「上司と相談」「制度を知る」……男性の育休取得3つのポイント “みんな”が満足できる育児と仕事の両立を目指すには
厚生労働省の調査によると、企業で働く男性の昨年度の育児休業の取得率は30.1%。昨年度を13ポイント上回り、調査開始以来、過去最高となりました。男性育休の日数で最も多いのは、これまでは「2週間未満」でしたが、今回は、「1か月~3か月未満」が約3割と最も多く、次いで「5日~2週間未満」が約2割でした。
厚労省は「男女とも仕事と子育てが両立できるように環境整備を整えたい」としています。では、どうすれば「家族が満足できる育児と仕事の両立」を目指せるのか、産業医で産婦人科医の平野翔大さんに日本テレビの滝菜月アナウンサーが話を聞きました。
■「育休なくして真の育児参加なし」
―――育児と仕事を両立するには、家庭内で育児を分担して行う必要がありますよね。
そうですね。ただ、 実は必ずしも父親と母親が50:50で育児をしなければならないとは個人的には思っていません。女性の方が仕事の優先度が高い家庭もあれば、男性の方が高い家庭、お互いに50:50で仕事と育児をしている家庭など、それぞれのスタイルがあります。
共働き世帯が多い現代ではお互いが理想とする育児と仕事のバランスを理解し合い、納得した上で両立していくことが大事です。どちらかが我慢している場合は、環境や認識を変えていかなければなりません。
―――各々理想の育児スタイルを実現していくには、どうしていけばよいのでしょうか。
育児期間は、親の介助無しに自分で飲んだり食べたり基本的な生活ができるまでに5年、高校や大学卒業まで考えると約20年です。
育休期間よりはるかに長い育児期間を過ごすにあたり、初めの1年はとても大切な“育児の集中トレーニング期間”となります。また、“24時間体制で人手が必要な期間”でもあります。その1年の間に母親だけでなく父親も育休を取ることが非常に重要で、“育休なくして真の育児参加なし”だと思っています。スタートラインを揃えて夫婦の育児スタイルを作っていくことが大切です。
パートナーが風邪でダウンしたり、仕事で帰宅が遅くなったりした時に「危ない目にあわせることなく子どものお世話を行い、家事も全て1人でこなす」ことができなければ育児戦力外だと考えています。育休期間を経ずに、この対応をできるようになるのは相当難しいはずです。いざ対応ができなかった時、父親には任せられない……となり母親に育児が偏った5年10年が始まってしまいます。
―――「私がやるからいいよ……」が重なると、お互いに悪い循環が生まれてしまいそうですね。
育児は先天的にできるものではなく、学習するものです。いきなり育児ができるようになる訳ではなく、母親も父親も一つずつ学んで練習していかなければなりません。
知人に新生児科医と助産師の夫婦がいるのですが、自分の子どもの育児には苦労をしていると言います。プロフェッショナルな2人でも育児は大変なのです。育休を取って育児スキルを集中的に身につけることが大切だと分かっていただきたいです。
■うまい育休の取り方/準備の仕方
―――では、男性が育休を取る際に押さえておくべきポイントを教えてください。
ポイントは3つあります。
①制度を「知る」 ②パートナーと意向を「話す」 ③仕事上のことは「相談」 です。
1つずつ見ていきましょう。まずは、制度を「知る」こと。法律による権利、会社の規則、そして福利厚生等の任意制度を把握することが大切です。正しい情報を知らないと損をしてしまいます。
制度の中でも
1.何があるか…休業休暇制度等を漏れなく把握する
2.誰がどのくらい使えるか…父親も母親も使えるのか、日数・回数はどのくらい?
3.いつまでの申請か…今日困って明日から使える制度か、申請~承認に時間がかかるのか?
4.いくらもらえるのか…有給か無給か、補助がでるのか
この4点を特に把握していただきたいです。
―――制度を正しく把握していれば、いざという時の選択肢が広がりますね。
そうなんです。父親の「子の看護休暇未取得の理由」に関する調査によると、看護休暇をとらなかった理由の第1位は“制度を知らなった”ということなんです(内閣府「平成29年少子化社会対策白書」より抜粋)。知らないと看護休暇を取ろうという選択肢すら持てません。制度を知ることは妊娠中、妊娠前からできます。制度を知らないがゆえに育児と仕事の両立が困難になってしまうこともあるので、まずは制度を知ることから始めましょう。
続いて育休を取る際のポイント2つ目は、パートナーと意向を「話す」ことです。
育児家事の分担の理想や、実家・支援サービスの利用、第二子などの希望の有無は? など家庭内の話から、お互いの仕事・収入に関する話まで、理想だけでなく“不安”についても話していただきたいです。パートナーの不安点が分かると、その不安をどのようにカバーし合うか等、育休をデザインする時の大きな参考になります。
―――確かにパートナーは一番身近な存在だからこそ、相手の意向はこうだろう……という思い込みですれ違ってしまうことはありますね。
まさにその通りで、男女の認識のズレに関する調査によると、男性が想像するよりもはるかに、女性は育休で“周りの申し訳なさ”や“仕事の空白期間”に対する不安を感じていたり、逆に女性が想像するよりもはるかに、男性は育休で“仕事とのつながりが減ること”への不安を抱えていたりすることが分かりました。お互いの不安を話して認識の違いを埋めていくことが大切です。
ここまで「使える制度を知って」、「パートナーと意向を話す」ことができれば、育休の具体的なイメージができ、会社の育休申請もよりスムーズに進められます。
育休取得のポイント3つ目は、計画をもって上司に「相談」することです。
―――育休を取得する男性が増えてきていますが、まだ、会社によっては言いにくいという方もいますよね。
何も述べずに育休申請するよりも、「なぜこのタイミング」で「この期間に取るのか」、育休の目的を分かりやすく伝えられるとネガティブな感情につながりにくいです。また、自分とパートナーの意向や家庭状況は自ら伝えないと見えない部分なので、家庭内で整理したうえで、必要な話は上司に共有することも大切です。
実は、同僚や上司が取ってほしいと思っている育休期間よりも、本人が取りやすいと感じている育休期間は短いという調査データがあります。本当は誰も望んでいないのに、皆がそう望んでいると信じている状態、これを「多元的無知」といいます。
―――その状態だと、本来取れたはずの育休期間よりも短く申請してしまうことになりますね。
こういった誤解を防ぐためにも、家庭やパートナーの状況・意向を整理して、早めに上司へ相談することが大事です。
また、育休は“どのくらい取るか”も大切ですが“いつ取るか”、必要なタイミングで必要な人手があることも非常に大切です。
2021年に産後パパ育休制度ができたことで、分割して育休をとれるようにもなりました。産後すぐの育休は育児へ適応することと、女性は体の回復、男性はパートナーのケアをする目的が大きく、その後に取る育休はワンオペ育児の回避やパートナーの復職時のサポートの目的があります。“何のために取るのか”、目的をもつことが効果的な育休へと繋がります。是非、新しい制度もしっかり把握して活用していただきたいです。
―――「使える制度を知って」選択肢を持つこと。「パートナーと意向を話して」お互いの理想と不安を共有すること。その上で「計画的に職場へ相談」すること。育休は取ることだけに目が行きがちですが、取るタイミングや目的等、様々な視点から考えて準備をする大切さを改めて感じました。
【平野翔大(ひらの・しょうだい)】
産婦人科医・産業医・医療ジャーナリスト。一般社団法人Daddy Support協会 代表理事。「男性育児」「女性の健康経営」「メンタルヘルス」「不妊治療」などについて執筆・講演を行う。