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男性上司からパンケーキの写真が…「男らしさ」の陰で負った傷の癒やし求める男性 セクハラも?

2024年2月26日 7:13
男性上司からパンケーキの写真が…「男らしさ」の陰で負った傷の癒やし求める男性 セクハラも?

日本ペンクラブが「男らしさの彼岸」というシンポジウムを2月25日に行いました。上司のセクハラや「男らしさ」と今どきの価値観の狭間の悩みなどが語られ、競争社会で傷ついた男性が女性によるケアを願い、それが場合によってはハラスメントにもつながるといった議論になりました。

■男性上司からのLINE急にパンケーキの写真が…

このイベントは日本のハラスメントを考えるシリーズの第5回。まず文筆家の清田隆之氏が聞き取った今どきの男女の悩みが報告されました。

ある女性の例では、男性上司から業務連絡のLINEで、急にパンケーキの写真が送られて来た。女性が気を遣って「パンケーキどこのですか」と返信すると、上司から店名が返ってきた。その後も連日、動物の写真や「あたまなでさせろー」といったLINEが。相手が上司だけに、女性は「気持ち悪いんだよ」とも言えず、非常に悩んだが、周りに相談しても、仲良いやりとりと誤解され、セクハラ、パワハラとは受けとってもらえない。

■男性の悩み…出世した妻にモヤモヤ

清田氏は「男らしさ」と最近の価値観の狭間で悩む男性からの相談も紹介。「自宅で家事をしても、妻からダメ出しされ苦しい」「会社の後輩である妻が出世して忙しくなり、僕が作った夕食を食べない日があったり、周りからも冷やかされたりして嫉妬から妻に八つ当たりする自分がいやだ」「仕事のストレスで飲酒や風俗にはまる」など。

■男同士のじゃれ合い、実はいやだった

当たり前とされてきた「男同士のじゃれ合い」についても、男性が実はいやだった、傷ついていたと語るようになってきたということです。

*部活でミスし先輩に殴られた
*上司に風俗店に連れて行かれた
*一発芸の強制
*体育館のマットでぐるぐる巻き

「いやだったけど、後にはそれをやる側になった」という人も。

事例報告の後、清田氏は「男性たちは新しい価値観がいいんだろうなとは思いつつ、古い価値観の中で生きてきた自分を思うと複雑な気持ちだ、板挟みになっているとよく聞く」と語りました。

作家の島田雅彦氏は「学校で、まず同性でつるむ中で形成される人間関係が大学生になっても、職場でも継続してしまう部分はあるかも。体育会系や軍隊経験があるとなおさらだと思う。そういう世界で苦慮するというのは典型的な(男性の)苦しみとしてあるかと思う」と解説しました。

また男女関係について「江戸時代の好色一代男などを読むと、相手の趣味に合わせるなど、お互いにすりあわせをしていく付き合い方があって、そこを無視した人たちは野暮だと、ものすごくばかにされたこともある。時代によって付き合い方の機微があるが、男女が協力、教育しあうしかないのかなと思う」などと述べました。

■セクハラ・パワハラをする人からはどう見えているか聞いてみる

大妻女子大学で男性学を研究する田中俊之准教授は「さきほどのLINEは双方向に見えるが一方通行で、男性が言いたいこと言って、女性が気を遣っているから成り立つ。これは日常的な場面でも様々ある」と指摘しました。

そして「セクハラやパワハラの自覚がない人に自覚させるのは難しい。学問的に追究したいのは、そういう男性の目線で見えている景色がどんなものなのか、だ。たとえば森喜朗氏には『女性がいると会議が長くなる』と見えているとしたら、どうしてそう思うのか、彼らの理屈を把握することで、男性特権的な社会が何なのか、見えてくるのではないか」と提案しました。

■男性社会で傷ついた男は女に癒やしてほしい…が、いきすぎるとセクハラに?

清田氏は「男社会での不信感や癒えない傷があって、それを女性とかにケアしてと求めているのではないか。その求め方が、時にハラスメントみたいな形で立ちあらわれている面があるなと思う」と問題提起しました。「男同士で競争、傷つけあい、ちゃかし、いじって楽しそうにしているが、お互いの話に耳を傾けない、ケアしない」

田中氏も「こんな負けた俺をなんで女はなぐさめてくれないのか、女が強くなったせいで僕らがビクビクしなきゃいけない、などと考え、女性をターゲットにした性暴力含む暴力、犯罪になりかねない怖さがある気がした」と述べました。

島田氏も「自分を勝ち組に置いておきたい人が結構いる。出世競争の原則が組織の中にいきわたっている。過剰適応しようとすると画一的な価値観や行動形態に陥ってしまう。違う生き方を提示しても『下の者』とみなされる」「おたくとは趣味を極めることで競争原理から1回距離を置いて、そこで自分が勝手に勝てる世界を構築する。月に行く宇宙飛行士には、そういう(競争原理)の人が選ばれるかもしれないが、火星に行くには往復の長い期間、宇宙船の中で過ごさなきゃいけないから、そこでも狂わない耐性、自分の世界にひきこもっても壊れない強さなどが必要で、むしろおたくがむいているかもしれない。適材適所。世の中、競争原理だけじゃない、と男同士で共有しうると思う」と述べました。

さらに次のようなやりとりが続きました。

清田氏「マッチョな人、ネオリベラル(新自由主義)的な人たちが作った世界の中で、わりを食う人がいるわけで、その鬱屈する人たちの恨みが向かう先が、なぜか(マッチョな男性でなく)リベラルやフェミニズム」

島田氏「根底に真のエリートへのコンプレックスがあると思う。マッチョ的なことを喧伝して、彼らの仲間に入れてもらう、みたいな。あからさまなマッチョぶりを示すこと自体が、屈折したコンプレックスを持っているという自己申告につながってしまうという矛盾」

田中氏「男性学では『剥奪感の男性化』という。自分たちが持っていたはずのものが奪われているぞと。剥奪感と言っているのが肝で、本当は奪われてはいないのに、奪われている感じがするということです。競争で負けた者が勝った者に恨みを言うのは屈辱的だから、より弱い者、たとえば移民や女性、性的少数者に『俺たちの取り分を奪った』と恨みを言う」

■弱さを認め、語り合おう

どうすればよいかについて、清田氏は、男性同士のおしゃべり会(順番に1人が語り、2人がただ聴く)を開催していると述べ、「わかるわかる!自分もこういうことがあってとしゃべりまくり、体験が言語化され、背景にある問題に自分の感情や経験がつながっていくと、やっと個人と社会の何かがつながっていく。しゃべろう!」と提案しました。

島田氏は「自分が無能だと認めた者は強い。その先に別の生き方の開発につながる」

田中氏は、90年代に「もっと群れよう、男たち」というキャッチフレーズがあったが「男性は群れなかった。群れるには弱さを認めなきゃいけなかったので」と解説し、男性が弱さを認めて語り合うことが今、必要だと、まとめました。

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