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体罰・暴言のない子育て 尾木直樹さん 前編「自己肯定感が高い子は、挑戦意欲高い」

2022年4月28日 19:28
体罰・暴言のない子育て 尾木直樹さん 前編「自己肯定感が高い子は、挑戦意欲高い」
教育評論家の尾木直樹さん

子どもを怒鳴る、お尻をたたく、兄弟姉妹と比べて何であなたはできないの?と言うなど、かつては「愛のむち」とされてきたこれらも、体罰・暴言にあたり、2年前(2020年4月)からは児童福祉法で禁止されています。来週のこどもの日を前に、40年以上教育現場に携わってきた教育評論家の尾木直樹さんに聞きました。

(前・後編 の前編)

──激しい叱責や体罰がなぜいけないのか、昔は当たり前だったと思う人もいる。

昔は子どもの人権とか子どもを尊重しようという精神が国際的に見ても弱かったんです。親は子どものためを思って激しい叱責やお尻ペンペンするけど、子どもはその場をしのぐため、怖いから従うだけで、親の愛情とか指摘された内容は伝わっていないんです。そして、叱ることは効果がないばかりか、激しく叱られていると脳が萎縮するとかが可視化できるようになり、子どもの脳を傷つけることがわかってきました。

──「怒る」と「叱る」は違うとおっしゃっていますが

「怒る」は感情的。「叱る」は理性が働いて、親は感情に覆われてはいない。「交差点で止まって左右を見る」を習得させないと、この子の命を守れない、理性的に伝えようというのは、コントロールが利いている。教育的な営みとしての「叱る」は感情に任せた「怒る」とは違います。

──親も余裕がない中どうすれば。

子育ての一義的責任は家庭にあると法律に書いてある。僕、非常に違和感があって「違うんじゃないか」と意見を表明したんですけど。社会的に親を支援する体制があって初めて、感情でなく「叱る」ができるようになる。「子育ては親の責任」と言われ、責任を感じたら怒っちゃいますよ。

──よく「子どもをほめましょう」と聞きますが

僕が教師時代、家庭訪問で「お子さんのいいところ3つ教えて下さい」と聞くと「悪い点ならいくらでも言えるが、褒めるところはない」と言う親御さんがほとんどでした。人との比較で考えて「うちの子は足も速くない、勉強は下位だし、皆から好かれているような特徴もない、ほめるところない」と。僕、最近は「ほめる」を「認める」に置き換えてみたら?と言っています。例えば、学校を休みがちな子が朝10時に起きてきたら「あら、午前中に起きたね」と認めればいい。できていることをそのまま音声にして子どもに返してあげる。成果があるから「ほめる」でなく、できていることを「認める」ことで、十分かと思いますね。

95点取っても「1問ケアレスミスしなきゃ100点なのに」と言う親もいますが、すると、子どもは100点だけが良いと思っちゃう。アメリカでの実験で、難しい問題と基礎問題を、よくできる子のクラスと普通のクラスに配り、「好きな問題をやりなさい」と言った。すると普通クラスの子は難しい問題に挑戦する。「よく挑戦したね」と先生がほめてくれるから、挑戦する心を大事にしているが、「頭がいい」とほめられているクラスは易しい問題を選ぶ子が多かったそうです。良い点をとらなきゃと思うからでしょうね。親や先生は、何点という結果より、挑戦したプロセス、努力を見て「今までは試験前に勉強しなかったのに、するようになったね」とか認めることが重要。でも声かけが難しいですよね。僕ら刷り込まれていますから。80点より100点がいいとね。

──学校やスポーツなどの習い事でも、激しい叱責や大人が決めて子どもは黙って従うのが効率的な指導と思われがちです。

本当にそう。でも東京オリンピック見るとずいぶん変わってきていますよね。練習方法もコーチとの関係なんかも。根性論とか体罰、恫喝でなく、選手の意見を尊重し、色々な機会を選手に与えた方が成績も残すし、伸びやかだということが広がっていくと変わってくる。国際的に活躍した人が最新理論を学んで、伝えることでも変わると思います。

──虐待はしていないという親でも、言うことを聞かない子をベランダに出すとか、きょうだいと比べて「あんたはダメだ」と言うことがある。これもやめた方がいいですよね

結局ね、個人を尊重しないやり方だと子どもの心を傷つける。例えば面前DV(家庭内暴力)といって、子どもの前で夫婦げんかでたたくなんかも心理的虐待だといいます。そして子どものお尻ペンペンとかベランダに出すとかで、親を怖い対象として捉えてしまった時、それは虐待、体罰と言ってもいいのかもしれない。

では、どうすればいいのかというと、たとえば「優しい口調で、子どもと同じ目線までグーッとしゃがんで話しましょう」とか、具体的な講習とかがあるといい。絶対に親を追い詰めないことが大事です。子どもを激しく怒るなといっても、自分がされてきたことがいつの間にか出る。虐待は連鎖すると言われることもありますけども、虐待とまで言わなくても、やり方は引きつがれると思います。そういうものを変えていく、違う方法を編み出していく開拓者精神を親や先生方は持ってほしいなと思いますね。

そして、意見を尊重して聞いてもらえた子は、必ず人の意見を聞く耳を持ちますから、そういう良い体験を、親も子も一つでも多くしていただきたいと思いますね。

もう一つね、聞いてもらえた、受け入れてもらえた体験が自己肯定感を高めるんですよ。自己肯定感が高い子は、挑戦意欲があるし、人に優しくなるし、いじめの加害者なんかにもなりにくいと思います。何かができたから偉い、できないから駄目じゃなくて、ありのままを受け入れてもらうと、自己肯定感が高まる。元気が出るんです。でもなかなかね、ありのままを受け入れるのは難しい。親はちゃんと育てなきゃと責任を感じているから。これがじいちゃん、ばあちゃんになると結構できる。僕もおじいちゃんになって、なんて楽だろうと思いました。(孫が)何をしてもかわいい。子どもにとっては「同じ大人でも、じいちゃん、ばあちゃんと親では愛の表現が違うんだな」と知るのも学びだとは思いますが、丸ごと認めてくれる環境にいると子どもはのびのびするんです。

──子どもたちにメッセージを

コロナ禍で学校行事がいろいろなくなって、短大生とかは2年間ずっとリモート授業で、就活もオンライン。子どもはすごい我慢し、被害を受けている。でもここを生き抜いている君たちは大人からも社会からもリスペクトされていい。本当に。だから自信を持って発信してほしいし、受信は、友達5,6人の中だけでなく、スマホなどを使って世界と繋がって、いっぱい情報をつかみ、自分の思いを発信し、広がりを持ってほしいですね。