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なぜ日本は“死亡率”低い?免疫細胞に秘密

2021年12月10日 20:10
なぜ日本は“死亡率”低い?免疫細胞に秘密

なぜ日本人が欧米人と比べ新型コロナウイルスによる重症者や死者数が少ないのか――これまで大きな謎とされてきましたが、ついに、その「ファクターX」の解明につながるかもしれない研究結果が発表されました。詳しく解説します。

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■アメリカ・イタリアなどより低い日本の“死亡率”

最新の感染状況についてですが、厚生労働省によると9日時点の全国の重症者数は、前の日から1人増えて27人でした。

最も多かった9月は2000人台でしたので、3か月でおよそ100分の1まで減ったということになります。

続いて、8日時点の各国のコロナによる累計死者数と死亡率について、アメリカは世界で最も多く、およそ79万人が亡くなっていて、死亡率は1.6%です。

ほかの国の死亡率も、イタリアは2.61%、フランスは1.48%、ドイツは1.64%、カナダは1.64%などかなり高い数値となっていますが、日本は死者がおよそ1万8000人で、死亡率は1.06%です。

多くの方が亡くなりましたが、数値上では、欧米諸国と比較すると少ないということがわかります。

■“ファクターX”は日本人の免疫タイプか…「免疫細胞」とは

なぜ、日本の死亡率は低いのでしょうか。「理由があるはず」として、京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥教授が、この謎を「ファクターX」と名付けて、これまで諸説がささやかれてきました。

こうした中、理化学研究所(理研)からファクターXにつながるかもしれない発表がありました。一言でいうと、「日本人の多くが持っている免疫タイプが、重症化を防ぐのに有効な可能性がある」ということです。

私たちがウイルスと闘うための武器は、大きく分けて「抗体」と「免疫細胞」の2つがあります。

いま、私たちが手にしている武器のワクチンは、この「抗体」を作り出すものです。ウイルスというのは、体内に入って細胞に感染すると、どんどん増殖して、その結果、重症化してしまいます。ワクチンは、ウイルスが細胞に感染しないようにブロックする抗体を事前に作っておくものです。

今回の研究結果は、もう1つの武器の「免疫細胞」に関するものです。私たちは誰でも、ウイルスなどから身体を守ってくれる免疫細胞の一種「キラーT細胞」を体内に持っています。

例えば、私たちが普段ひく風邪も、ウイルスが引き起こします。この風邪ウイルスが体内に入ってきて細胞に感染すると、キラーT細胞がそれを察知して、感染した細胞ごと攻撃して、やっつけてくれます。感染した細胞が無力化されて、風邪が治るわけです。

実は、このキラーT細胞は、一度、風邪のウイルスが体内に入ると、それを記憶していて、次にまた同じ風邪のウイルスが入ってくると記憶が呼び覚まされて、また感染した細胞をやっつけてくれるという仕組みです。

■コロナに反応しやすい「型」日本人“6割”に…研究結果

今回、理研の研究チームが注目したのが、細胞の表面にあるタンパク質の「型」です。

細胞の表面には、たくさんタンパク質があり、その型は数万種類にのぼります。人によって、持っている型の組み合わせが違います。

細胞はウイルスに感染すると、この型から感染したというサインとなる物質を出します。このサインを手がかりに、キラーT細胞が感染した細胞を見分けて、攻撃しやっつけます。だから、このサインはとても重要です。

今回、研究チームが、数ある型の中から「HLA-A24」という特定の型に注目して研究したところ、この型は新型コロナウイルスに反応しやすいことがわかりました。

実はこの型は、日本人の6割の人が持っていますが、欧米人では1~2割の人しか持っていないというものです。

“ウイルスに感染した細胞が目印を出す”といいましたが、この物質が新型コロナに感染した時と、季節性の風邪に感染した時の物質がとても似ているということも新たにわかりました。

私たちは皆、普通の風邪は、人生で1回や2回ひいたことがあります。そのため、風邪をやっつけてくれるキラーT細胞は、皆、体内に持っていて、眠っています。

サインとなる物質が眠っているということは、新型コロナの場合でも季節性の風邪をやっつけるキラーT細胞が呼び覚まされて、感染した細胞をやっつけてくれるということです。

キラーT細胞が、風邪とコロナの両方をやっつけてくれると期待できます。

今回、こうした特徴が日本人に多いということがわかりましたが、日本人にだけ朗報というわけではありません。

この仕組みを詳しく研究すれば、ワクチンが打てない人や抗体ができにくい人、最近問題となっているブレークスルー感染やオミクロン株のような新たな変異株など、抗体という武器が使えない、効かない場合にも有効な治療方法の開発につながる可能性があると注目されています。

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なぜ、日本人の感染や重症化が比較的少ないのか、このファクターXの謎をめぐっては、様々な要因が指摘されていますが、今回の研究結果も含めて、どれか1つという明快な答えがあるわけではなさそうです。ただ、それを調べる過程で、今回のようにいろいろなことがわかってきて、それが世界中の人の助けになるように役立てることが大切だと思います。

(2021年12月10日午後4時ごろ放送 news every.「ナゼナニっ?」より)