“近大キャビア”量産へ向け…常識覆す養殖
クロマグロの養殖などで知られる近畿大学がユニークな養殖に取り組んでいます。量産へと踏み出した“近大キャビア”を取材しました。
近畿大学水産研究所・稲野俊直准教授
「チョウザメは世界的に絶滅しかけている。キャビアを採ることができなくなっている」
将来キャビアが食べられなくなるのでしょうか?そこで考えたのが――
近畿大学水産研究所・稲野准教授
「最初から全部メスにしてしまうことができれば」
オスをメスに変える!?常識を覆す驚きの養殖について、和歌山県新宮市にある近畿大学水産研究所を取材しました。
水槽を所狭しとチョウザメが泳ぎ回っています。近畿大学水産研究所では、1995年からチョウザメの人工飼育に取り組んできました。
チョウザメの卵、キャビアは世界三大珍味の一つである高級食材。しかし、世界中で乱獲が続き1990年に1万8000トンあった漁獲量は激減し、近年はほとんど獲れなくなっています。そのため、世界的に養殖が進められていますが、チョウザメは成魚になっても、オスとメスの見分けがつきにくいという問題があります。
近畿大学水産研究所・稲野准教授
「今まではオスとメスを分けるために、ある程度成長して生殖腺が卵巣・精巣と見分けがつくまで育てて、お腹をちょっと切って中をのぞいて、オス・メスを判別していた。手術ですね、縫い合わせて池に戻すという作業をしていた。大変です。人件費もかかるし、手間も必要なので」
そこで、近大が4年前から研究してきたのが、「チョウザメの体表の粘液を少し採るだけで、オス・メスを見分ける方法」です。生まれて間もない稚魚4匹をランダムに捕獲し、表面の粘液を採取。これだけでオスかメスかが判別できるというのです。
採取した粘液の細胞に熱を加え、DNAを抽出。そこに試薬を入れ、機械にかけてDNAを増やしていきます。それをパソコン上にグラフで表示。線が盛り上がっているのがメス、平坦な線がオスです。
次に取り組んだのが――
近畿大学水産研究所・稲野准教授
「通常の養殖ではオスもメスも両方いるから、半分の魚からキャビアができる。それが全部メスであると、全部の魚からメスができるから(キャビアが)2倍になる」
飼育しているチョウザメすべてを、メスにしてしまうというのです。
魚は、稚魚の間はオス・メスが決まっていないものが多く、成長するにつれてオスとメスに分かれていきます。そこで、チョウザメが稚魚の間に、ある餌を与えることにしました。
近畿大学水産研究所・稲野准教授
「大豆イソフラボンを餌の中に混ぜている。チョウザメは、女性ホルモンでメスにすることができると既に分かっている。マメ科の植物の中には、女性ホルモンによく似た成分が入っている。安全な成分を使って、全部メスにできないかということでやっている」
大豆イソフラボンを、どれくらいの量と期間与えればメス化するのか。稲野さんは濃度が異なる餌を3種類作り試してきました。
近畿大学水産研究所・稲野准教授
「あまり濃いと、チョウザメが死んでしまう」
生後6か月のチョウザメ150匹に、餌を2年間与え続けて観察したところ、試行錯誤の結果、45匹をランダムに選んでお腹を切ったら、すべてメスでした。
近畿大学水産研究所・稲野准教授は、「全世界的にも一番養殖されているチョウザメ。このシベリアチョウザメで、全部メスにすることができたのは、日本では近畿大学が初めて」と話します。
キャビアの量産と、低価格化に道を開く研究成果。近畿大学は、将来的にタラコや数の子、イクラなどへの応用も視野に入れているということで夢が広がります。