校則作りで性格も変わった!? 高校生が取り組む「ルールメイキング」……ツーブロックは“奇抜”なのか、生徒主導で徹底議論
地域でも校則が厳しいと有名な創立60年の栃木県内の高校。時代に合わない校則が残り続け、生徒だけでなく、指導する先生にも実は悩みが…。そんな中、生徒たちが主体となって校則作りに関わる「ルールメイキング」が始まり、学校が変わりつつある。校則はどのようにして変えられたのか、学校はどう変化したのか取材した。
<取材・文=鈴江奈々(日本テレビアナウンサー)>
創立60年の栃木県にある足利清風高校。約90の校則があったが、2021年春から校則が見直され始め、これまでに10の校則について、変更または削除された。前髪の長さの規程が、「眉にかかる程度」から「目にかからないように」と変更され、夏と冬の制服の着用期間も変わるなど、校則が変わらないことが当たり前だった学校が、生徒の声により変わり始めた。
――校則が厳しいな、と思った人?
(高校3年生3人)
「はい!(3人全員)」
――なにが厳しいと思いましたか?
「特に髪型。前髪を眉毛が見えるくらいまで切れって言われて。それはちょっと屈辱でした」
「ツーブロックは今も禁止ですけど、厳しいなと思います」
――前髪の長さの校則が変わったそうですが、以前のルールだと今の長さは?
(高校3年生2人)
「アウトです!前は生徒指導の先生がハサミを持ってて『前髪きってきて』と言われて、学校で切ったこともありました」
――校則が変わる前はどう思っていましたか?
「こんなに高校生活の校則って厳しいんだと思って不安になりました」
「厳しいなと思ったけれど、先輩も同じことを守ってきたので、守ろうかな…という感じで守ってきました」
――その校則が変わるとわかった時はどんな気持ちでしたか?
「本当にうれしくて!今まで下着の色も指定されていたので」
――え!?そういうルールもあったんですか?
「以前は黒がダメで。黒の下着はワイシャツだと透けてしまって、女の先生に『黒はダメだよ』といわれたときに、周りにも人がいたので恥ずかしかった」
「肌色とか地味な色の下着を買うお金もかかっていたので、それがなくなったので楽になりました」
――校則が変わるようになって、ご自身の心に変化は?
「校則にゆとりができたので、心にもゆとりができて過ごしやすくなったと思います」
「自分の個性がだせること、みんなの個性が見られることがうれしかったです」
――ルールメイキングの取り組みについてはどう思いますか?
「どんどん校則は変わっていくと、生徒の一人一人の意見がちゃんと反映されていることに喜びを感じます」
「高校生になると大人に近づくわけじゃないですか。高校生が主体できめることがすごく良いと思います」
2021年春、当時、生活指導担当の教員が、時代に合わない校則は変えていくべきではないかと呼びかけ、校則を見直す「ルールメイキング委員会」が立ち上がった。当初は教員主導だったが、今では、すっかり生徒主導となり、教員は生徒のサポートにまわっているという。取材した日も、ルールメイキング委員会で、新たな変更に向けて議論。「ツーブロック禁止」の見直し、「ジェンダーレスな制服」の提案について、生徒や地元企業への調査結果をまとめながら熱心に話し合っていた。
高校1年生の時から校則作りの取り組みに参加してきた生徒に、話を聞いた。
――1年生の時から活動しているそうですが、なぜやろうと思ったんですか?
(ルールメイキング委員会 石山茶那委員長=高校3年生)
1年生の最初に、「ルールメイキング委員会」っていうのを新しく始めると聞いて、なんだろうと思って用紙を見てみたら、「校則を変える」と書いてあって。校則は絶対に変わらないだろうなと思っていたし、私は中学生の時から言われた通り生きてきて、校則について深く考えることなく従ってきたので興味をもって活動に参加しました。
――実際に校則を変える取り組みを始めてみて難しかったことは?
生徒、先生の認識が少し違うところ。一般の生徒たちは活動を知らないし、(活動に参加している先生以外の)他の先生は知らなかったので私たちが活動をお願いしても協力してくれなかったり、「どうせ変わらないんじゃないか」とよく言われたり。最初から無理じゃないかと諦められていたのですが、全校生徒の協力がこの活動では必要になってくるので、そこが大変でした。
――その認識の違いを埋めるために具体的にやったことは?
校則は変わらないものとみんな思っていたので、最初にやったのが「校則って変えられるんだよ」「みんなこう思っていいんだよ」っていう呼びかけ。それから自由に校則について意見を言える場所など作っていきました。あとは私たちが先陣をきって活動することで「もしかしたら変えられるんじゃないかな」と思うことを増やせるように、具体的にやったことを少しずつ積み重ねていって信頼を増やしていきました。
――先生に意見を言うこともハードルあったと思いますが…
最初はすごくハードルがあったし、インタビューに行っても忙しいからって門前払いにされることも多かったです。でも、この活動の最初に生徒指導の先生が校則について「悩んでいた」と本音で語ってくれて。そのときに、先生も悩んでいることがあるとわかって認識が変わりました。冷たく当たられることがあっても協力してくれる先生もいて、味方の先生もいるとわかったので、怖いこともあったけど頑張っていこうと思えました。
――先生が意見を聞いてくれるとわかって、大人に対して見方の変化はありましたか?
結構変わったかな。先生も迷うことがあるし、心の中でこれはおかしいんじゃないかと思っていたとわかることで、生徒と向き合っていたり、校則で向き合っていたりするからこそ悩めるんだと思いました。
――最初に職員会議でダメ出しされた時は、どう思いましたか?
同級生と二人で行ったんですけど、まず先生たちの態度が今までと違って。職員会議は緊迫した雰囲気の場で、「ここだめなんじゃない?」と言われ続けて、逃げ出したいなという感情があって。でも言われていることは正しいし、先生の視点も間違っていないと思うこともあった。しっかり改正案を作らないといけないなと。一部の意見ではなく、全校生徒の意見があってこその改正案だという反省点を見つけることができました。
――それを受けてみんなの意見を調査したんですか?
はい。全校生徒に改正案を把握してもらって、それを受けて「ここもうちょっと直してほしい」ということがあったら、直してから職員会議に持っていって校則にしてもらうようにしました。
――校則を変えられたことについては?
今まで地道に活動してきてやっと成果が出せてここからスタート。校則を変えることが私たちの目標の1つではあるんですけど、やっぱりこの活動をつなげていきたい。もっともっと上を目指したい。
――きょうも生徒が主体で話し合いをしていたけれど、自分たちでルールを作れるのはどう?
学校は生徒の学ぶ場所でもあるし、小さい1つの社会でもあるので、こうして校則やルールと向き合うのは、これからの社会でも役立てるんじゃないかなと思っています。社会はどんどん変わっていくので、それに対してみんなで柔軟な考え方をもって活動していくっていうのは、大人になってからも大事だと思っています。
――活動でどんな学びがありましたか?
ルールだからという前提で考えてこなかったものを考えるのはやっぱり大切なことだし、今まで経験してこなかった。経験して「じゃあこれは?」と自分で思考を続けていくことが、高校で初めてだったので、自分から興味を持って問題を解決するためにどうしたらいいのか考えて動くことは、学びになりました。
――授業での学びとルールメイキングの学びは違いますか?
自分の内面的なところをこの活動で変えられたと思います。今まで自分が思っていたことが打ち消された、世界が広まったと感じました。あと自分自身がこういう場でしゃべったこともなかったので、成長したし、内面が変われたのはこっちが大きいです。
――内面がどう変わったんですか?
中学の時は目立たないで言われたことをやってまじめに生きる。優等生じゃないですけど、言われたことは守って、控えめに生きるっていうのをやっていたんですけど、言われたことに疑問をもったり、自分から進んでやってみたり。あとは、コミュニケーションをとれるようになったところです。
生徒指導にあたる一方でルールメイキングに生徒と一緒に取り組む猿橋宣彦教諭にも話を聞いた。
――ルールメイキングの取り組みをはじめるとき生徒たちにはどんな話をされたのでしょうか?
校則は守らないといけないという意識がみんなにはあったのですが、実は教員側からしても校則を変えるのは非常に怖くて。校則がしっかりしているからこそ学校の秩序は保たれていると思い込んでいたのです。校則を緩めたことで学校の秩序が乱れてしまう怖さは非常にありましたので、そのような話はむしろこちらから腹を割って生徒たちと話しました。
――生徒からはどんな反応でしたか?
我々は怖い存在と思われがちですが、腹を割って話したことによって「先生もこういう考え方なんだ」と一気に距離が縮んで。一方的な会話ではなくて「対話」ができるようになったと思います。我々では気づかない生徒同士だからこそ気づけるようなことが数多く議論にあがり、そこからどんどん話題が広がっていったような感じですね。
――校則を変えるプロセスにはどんな難しさがありましたか?
どういう手順を踏んだら校則を変えられるのかということ自体が、教員も分からなかったんです。最終的に校則の決定権は校長にあるわけですが、生徒、それから先生方にも意見を聞いてその段階を踏んで変えるということが掴めました。それに1年ほどかかり苦労はしたのですが、1つ形は作れたかなと思います。
――約90の校則を一気にアップデートすることは難しいのでしょうか?
長いことこの校則でやってきたという流れがありますので「校則を変えることで学校が荒れてしまわないか」ということは一番懸念されることです。地元企業に就職する生徒もいる地域に密着した学校なので「地域の企業からのイメージが悪くなってしまうのではないか」という懸念もあります。なかなかすぐに変えましょうといかないのが難しいところですね。最初の頃は、職員会議に生徒が意見を持っていっても跳ね返されてしまう、ぐうの音も出ないくらい反対意見を出されて、泣いて帰ってきたこともありました。
――反対する先生たちを説得するために、生徒たちはどんなことをしたのでしょうか?
根拠のある数字・データを集めること。何%の人が反対しているとか、実際に地元企業の意見を聞くと説得力が出ると考えて、企業訪問という形で例えば「どのくらいまでのツーブロックなら採用してもらえますか」というのを何社か聞きに行って、様々な意見を頂戴しました。それを参考にしながら職員会議に持って行けるようにしていました。
――この取り組みを通じて、学校に変化はありましたか?
「この校則を守れ」だと考えることをやめてしまっているが、自ら考えて様々なことに疑問を持って直していける力になります。これまでは法律と同じように昔から決まっているので「守るのが当たり前」。法律自体、校則自体が間違っていないか、全く考えずにただただ従ってきただけ。法律や校則自体がおかしいのではないかと、様々なことに疑問を持つようになったと思います。
例えば授業中の発言が増えたとか、質問が増えたとか。積極性ですよね。自ら校則を考えているということは自ら疑問を持つということなので、勉強にも伝播してさらには就職・進学にもいい影響がでています。そして自分で決めたからにはそれを守る責任がある…。責任感を養ういい活動になっていると思います。
教員の中でも始めのうち「校則はこのままでいい。変える必要はない」という雰囲気だったのですが、活動を進めるうちにどんどんこの校則はこうした方がいいのでないかという意見ももらうようになったので、学校全体で少しずつ校則に対する意識は高まっている気がします。
――この取り組みは今後も続けていくのでしょうか?
いくつか校則は変えられましたが、まだまだスタート地点。生徒たちはより良いものをもっともっと求めていきたいと言っているので、続くと思います。校則がそもそもいつ作られたのか、という話もありますし、社会が変わっているのに、「校則が変わらない」「学校が変わらない」というのはおかしな話ですよね。今の令和の時代にあった校則を、私もこれからどんどん求めていきたいと思います。
◇ ◇ ◇
取材した足利清風高校では、当初、教員も「校則がいつできたかわからない」「どうしたら校則は変えられるのかわからない」状況だった。そんな中で取り組みが進められたポイントとして、「先生が本音を語り、生徒と対話が生まれたこと」そして、「学校以外の第三者のサポート」も大きかったという。こうした生徒たちが校則を変える「ルールメイキング」の取り組みは、認定NPO法人カタリバのサポートもあり、4月時点で全国252校にひろがりを見せている。
<連載企画>『子どもたちが、生きやすく』
少子化が進む一方で、子どもたちを取り巻く環境は複雑さを増し、社会の課題は山積しています。今、子どもたちの周りで何が起きているのでしょうか。日本テレビ系列のニュース番組『news every.』は「ミンナが、生きやすく」が番組コンセプト。この連載では「子どもたちが、生きやすく」、そのヒントを取材します。