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「手話」がなくなる危機?そのワケは?

2022年3月9日 18:46

アカデミー賞候補として注目されている映画「コーダ あいのうた」。聴覚障害がある家族の物語です。劇中では、手話が使われていることでも話題となっています。しかし実は、国内では、手話がなくなってしまうのではないかと懸念の声があがっています。

■手話がなくなる危機!?

映画のタイトルの「コーダ」。聴覚に障害のある親を持つ子どもは、「Children of Deaf Adults」の頭文字をとって「CODA(コーダ)」と呼ばれ、日本国内にも約2万2000人いるとみられています。

作品の中では、両親と兄は聴覚に障害があり、主人公はコーダとして手話で会話をするシーンが多く登場します。

実は、国内で手話がなくなってしまう可能性があると心配の声があがっているのを知っていますか?

■教育現場では何が?

1990年代頃まで、ほとんどの特別支援学校では、手話を使用することは禁止されてきました。

聞こえない人や聞こえにくい人は、“劣っている”という考え方があり、聞こえる人と対等に渡り合えるようにという考え方が強くあったため、特別支援学校ではリハビリの意味合いで、発音し口の形を読み取ることで話をする口話法教育が行われてきました。

また、手話により手を動かすと、「発音がうまくできない」、「日本語が覚えられなくなる」とも考えられていました。そのため、特別支援学校では、授業だけでなく、休み時間などに子ども同士で、手話で話すことも禁じられていたということです。

しかし、現在は、音声日本語の獲得に、手話が妨げにはならないということが、少しずつ分かってきました。また、2006年には、国連総会で「手話は言語である」という「障害者権利条約」が採択され、国際的に手話は言語として認められたのです。

21世紀に入り、ようやく手話は「言語」として認められるようになりました。こうした国際的な流れを受け、国内でも手話が言語として法律で認められる「手話言語法」の制定に向けて、全日本ろうあ連盟などが啓発活動を行っています。

2013年には、日本で初めて、鳥取県で「手話言語条例」が制定されました。今は、31道府県の434自治体(2022年3月9日時点)で制定されています。特別支援学校の教育現場にも変化が起きました。

東京・品川区にある「私立明晴学園」は、2008年に開校し、全ての授業が手話による教育が行われています。

■手話がピンチ…そのワケ

ようやく言語として認められた手話ですが、いま消滅の危機にあると訴える声があがっています。

音声を電気信号に変えて脳に伝える「人工内耳」の広まりにより、手術を受けて、地域の学校に通う子どもが増えています。

今後、手話で学ぶことができる環境の特別支援学校に通う子どもが少なくなり、特別支援学校が将来なくなってしまうことで、手話を学ぶことができる場所がなくなり、同時に手話も消滅してしまうのではないかというのです。

手話で育つ子どもの保護者らでつくられた「ろう教育の未来を考える会」は、手話を使った教育を受ける機会が不十分だとして、去年、特別支援学校の拡充と手話で授業を受ける機会を求め署名活動を行いました。3週間ほどで約1万3000の署名が集まり、厚生労働大臣へ提出したということです。

「人工内耳」とは一体、どのような時に手術をすすめられるのでしょうか。

国立病院機構東京医療センター耳鼻咽喉科南修司郎医師によりますと「人工内耳の普及により、重度難聴であっても早期に介入を行うことにより音声言語を獲得することは可能となっている」としていて、聴力や検査結果によって対象となるのは様々なケースがあるとした上で、「(聴力が)90㏈以上であれば、補聴器よりも人工内耳の方がよく聞こえるだろう」と保護者に説明しているということです。(聴力検査の結果「25㏈未満」が健聴で、数値が上がるほど難聴が重症となります。「90㏈以上」は重度難聴とされ、会話をするのは難しい聞こえです)

一方、「ろう教育の未来を考える会」のメンバーで難聴児の教育支援を行っている木島照夫さんは、「人工内耳の手術を受けて、日常会話ができる程度の音声が聞こえるようになっても、音がひずんで聞こえるなど、あいまいな音の固まりでしか聞こえない場合が多い」と指摘しています。

学年が上がるにつれて学習内容が難しくなってきた時に、言葉を覚えたり、内容を理解したりするのが難しいというのです。他にも、教室の遠くに座る人の発表の声が聞き取りにくく、内容が理解できないなどの問題もあるといいます。

また、手話を学ぶメリットとして、木島さんは(1)聴覚に障害があっても、子どもが早くから言語を獲得することができるため、保護者と関係を築き自己肯定感を育むことができること(2)見えている世界の認識を深め、思考を深めることができることを挙げています。

しかし、現在は、専門家の人手不足や保護者の相談体制が整っておらず、地域差もあり、難聴児を手話で育てるにはどうしたらよいのか分からない保護者も多いといいます。そのため人工内耳の手術を受けて、地域の学校に通わせるケースが増えているということです。

「ろう教育の未来を考える会」は、聞こえないまま手話で育てるケース、人工内耳の手術を受けて手話で育てるケース、人工内耳の手術を受けて音声で育てるケースなど、様々な選択肢の中から、保護者や難聴児が自ら考えて、選択していくことが重要だとしていて、手話によるコミュニケーションの選択肢を残せるよう今後も活動を続けていくということです。

こうした問題について、厚生労働省は、「難聴児の早期発見・早期療育推進のための基本方針」に関する検討会を重ねてきました。「言語・コミュニケーション手段(音声、手話、文字による筆談等を含む)の選択肢が保障・尊重されることが望ましい」という考え方を示し、基本方針を今年度中に公開する予定だということです。

■共生社会に向けて

聞こえない・聞こえにくい人が、聞こえる人と共に生きる社会の実現のため、一般財団法人全日本ろうあ連盟事務局長・全日本ろうあ連盟手話言語法制定推進運動本部事務局長久松三二さんは「手話言語が法律で認知されることと手話言語を獲得するための環境整備が必要と考える」としています。