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「不登校はいい経験だった」日本最北の高校で“島の有名人”に――「留学」で笑顔戻った高3「世界ってこんなに広い」

2022年10月27日 7:00
「不登校はいい経験だった」日本最北の高校で“島の有名人”に――「留学」で笑顔戻った高3「世界ってこんなに広い」

「不登校はいい経験だった」――。中学時代の不登校を前向きに語れるようになった高校3年生の掃部暁里(かもん・あさと)さん。新たな学びの選択として千葉から進学した日本最北の北海道礼文高校で自分らしく“輝ける”場所を見つけた。全校生徒58人の小規模校で全国から集まった生徒たちとの学校生活。何があったのか――。
<取材・文=鈴江奈々(日本テレビアナウンサー)>(・後編の後編)

■不登校から「島の有名人」に

波の音、鳥のさえずりが静かに響き渡る朝。ひんやりとした空気が流れる。朝8時過ぎ、礼文高校の前に、1台の路線バスがとまる。ぞろぞろと高校生たちがおりてくる。

カメラを向けて待ち構えていたので、高校生たちはどんな反応を示すのか不安になる。目をそらして映さないでという態度をされるかもしれない。こちらから声をかけていいものか、ためらいがあった。しかしそんな心配をよそに、目の前を通り過ぎていく高校生たちは「おはようございます!」と全員が声をかけてくれた。なんともすがすがしい朝。

友達と会話しながら学校に向かう暁里さん。中学2年で不登校になり、そのまま卒業を迎えた。しかし今では礼文高校で生徒会長をつとめ、部活の放送局では、町職員に代わって町内放送を任されている。「いい声!」と島でちょっとした有名人になるほど評判だ。なぜ暁里さんは礼文高校で輝けるようになれたのか。

■“自分”を取り戻した“きっかけ”

礼文高校で過ごすようになって暁里さん自身にどのような変化があったのか。

「物事に対する考え方が変わりました。真面目な性格で、中学の頃は一つ一つ全てのことに全力。その結果、何か疲れていたんだと思います。でも自然の中で過ごしていくうちに『緩くていいかも』って思えるようになって。無理していたのかなって、今考えたら思う。礼文島にきて『本当の自分』に会えたんじゃないかな」

“花の浮島”とも呼ばれる礼文島。色とりどり花々が咲き誇り、海、山が隣接する雄大な自然がある。

「自然だらけなので学校に行くことに前向きになりました。今日はこんな海、今日は利尻富士がきれいに見える…と自然は毎日違うので、1日1日が楽しいです」

大自然の中で過ごすうち、暁里さんは氷が解けるように自分を取り戻すことができた。ただ、冬の寒さは、経験したことのない厳しさ。最初の冬は「寒すぎて、初めて泣きました」と笑う。

■自分らしく輝ける“チャンス”がある

人口2300人ほどの礼文島。島唯一の礼文高校は、全校生徒58人と“スモールスケール”な学校。かつて過ごしていた千葉と大きく環境が違う点について暁里さんはこう話す。

「中学校時代は40人クラスだったのが今は半分の20人。その分一人一人の色々な面が見られるのでより深く繋がれる、より深く仲良くなれる…そんな良さがあると思う。もともと人が多い所は緊張するし、人目が気になってしまうタイプなので、今の環境があっているのかな」

そんな小規模学校について、4年前から礼文高校で教壇に立つ担任の中谷亮太教諭(30)は「一人一人にスポットライトを当てやすい。一人一人が前にでやすい環境」と言う。

例えば英語検定などで生徒が合格すると、礼文高校ではステージで校長から証書を渡される。そんな小さなことでも生徒にスポットライトが当たる。また暁里さんの場合、生徒会で様々な行事でステージに立ったり、学校行事の町内放送を任されたりと、様々な場で注目され、成長の機会になっているという。

理科の浦田麻衣教諭(50)は生徒数800人ほどの高校での教員経験もあるが、離島を希望して礼文高校に配属された。小規模校での勤務についてこう話す。

「楽しい! 生徒のことを分かった上で授業や部活動ができるので。理科の実験では、50人クラスの時は怒ってばっかり。危険にならないようにすることで手一杯で…。でも今は、実験そのものを生徒と楽しめている。勉強を教える上でも生徒の弱点も分かるので個別指導ができるようになりました」

■「地域みらい留学」が変えた学校と地域

礼文高校は3年前から「地域みらい留学」の参加校となり、全国からの生徒の受け入れを始めた。現在、全校生徒の約半分にあたる26人が島外生だ。千葉、埼玉、愛知、大阪など全国から集まる。中谷教諭は学校の変化をこう語る。

「礼文高校は生徒数が少ない分、それぞれが何かしらの役割を担うことで学校生活が成り立つんです。島内の子達は人が少ない環境で育っているので、小さいときから役割を自分で見つけて動けるんですね。一方で島外の子達は、例えば掃除の時間に、当初はぼーっと立っている姿も。でも、島内生の動きをみて変わっていく様子が見られました。逆に島内生は同じ仲間とずっと過ごしてきたので、島外生との交流で世界が広がり、刺激を受けているようです」

「地域みらい留学」で礼文高校にきている生徒の中には、将来「礼文島で就職したい」と話す子もいた。制度は地域にとっても未来を輝かせる可能性がある。人口減少が進む中、礼文高校への入学者数はここ数年、10人前後で推移しており、廃校の危機にあった。島唯一の高校の廃校は、必然的に高校進学のため子供たちが島外へ出ることにつながる。結果として、地元産業の担い手不足を加速させることになってしまう。

この危機から脱するために取り組み始めた「地域みらい留学」で、生徒数は倍増した。暁里さんは「留学生」の1期生となる。卒業後、島に定住しないとしても、礼文島で学んだ彼らを通じて交流人口が増え、来訪者が増えることも期待されている。

「留学生」を呼び込むために礼文町は様々な支援を行っている。月7万円の寮費のうち4万円が助成される。また資格取得の費用が助成されたり、海外交流事業でアメリカ・ロサンゼルスのホームステイ費が助成されたりする。

暁里さんが不登校について今、思うこととは。

「不登校ってもっと多くてもいいのかなって思う。今いる場所で活躍できる人とできない人がいて、活躍できない人の方が多いと思うんです。生まれた場所が活躍できる場所とは限らないので」

「不登校時代を今思い返しても、過酷な旅でした。でも辛い思いをしてからここにきたから、より自分のことを見つめられる。何をしたいのか、どこなら活躍できるのか、自分らしく過ごせるのか考えられる。僕は周りに迷惑をかけたけれど、僕自身の経験としては、そんなに悪いことだと思っていなくて。その経験があったから今、礼文島にいる。不登校はいい経験、いい過程だったと思っています」

不登校を前向きに捉える事ができるようになった暁里さん。不登校の人たちへアドバイスを送るとしたら、と尋ねるとこう返ってきた。

「中学校や小学校って教室内で全部完結しちゃう狭い世界。そこの中で嫌われたらもう全部ダメになる人が多いと思うし、僕もそう思っていた。でも初めて県外の知らない場所に行ってみて世界ってこんなに広いんだって。生まれた環境で過ごす必要は全くないと気付けた。無理をしてそこで頑張って潰れるより、自分が生き生きできる場所で、本当の自分を見つけるのが大事なんじゃないかなと思っています」

<取材後記>
取材する前は、小規模だと何かと制約があるのでは…そんな根拠のないイメージがあったが、ガラリと変わった。小規模だからこそ、一人一人が大切にされる、多様性を尊重する環境に。もちろん学校の規模だけでなく、礼文高校には、雄大な自然や、地域の大人が子供たちをみんなで育むという温かさがある。様々な要素が、子どもたちの輝く場所を作っているのだろう。

様々な環境の生徒たちが混じりあうことで、互いに学ぶことが増えていく。そして、小規模だからこそ、一人一人の役割の重みがあり、互いに尊重し合う。今、学びの選択肢は広がりを見せている。今いる場所で窮屈な思いをしていたら、ちょっと視野を広げてみると、それぞれが輝ける場所が見つかるのかもしれない。

<連載企画>『子どもたちが、生きやすく』
少子化が進む一方で、子どもたちを取り巻く環境は複雑さを増し、社会の課題は山積しています。今、子どもたちの周りで何が起きているのでしょうか。日本テレビ系列のニュース番組『news every.』は「ミンナが、生きやすく」が番組コンセプト。この連載では「子どもたちが、生きやすく」、そのヒントを取材します。

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