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バンクシーって誰?展 美術担当のスゴ技

2021年10月16日 12:00
バンクシーって誰?展 美術担当のスゴ技

東京・天王洲で開催中の「バンクシーって誰?展」。会場内は全て撮影可能で、SNSで連日多くの写真が投稿されています。この展覧会の特徴は、ストリートアートの“作品”だけでなく、描かれた町並みごと美術セットで再現してしまったこと。前代未聞の試みはどのように実現したのか?担当者が明かす「普通は気づかない、細かすぎる」こだわりも聞きました。

■美術展に携わることは異例 テレビの美術スタッフ本気の挑戦

「バンクシーって誰?展」の大きな特徴は、ストリートに描かれたバンクシーのアート作品を、描かれた町並みごと再現してしまったこと。担当したのは、普段美術展を担当することはほとんどない、テレビの美術セット担当者たちでした。日テレアート美術デザイン部長の大竹潤一郎さん、セットデザインを担当した北村春美さん、高橋太一さんに聞きました。

■来場者を驚かせる「傾いた町並み」実現までの苦労

会場に入ると目に飛び込んでくるのは、バンクシーのルーツであるイギリス・ブリストルの町並みの壁に、くしゃみをする女性が描かれた「Aachoo!!」のエリア。オリジナルは急な坂道沿いの壁に描かれた作品ですが、この会場では建物全体が傾いた巨大セットで表現されています。その光景は、一度見ただけでは気づかない“プロのこだわり”で実現していました。

大竹さん「これだけ大きいものが斜めになっているというのを最初に見せるというのは決めていました。会場に入った時に一番インパクトがある形にしたい、と。建物は14度傾いています」

――細かいこだわりは?

「建物の窓にブラインドやカーテンがかかっているんですけど、それらも重力に逆らって斜めになっています。そのままかけるとまっすぐ下に垂れ下がってしまうので、板にカーテンを貼り付けているんです」

高橋さん「セメントが風化してにじみ出しているところなど、経年劣化や雨風による汚れを出す“エイジング”という作業を絵の具を使って行う時に、重力に沿って垂れていってしまうので、一度傾けたものを垂直にして、エイジングをしてから乾いたら戻す、という手間をかけています」

■担当者の尽力で実現 「本物の警報器」を取り寄せた

フェルメールの名作「真珠の耳飾りの少女」をモチーフにした「Girl with a Pierced Eardrum」(通称「鼓膜の破れた少女」)。壁にもともとあった警報器を耳飾りに見立てたバンクシーの代表作ですが、ここにも美術スタッフのこだわりがありました。

北村さん「警報器の部分を当初は作ろうかと思っていたんですけど、装飾部の担当者がイギリスに住んでいる友人を頼って、現地で実際に使われている警報器を取り寄せて、そのものズバリの本物を使っています。本物があったほうが、やっぱりよりリアルで盛り上がるかなって」

■マンホールの“砂”から現地の空気を感じてほしい

北村さんがこだわったもう1つのポイントは、中東パレスチナの町並みに描かれたハトが描かれた作品…の足元にありました。

北村さん「床にマンホールがあるんですけど、ストリートビューで見て実際に近いものを作り出して。高温で乾燥した砂ぼこりが舞ってそうな感じをイメージして、マンホールの溝の部分に砂をまいて溝に砂が入り込むようにしたんです。現地の気候を感じるような感じにしたいと思っていて、そういう細かいことをするだけでリアルさが増すので」

■ゴミ箱の中に至るまで 細部にこだわった世界観

普段はバラエティー番組や、テレビドラマのセットを作っているチームだからこそ、応用できた技術もあったそうです。

大竹さん「今回は街の中にいる感じを出したいということで、捨てられた空き缶やたばこの吸い殻が置かれる場所なども決めています」

「空き缶は、普段のドラマの中でもスポンサー対策のためイチから作っているので、そのネタを応用しました。今回は舞台が海外なので、ゴミ箱の中に至るまで、日本語が書かれたものが出てこないようにしています」

■全て撮影OK SNSで「かっこいい写真をあげてほしい」

一方で、普段の撮影では求められないリアルさを追求した部分も。電話ボックスを囲むようにスパイ風の男たちが描かれた「Spy Booth」で苦労したのは、作品の手前に生えていた「木」でした。

大竹さん「実際の現場にも木が生えていて、それを再現しようとしました。長期の展示のため本物が使えないので、作り物の葉を使うのですが、普段ドラマなどで我々がつける時は、大型ホチキスや針金で結んでしまう。今回は近くで見られるものなので、造園担当のスタッフが幹になる木に穴をあけて、葉っぱを突き刺して止めています。あまりに自然で見ている皆さん気がつかないのですが、すごいこだわりで、僕自身もすごく良くできてるなと思いました」

多い日では30人以上の美術スタッフが、約20日かけて作り上げた今回の展示。東京会場での会期は12月5日までです。

大竹さん「インスタで皆さん思い思いに写真を撮ってあげてくれているのを見ています。セットの写真アップしてくれる人がすごく多い。かっこいい写真を撮ってあげてくれると嬉しいですね」