新制作バレエ「白鳥の湖」衣装合わせ密着
今月23日、新国立劇場バレエ団の「白鳥の湖」新制作ピーター・ライト版が初日を迎えました。新型コロナウイルス感染拡大の影響で去年1年延期となった注目の上演です。その見どころの一つは、ゴシック調の舞台セットや衣装。
吉田都(よしだみやこ)芸術監督
「本当にイギリスらしい独特なゴシック調で、ちょっと暗いんですけれども、でもとても重厚な仕上がりになっているので、華やかなっていう感じとはまた、印象の違う、シェークスピア劇を見ているような舞台になっています」
イギリスの名門ロイヤル・バレエ団で長年プリンシパルを務め、世界的に知られるバレエダンサー・吉田都芸術監督が、衣装で特にこだわったのは“重さ”。素材の進化により昔のものに比べ軽くなりましたが、重厚感を出すために“あえて重くした”ものもあるといいます。
9月上旬、新国立劇場のリハーサル室で行われていた『衣装合わせ』の現場を取材しました!
◆オデット(白鳥)/オディール(黒鳥)の衣装はいかに…
普段はクラスレッスンやリハーサルが行われている部屋の隣に、ずらりと並べられた衣装や頭飾り。新制作ということで、今回、衣装は全て新しく作られました。これらは職人による手作業で作られ、コロナ対策として、同じ役でもシェアせず、ひとり1着用意されたということです。
この日、衣装合わせにやってきたのは、オデット(白鳥)/オディール(黒鳥)役の米沢唯さんと木村優里さん。
まずは、オデット(白鳥)の衣装を試着。オデットの衣装は羽がたくさん付いているデザインが多いのですが、今回はシンプルな作りとなっています。
次にオディール(黒鳥)の衣装。こちらはアンティークな雰囲気になっています。
32回連続回転の大技、グラン・フェッテの際にチュチュ(スカート部分)が揺れないよう確認作業が行われていました。ミリ単位で調整することで、その人にフィットし、舞台上でより美しく見えるということです。
また、吉田都芸術監督のこだわりは頭飾りにも。大きさを何度も調節し、全体のバランスが一番よく見えるサイズを追求したといいます。
オディール(黒鳥)のティアラを付けた木村優里さん
「付けたことがないタイプの頭飾りで、宝石がこんなに豪華で。これに負けないように頑張りたいと思います」
◆マントの重さはなんと…〇キロ!
吉田都芸術監督のこだわりは衣装の“重さ”にもありました。
吉田都芸術監督
「役柄によっては、逆に軽すぎると、振り返ったときにふわっと浮いてしまって。やはりあの重さが必要だったんだなというのが理解できたので、逆に重くしてもらったりもしました」
そこで、一体どのくらいの重さなのか量ってみることに。舞踏会のシーンで悪魔・ロットバルト男爵が身につけるマント。これを量りに載せると…なんと5キロを超えていました!
重い衣装を着て踊るには、衣装に振り回されないように、体幹の強さが必要になってくると、吉田都芸術監督は話しています。
◆
国王の葬儀から物語が始まるピーター・ライト版の「白鳥の湖」では、“喪服”をイメージさせる黒い衣装が多く登場します。物語の冒頭の葬儀シーンで登場するシスターたちは、入団して数年の若手団員のみなさん。貴婦人たちの衣装も黒がベースとなっていて、ひとりひとり少しずつ柄が違います。
王子のお妃候補となる各国のプリンセスたちも、アンティークな色調ですが、キラキラとした素材が使われていて、華やかな雰囲気に仕上がっていました。
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ピーター・ライト版「白鳥の湖」は、吉田都芸術監督が現役時代、イギリスで何度も踊ってきた作品。最初は群舞の白鳥たちに始まり、やがて各国のプリンセス、そして主役のオデット(白鳥)/オディール(黒鳥)を踊ってきました。
吉田都芸術監督の思い出のつまったバーミンガム・ロイヤル・バレエ団の衣装を今回は再現。
吉田都芸術監督
「教会のセレモニー用の生地を使っているなど、今は(初演当時の)生地を入手するのが難しく、生地選びに苦労しました。同じものがないので似たようなものを選んで、という形だったのですが、ここまで(同じように)作ってくださったのは本当に驚きました」
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今回、普段見ることのできない衣装合わせの現場を取材して、衣装についてのこまやかなこだわりや工夫を知り、違った目線からもバレエ公演を楽しめると感じました。バレエの一番の醍醐味は、もちろんダンサーの踊りそのものですが、舞台美術や衣装などが合わさって一つの作品となっているので、ぜひ、そちらも注目してみてください。
以上、衣装合わせの現場からお伝えしました!
(取材:社会部 和田弘江)