×

中村莟玉 コロナ禍の舞台に挑み続ける思い

2021年7月24日 14:44
中村莟玉 コロナ禍の舞台に挑み続ける思い

昨年8月、歌舞伎座の公演が再開され、まもなく1年を迎えます。座席使用数を従来の50%にし、三部制の公演(各部総入れ替え)など感染対策を実施し、今月も「七月大歌舞伎」の幕が上がりました。そして第二部『身替座禅(みがわりざぜん)』で初めての役に挑戦している歌舞伎俳優・中村莟玉さんに話しをお聞きしました!前回のこの企画で取材した先輩・中村米吉さんの発言に“反論”も……。そしてパンダの話題も聞きしました。

■芝居は、大先輩・松本白鸚の背中に学ぶ…

――「七月大歌舞伎」幕が開いてから日も経ちましたが、いかがですか。

「まだ客席も100%入れられる状態ではないんですけども、お客様が来てくださって。演目としては僕が出演しています第二部は見やすいというか親しみやすい演目で、かつ“歌舞伎み”のある演目なので楽しんでいただけているんじゃないかなと思っています」

「今回のお役は初役で、意外と若い年代のときにさせていただくことが多いお役ではあるみたいなので“あっそうなんだ、初めてなんだ”ってまわりの方から言われる“、そういえばやっていなかったんだね”みたいな感じで……」

「(松本)白鸚のおじさまも(初役で)初めて手がけられる。大先輩でいらっしゃるんですけども、まだ今までやっていなかった役にも挑戦してみたいっていうふうにおっしゃっていて。それだけの先輩になられたらもうご自分の勝手がわかっているものっていうことだけじゃなくて、まだ挑戦する、っていうその場所に一緒に出させていただけるっていうのがすごくありがたいなと思います」

そして今回の演目では、同世代の中村米吉さんと共演しています。同じく侍女の先輩・後輩というお役。教えてもらったことを聞くと。

「我々“芯の型”って言いますけど、その主役をなさる方のお家だとかによって演出が細かく違ってきますので、そこを“この先輩は今度この人の型でやるから、この人のバージョンだとこうだよ”っていうのを教えてくださいます」

――米吉さんといえば、半年前の取材でインスタグラムをはじめ何を投稿するか悩んでましたが…。

「まぁ、米吉先輩はですね、なんとなく僕のことを“あいつはあざといやつだ”、みたいな感じで……それはもちろんかわいがってそう言ってくださっているんですけども。歌舞伎を応援してくださっているお客様たちからすると、米吉さんも十分あざといポジションというか(笑)」

米吉さんは、個性を出すためハッシュタグ“甘いものは世界を救う”とスイーツ好きをアピールしていました。

「『#甘いものは世界を救う』って。そんなあざといワード、僕は使ったことがないと思って。いやー、それの方があざとくないですか?分かんないですけど、どうですか?(笑)」

突っ込みつつも、学生時代からお世話になっていて、“先輩だけれど、聞きやすい”と、とても慕われていました。そして話題は、莟玉さんが愛してやまないパンダへ……。

――上野動物園に6月23日、双子の赤ちゃんパンダが誕生しましたね!

「無事によくぞシンシン。本当に頑張りました!安定期に入るまでが難しいんだっていうことは予備知識としてあったので、どうか無事にというような感じで願っていましたし、ついに上野動物園でも双子パンダが見られる時が来るんだなぁと思って!」

「もう、名前どうしようかなって。皆そうだと思うんですけど、いやもうシャンシャンっていうね、もうお姉さんになったんですけど、シャンシャンって名前は強烈じゃないですか。やっぱり。字も音もいいし、いかにもそういう感じに育って……」

 “パンダ愛”が止まらない莟玉さん。話す姿はまるで専門家のようでした。そして今回、ご自身が使っているブランケットやクッションといったパンダグッズも紹介してくださいました!

■「この時期じゃなきゃ……そこを楽しんでいただけるようならいいんじゃないかなと」

――コロナ禍での公演も約1年、楽屋での過ごし方については。

「コロナ禍になるまでは、あまり楽屋で声出しとかで窓って開けていなかったんですけど、今はずっと開けっ放しですし、そういうところは前、やっていなかったなって思うところですね」

先輩方への挨拶もできず、心苦しいけれど仕方がない。そう心境を明かしていた莟玉さんですが、今回はご本人にカメラで楽屋の様子をリポートしていただきました!

「鏡台は莟玉の名を披露したおりに作っていただきました。そして(養祖父)六世中村歌右衛門が持っていたぬいぐるみをお守りとして楽屋に置いています。(舞台に)出る前なんとなく“行ってきます”とやって出て行くというのが自分の中のルーティーンでございます」

“中村莟玉”を披露した際の思い出のものや、先輩役者からのプレゼント、莟玉さんにとってのお守りなど……たくさんのストーリーが詰まっていました。

――2021年も下半期、振り返ってみて。

「今、まだ『再開してから行きたいけど、行けないんだよね”って思っているお客様もいらっしゃると思うんですけれども、今だからこその楽しみ方とか演目立ても含めて、なんとなくお客様が“あ、なるほどね』って思っていただける方向に徐々に徐々に形が出来上がっていきつつあるような感じはします。この時期じゃなきゃ、逆にこの配役とか、演目立てって無かったよね、難しかったよねっていうふうに、そこをお客様が楽しんでいただけるようならいいんじゃないかなと思います」

――最後に、歌舞伎が初めての方にもわかる、“実はこれは歌舞伎から生まれた言葉!”というものがありましたら、教えてください!

「“差金を引く”。こういう事件があって、裏で差金を引いていた(影で操っていた)のはこの人だ、黒幕はこの人だ、その“差金”っていうのは、歌舞伎で“黒は見えない”っていう意味なので、後見(こうけん)さんとか黒衣(くろご)とかがこうやって……(動作で説明)例えば、黒い竹棒の先にチョウがついていて(飛んでいる姿を表現する)、これ差金っていうんですよね」

◇◇◇

古典の演目であり、基礎的なことができないと難しい役だからこそ、改めて勉強をしなおす気持ちで初めての役に向き合っていると語る莟玉さん。コロナ禍での公演で最初はハラハラもしたけれど、何とか1年続けられたことは“成果の一つ”。今の三部制だからこそ初めて見てくださる方には“プレゼンテーション”しやすいのではないか、その前向きで、一歩ずつ着実に歩みを進めていこうという力強さが印象的でした。双子の赤ちゃんパンダの成長とともに、莟玉さんのお芝居への熱い思いに注目です!

【中村莟玉(なかむら・かんぎょく)】
2006年に中村梅玉の部屋子となり、中村梅丸を名乗る。2017年に名題適任証を取得。2019年10月に梅玉の養子となり、11月に中村莟玉の名を披露した。

【市來玲奈の歌舞伎・花笑み】
「花笑み」は、花が咲く、蕾(つぼみ)がほころぶこと。また、花が咲いたような笑顔や微笑みを表す言葉です。歌舞伎の華やかな魅力にとりつかれた市來玲奈アナウンサーが、役者のインタビューや舞台裏の取材で迫るWEBオリジナル企画です。