45歳で認知症に…「だれが認知症になっても、自分らしく暮らせるように」当事者の思い
今後、高齢者の5人に1人が認知症になるといわれる中、政府は、9月27日、認知症と向き合う「幸齢社会」実現会議を立ち上げ、認知症の当事者やその家族などから直接意見を聞くなど、取り組みを始めた。16年前、45歳で、若年性アルツハイマー病と診断された藤田和子さん。「幸齢社会」実現会議の構成員にも選ばれた藤田さんが考える「共生社会」とは。
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認知症の人を含めた一人一人が相互に人格と個性を尊重しつつ支え合いながら共生する活力ある社会の実現を推進するための「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が今年6月、成立しました。
認知症の人が自分らしく、希望を持って暮らせる社会の実現には何が重要なのか、当事者で、今回、政府の会議の構成員にも選ばれた藤田和子さん(日本認知症本人ワーキンググループ代表理事)にお話をうかがいました。
藤田和子さんは今から16年前、45歳の時に若年性アルツハイマー病と診断されました。受診にいたったきっかけは「違和感」だったと言います。
藤田さん
「朝食べたものが思い出せない、夜にそれを食べようと思ったらなかったということがあって。記憶の問題が、年齢にしてはちょっと変だなと思いました」
「自分ではなんともないと思っていたんですけれども、何度も同じ事を言うとか、約束をすっぽかすとか、娘たちからの指摘もあって病院に行こうと思いました」
診断をうけたときの事を、藤田さんはこう振り返ります。
藤田さん
「わたしの場合は本当に日々いろんなことがしんどいなとか、記憶の問題だけではなく、なんか眠れなかったりとか、不安な気持ちだったりとか、ものすごく疲れるし、頭痛がすごくするとか、そういうことがあって」
「その原因がアルツハイマー病によるものだったとわかってほっとしたというか、スッキリしましたね」
自身の不調の原因がわかり、納得した一方、生活では不安を抱くこともあったと言います。
藤田さん
「診断当時は、子育て中でもあったので、生活を変えられないところもあり、自分自身が苦しい思いというのがはじめの頃はあったかもしれないですね」
「やっぱり生活で今まで通りにはいかないというしんどさを感じながら、将来への不安だったりとか、そういうことを感じながらの生活でした。その後、車の免許の返納もありましたし」
■早期発見の大切さ
藤田さんは、自身の経験から早期発見の大切さを訴えます。
藤田さん
「だいたい病気というのは初期が大切なんだと思います。アルツハイマー病の初期は、本人が違和感を感じても、まだいろいろ(自分で)できることが残っている状態です」
「いつもの自分と違うなって、これまでのようにうまく物事が処理できないとか、本当に自分にしかわからない感覚なんですよね、初期というのは。そこを逃すとだんだん自分を追い込んでいくし、ひとりで頑張ってしまう」
「少しでも不安があったらまず受診しようっておもえることが重要だと思います。それを後押しする社会環境も必要です」
診断後、はじめの頃は戸惑うこともあったという藤田さん。しかし、病気を受け入れることで自分らしい暮らしのための工夫が始まりました。
藤田さん
「私自身はものすごく早期発見出来て、アルツハイマー病の初期だねということで治療がはじまって」
「自分自身も人に隠すことなく、自分が病気であることを伝えて、必要な助けを得ながら、自分でも無理をしない、出来ることはする、というふうに生活してきました」
「初期であればあるほど、工夫の可能性は広がります」「自分の暮らしを作っていく努力や工夫に加えて、みんなの力を借りることも大切だと思います」
■周りの理解が共生社会を作る
藤田さんのように、アルツハイマー病になっても「自分らしく生きる」環境づくりには、周りの人の理解も重要です。
藤田さん
「社会の認知症の人たちへの偏見がなくなることも大切な事のひとつだと思います」
「人間って病気になることもあるよね、だから不安だったら風邪をひいたとかお腹が痛いときのように病院にいく。そこに何も不利益になることはないと思える環境を整えることが必要です」
ことし成立した基本法は、そういった理解を広める事への第一歩だと話します。
藤田さん
「共生社会の実現を推進するって国の方も言ってくれていて。すべての国民の皆さんが認知症のことに関心を寄せていただき、認知症になっても大丈夫なんだと思える環境作りや安心できる社会を考える、認知症とともに生きる本人たちと一緒に考えていくことで変わっていくんだと思います」
藤田さんは、どこで暮らしていても、だれが認知症になっても、自分らしく暮らせる地域にしたいという思いを持ち続けて、ご自身の経験をもとにした発信や日本認知症本人ワーキンググループの代表理事としての活動に取り組んでいます。
藤田さん
「ひとりで病気と闘うんじゃなく、たくさんの仲間とつながって、希望を持って生きられるということを伝えたいです。そして認知症の症状を知るだけでは、認知症になることへの恐れだけを生み出しかねません。認知症とともに自分らしく暮らしている人の存在や、暮らしの工夫を伝えていきたいと思います」