“卵子提供”で出産「ここに来てくれる子が我が子」「隠すこともない」――夫婦の思い 法整備なし…リスクと「出自を知る権利」は?
卵子や精子の提供を巡り、日本では法整備が進んでいません。子どもが遺伝上の親を知る「出自を知る権利」をどう保障するかも課題です。不妊治療の末に卵子提供で子どもを授かった夫婦や、リスクがありながらも卵子を提供した経験を持つ女性に取材しました。
■ネットで偶然見つけた「卵子提供」
去年、子どもが生まれた宮城まこさん、たかしさん夫妻(ともに仮名)。9年間の不妊治療の末、卵子提供で授かりました。
まこさん
「何回も数え切れないくらい体外受精チャレンジして、全くだめだったんですけど」
30代にもかかわらず、卵子の状態は閉経前の50代とほぼ同じでした。不妊治療を諦め、養子を迎えることも考えていた時、偶然ネットで目にしたのが卵子提供でした。
まこさんは「日本でもできるのかなと思って、ワラにもすがる思いで電話した」。夫のたかしさんは「不安な部分も抱えながら、親になるっていう夢は夫婦共々捨てきれないところがあったので」と振り返ります。
「血縁関係はないかもしれないですけど、生まれてきた時のあの瞬間は今でも忘れられないくらい、もう幸せです」とまこさんは言います。
■提供者と生まれた人をつなげる団体も
卵子や精子の提供については「血のつながりを重視すべき」など、倫理的な観点についてさまざまな意見が相次ぎ、日本では法整備が進んでいません。
特に、生まれた子どもが遺伝上の親について知る「出自を知る権利」について国の議論は20年以上進んでおらず、法的な取り決めがないことが問題視されています。
宮城さん夫妻が提供を受けるため登録したNPO法人「OD-NET」では、出自を知る権利を守ることを重視し、子どもが望めば提供者の情報を開示する可能性があることを理解した人のみが、登録を行えるようにしています。
また11日、卵子や精子の提供によって生まれた人たちと提供者を結びつけることを目的とした民間団体「ドナーリンク・ジャパン」が発足。精子提供で生まれた当事者らが立ち上げたもので、過去に提供した人や生まれた人に、任意で登録を呼びかけるということです。
■提供した女性「何か力になれるのでは」
これらとは別の機関でドナー登録し、卵子提供を経験した20代のゆうさん(仮名)に話を聞きました。
提供のきっかけは、現在結婚願望がない上、卵子は正常なものの排卵数が少ないため、医師に「妊娠しにくい体質」だと言われたことでした。
ゆうさん
「結構自分的には青天の霹靂だったので…。自分の卵子を提供して(子どもができない人の)何か力になれることがあるんじゃないかなと」
提供するまでには、通院し、卵子を育てるため自己注射や薬の服用をする必要があり、自身の体へのリスクもあります。それでも、子どもの「出自を知る権利」についても理解した上で卵子提供をしたといいます。
ゆうさんは「やっぱり(出自を)知りたいと思うのは自然なことだと思いますし。私は要望があれば応じたいなと思っています。(ただ)親ではないと言うと思います」と語ります。
「あなた(子ども)を生みたいと思ったのはそのご夫婦ですし、育てたのもご夫婦ですし」
■学歴や容姿によって報酬「数十万円」も
現在、金銭の授受に関しても法的な決まりはなく、仲介する団体によっては卵子提供者の学歴や容姿によって数十万円の報酬を支払うケースもあります。
法的な規制がないまま技術や実態だけが進んでいることを、子どもを授かった宮城さん夫妻はどう感じているのでしょうか。
たかしさん
「悪用されないような法律を整備してもらって、広く認められることが大事かなと」
まこさん
「隠すこともないし、別に悪いことをしているわけでもないし。小さいうちから、『卵を分けてくれたお母さんがもう1人いるんだよ』っていうのは、早い段階で伝えようと思っています。ここに来てくれる子が我が子って、2人で思ってるんで」
■辻さんに聞く…ルール作りの課題
辻愛沙子・クリエイティブディレクター(「news zero」パートナー)
「苦渋の決断で選んだことだと思いますが、愛情を持って生み育てている事実が何より親子たり得ている証ですし、血のつながりだけが全てではないなと改めて思いました」
「一方で、子どもが出自を知る権利も当然あるべきですし、提供者側の身体的リスクや倫理面などクリアできていない課題も多々あります。求める方の気持ちや痛みがあるからこそ、営利目的で提供している仲介事業者さんには、抵抗感が個人的には少しあります」
「提供する側、される側、そして生まれてくる子ども、それぞれのケアが一番大事かなと思います」
有働由美子キャスター
「辻さんおっしゃるように、とにかく生まれてくる子どもが幸せであることが一番大事なので、そこを外さないルール作りを考えていかないと、と思います」
(4月12日『news zero』より)