですか?

弊誌は1895年(明治28)11月創刊で去年125周年を迎えましたが、「ジェンダー」の特集は一度もありませんでした。従来の「男らしさ・女らしさ」や凝り固まった男女の役割を再度問い直してみようと会議にかけてみたら、女性の編集部員が賛同してくれた形です(編集部15人中、女性は3人)。

――男女格差のデータや、専門家の意見も読み応えがありました。

人材不足、低い生産性の改善、経営や事業への多様な視点の取り込みなど今の日本に女性の力は欠かせません。感情的な議論ではなくて、これからは女性の活躍を推進することが企業や経済にとっても重要なんだというメッセージを届けたいと、今回は一貫してその姿勢でのぞみました。

■“粘土層”(40代、50代の中間管理職)の反応が弱かった■

――反響はありましたか?

ジェンダー問題に関心のある方、メディア関係の方の反響は大きかったです。「よく書いてくれた」「勇気があった」と。ある上場企業の社長からは「ジェンダー問題は現代日本の最大の課題で、よくぞ真正面からとりあげてくれた」とお褒めの言葉もいただきました。

トップの方には意識の強い方がいっぱいいるんです。ただ、実際に現場にいる中間管理職とか、よく“粘土層”という言い方をしますけど、ここの意識、反応が弱い。やはり他人事だと思っているんですよね。頭では理解しているんですが、まだまだ自分には関係ない、というか…。

■売り上げは減…「中高年男性に響かない」■

――ズバリ、売り上げの方はいかがでしたか?

数字は低かったです(苦笑)。通常号に比べて、うちのメイン読者である中高年男性読者の購読は減っていましたね。

――えっ、もっと反響があるものと思っていました!

実は私もそう思っていました(笑)。願望と結果は一致しないんですよ。特にうちのような企業、ビジネスパーソンを相手にしている雑誌ですと、メインの中高年の男性層はなかなかジブンゴトとして響かないんだと思います。さらにここ1、2年はコロナ禍もあり、将来の理想より目先のことに関心があるのではないか、とも思いますね。ジェンダーに関してすごく反応してくれる人、声を上げてくれる人もいるんですが、全体から見れば数は少ないんだと思います。

■かつてない難しさ…「気をつけていても“男性目線”に」■

――大野さんご自身も初めてジェンダーの問題を取材されたと思いますが、制作過程ではどんなことを感じましたか?

これまで数多くの特集を手掛けてきた私にとっても、かつて経験したことのないような難しさがありました。いろんな表現、言動に気をつけたつもりでも、結果として男性中心の目線になっていて。女性陣からの反発が正直ありました。無意識の偏見って、この号のなかで使っていますが、悪気はないんだけど人を傷つけてしまったり、怒らせてしまったりと。自分でも相当気をつけているんですけどね。

たとえば、「女性管理職が増えることで(多数という意味での)男性優位社会は幻想になるか」とタイトルをつけたんです。そしたら、女性陣から「それは男性優位社会が幻想になることを残念がっていると思われるのでは」と。私はそんな気持ちでタイトルをつけたわけではないんですよね。男性優位社会はいずれ終わるというメッセージのつもりなんですが。

また、サブタイトルに「あなたの振る舞い、大丈夫?」とつけたら、これも女性陣から「大丈夫かどうかという技術論ではなくて、意識から変えないといけないんじゃないですか」「怒られるから、叱られるから、仕方なくやるんじゃなくて、心の底から納得して行動しない限り本当の解決にはならないです」と。

こういうこと、ひとつひとつでしょうかね。こちらが思っていることと、向こうが思っていることは必ずしもリンクしないんだなと痛切に感じました。炎上CMもそうですが、「昔はOKでも今はNG」という表現は想像していた以上に多く、おそらく何が正解かは時代によって変わるのでしょう。“人権感覚”をつねにアップデートし続けていくことの必要性を痛感しました。

■“摩擦を覚悟”したうえでトップが変える■

――ジェンダーギャップの問題は女性だけの問題ではなく、男性も一緒に考えていきたいですよね。今回の気づきやご苦労から、男性を巻き込んでいくにはどうしたらいいと思いましたか?

まずはトップの意識が変わるのが一番大きいと思います。トップがたとえば部長なり、もっといえば役員に女性をすえてしまうというのもひとつの手だと思いますね。

自分の座る椅子(ポジション)がなくなってしまう人たちからの嫉妬もものすごいし、抜擢に対しては(「実力以上なのではないか」と)揶揄する反論もあると思いますが、ある程度の反発や摩擦を覚悟のうえで、トップが人事なり評価なりで、女性を登用することが大事だと思いますね。

――きょうは編集部内の「摩擦」も根掘り葉掘りとうかがってしまいましたが、記事にしても?

わかりました。これから企業の現場でも同じようなことが起きてくると思います。見本になるかどうかわかりませんが、これもひとつの現実だと受け止めていただければ結構です。

■大野和幸(おおの・かずゆき)
週刊東洋経済編集部編集委員。東洋経済新報社入社後、精密、コンピューター、通信、銀行、自動車、エネルギーなどの業界を担当。2014年7月からニュース編集部編集長。東洋経済オンライン編集部長、週刊東洋経済マンスリーエディション編集長を経て、現職。企業・産業取材生活約20年。

■聞き手 小西美穂(こにし・みほ)
日本テレビ報道局DX取材部解説委員・「news every.」キャスター

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