「エスカレーターで歩かない」は浸透するか? “禁止条例”施行も…
急いでいると、歩いたり走ったりすることもある「エスカレーター」ですが、自治体などは立ち止まって利用するよう呼びかけています。転倒などによる事故も相次ぐ中、立ち止まる動きが広がるか注目されています。
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11月30日朝、通勤ラッシュ時の渋谷駅では、勢いよくエスカレーターを駆け降りてくる女性の姿や、人の間を小走りで降りる男性の姿が見られました。
エスカレーターなどの業界団体「一般社団法人日本エレベーター協会」は、転倒する恐れから歩いたり走ったりすることの“禁止”を呼びかけています。
エスカレーターを走行していた人は…
「時間なくて。予約してあって、美容院」
事故が起きかねないエスカレーターでの危険な行為は、各地で起きています。埼玉県で一番利用者数が多い大宮駅。次々と人の波が押し寄せる通勤ラッシュ時には、エスカレーターは歩く人でほぼ埋め尽くされ、狭いすき間を駆け上がっていく人たちもいました。
愛知・名古屋市では、目の前で立ち止まった人を手で押しのけ、その後、エスカレーターを猛ダッシュする人がいました。東京・品川駅では、スマートフォンを見続けながらエスカレーターを降りてきた男性が、横から歩いてきた人と接触ギリギリになっていました。
街では、次のような声が聞かれました。
「急いでる方がバーッと行って、荷物もってるとあたるっていうのはあります」
「自分とぶつかって危ないなっていう時があります」
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東京消防庁によると、駅などのエスカレーターでの事故で救急搬送されたのは、2020年には年間で1069人。そのうち転倒が7割を占めています。
こうした事故を防ぐ動きが全国で進んでいて、名古屋市では、“エスカレーターは歩かない”ことを義務づける条例を来年、制定する方針です。
埼玉県では、全国でもいち早く、去年10月から、エスカレーターで“歩行や走行を禁止する条例”が施行されています。
しかし、携帯を見ながらなど駆け上がる“違反者”が続出。大学の研究チームが行った調査では、条例の施行から3か月後には、歩く人が減少し4割ほどになりました。しかし、約1年後には、再び6割ほどの人が歩く結果となってしまったのです。
■エスカレーター歩く人 (徳田克己・水野智美研究室調べ 大宮駅東武線からJRへ乗り換え上り)
去年10月:約6割
今年 1月:約4割
今年 9月:約6割
いわば、逆戻りした状態に、調査を続けている准教授は――
筑波大学 医学医療系・水野智美准教授
「少し残念だなと感じています。やはり罰則がないと、なかなか人々のモラルに求められてしまって、継続するのが難しいのかなと」
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一方で、立ち止まることが浸透しつつある駅もあります。
1日10万人以上が利用する福岡市の天神駅では、先頭の1人が立ち止まると後ろの人も続き、左右2列とも足を止める様子が見られました。誰もが急ぎたい朝のラッシュ時にもかかわらず、“歩かない”ことが浸透したワケは床にありました。
天神駅では、「歩かず右側もご利用ください」と書かれた大きなステッカーが数か所にはられています。さらに、駅のエスカレーター脇に設置されていたというポップには、「勇気を出して右側と~まれ」との文言と共にペンギンのイラストが描かれていました。
福岡市交通局・運輸部 営業課長・宮崎岳彦さん
「右側に立ち止まるには勇気が必要。“ファーストペンギン”っていって」
“ファーストペンギン”とは、群れの中で先陣を切って海に飛び込む、勇気あるペンギンのことです。そのペンギンのように、リスクを恐れず勇気を出して、エスカレーターで歩かず立ち止まる最初の人になろうと呼びかけたのです。
立ち止まった人
「ちょっとだけ、勇気いりました。広がっていけばいいかなと」
エスカレーターで立ち止まる動きは、全国に広がるのでしょうか。