【全文公開】天皇陛下64歳誕生日 記者会見(後半)
天皇陛下の誕生日にあたっての記者会見は、誕生日前々日の21日、「宮殿 石橋の間」で午後5時4分から午後5時57分までの53分間行われました。事前に提出した5問のうちの後半の2問と、関連質問の記者会見全文を、誕生日にあたり新たに公開された写真と共に、紹介します。
【問4】
陛下は5月に即位5年を迎えられます。新型コロナで制約の多い期間が続きましたが、可能な限り各地に足を運び、オンラインでの訪問も取り入れ、多くの人々と交流されてきました。海外の賓客とは円テーブルを囲んで会見し、午餐(ごさん)で和食の提供や日本酒で乾杯をされるなど、新たな取り組みも始められました。天皇としての歩みを振り返るとともに、今後の活動について皇后さまと話し合われていることをお聞かせください。また、お忙しい中、水を巡る問題や交通史の研究、ビオラの演奏、登山といった私的なご活動の状況はいかがでしょうか。
【陛下】
新型コロナウイルス感染症の影響により、地方への訪問を3年近くできなくなるなど、国民の皆さんと直接触れ合うことが難しくなったことを私も雅子も残念に思っていましたが、このような状況の中で、人々とのつながりを築き、国民の皆さんの力になるために、私たちに何ができるかを考え、宮内庁とも相談し、オンラインでの交流の可能性を検討しました。オンライン訪問には、感染症対策としての利点以外にも、複数の場所にいる人々に同時に会うことや、離島や中山間地域など、通常では訪問が難しい場所でも訪問ができるという利点もあるように思いました。オンラインには、オンラインなりの課題もあるでしょうが、引き続き、状況に応じた形で活用していきたいと思います。新型コロナウイルス感染症の感染拡大の落ち着きを受けて、都内においても様々な行事が再開され、そして、地方への訪問も行うことができるようになり、皆さんと直(じか)に会って人と人との絆(きずな)を深めることができるようになったことを、雅子と共に、とても嬉(うれ)しく思っています。これまで、私と雅子は、様々な行事の機会に、あるいは災害の被災地のお見舞いや復興状況の視察のために、各地を訪問してまいりました。その際には、国民の皆さんの中に入り、少しでも寄り添うことを目指して、行く先々で多くの方々のお話を聴き、皆さんの置かれている状況や気持ち、皇室が国民のために何をすべきかなどについて的確に感じ取れるように、国民の皆さんと接する機会を広く持つよう心掛けてまいりました。これからも雅子と相談しつつ、このことを心掛けながら各地を訪問してまいりたいと思います。外国からの賓客に関する質問につきましては、賓客お一人お一人の訪問がより良いものとなるよう、宮中における伝統や慣行を踏まえつつ、雅子や職員とも相談して、その時々にふさわしい形でお迎えできればと考えています。はるばるお越しいただいた外国賓客の皆さんとより親しく交流し、賓客の皆さんには、日本の文化や伝統を知っていただくとともに、日本の人々に近しい気持ちを抱いていただけるような機会になればと思っております。
私的な活動についての御質問ですが、まず、ビオラの演奏については、最近はなかなか練習の時間が取りにくくなってはいますが、少しずつ続けており、ビオラに限らず、音楽からは多くの癒やしと力をもらっているように思います。音楽についていえば、今月6日に小澤征爾さんが亡くなられたことをとても残念に思います。子どもの頃から、小澤さんが指揮をされた、新日本フィルハーモニー交響楽団、ボストン交響楽団、ウィーン国立歌劇場の公演などに伺い、また、お話をしたことを懐かしく思い出します。登山については、山小屋に泊まっての登山というのはなかなか難しいかもしれませんが、今後とも、時間が許せば近くの山に登るなどして、日本の自然の美しさに触れられればと思っています。日頃は、皇居内で四季の移ろいや野鳥のさえずりを聴きながらジョギングをしたり、雅子と一緒に散策をしたりするなど、健康のための運動は続けています。また、昨年は4年ぶりに栃木県の御料牧場や那須御用邸で静養する機会にも恵まれました。豊かな自然の中で、ゆっくりと心安らぐ日々を過ごすことができ嬉(うれ)しく思いました。
「水」問題については、「水」を切り口に、安全な飲み水や、水上交通、自然災害や治水対策といった国民生活の安定と発展に関わる問題や、気候変動といった地球規模での課題など、水は多くの側面に関わってきます。昨年は46年ぶりに国連で水会議が開かれるなど、各国の「水」問題に対する取組も進められていると聞いています。私自身、昨年は、「第6回国連水と災害に関する特別会合」でビデオでの基調講演を行いました。講演の中では、江戸の町を例に取って、上水道システムを構築したことや、舟運ネットワークを上手に利用したこと、他方で水害から町を守る治水対策を進めたことなどによって、江戸が当時としては世界最大級の都市に発展したことを紹介しました。水の恩恵を享受しつつ、他方で災害に対応することは、歴史を通じた人類共通の歩みでもあり、水を巡る問題を知ることは、海外の社会や文化を理解することにもつながります。例えば、昨年インドネシアを訪問した際に見る機会がありました、5世紀に造られた「トゥグ碑文」には、当時の治水事業が記されていました。わざわざ石に彫って記録を残すくらいですから、当時のインドネシアでも治水事業が大きな意味を持っていたことが分かります。これまでもこうした活動を行う中で「水」問題に対する理解を深めようと努めてきましたが、引き続き関心をもって、事情の許す範囲で今後とも「水」問題についての取組も続けていくことができればと思っています。
【問5】
皇室の課題に関してお尋ねいたします。安定的な皇位継承のあり方を議論する政府の有識者会議の報告書が国会に提出されてから、2年が経過しました。皇族の減少と高齢化に対する陛下の受け止めと、皇室の活動の将来像をどのようにお考えになっているかをお聞かせください。宮内庁の広報室が設置されて間もなく1年となりますが、海外王室のようにSNSでの積極的な情報発信は行われていません。皇室へのバッシングと受け取れる一部の報道やインターネット上の書き込みが続いていますが、情報発信のあり方や誤った情報への対策についても併せてお聞かせください。
【陛下】
現在、男性皇族の数が減り、高齢化が進んでいること、女性皇族は結婚により皇籍を離脱すること、といった事情により、公的活動を担うことができる皇族は以前に比べ、減少してきております。そして、そのことは皇室の将来とも関係する問題ですが、制度に関わる事柄については、私から言及することは控えたいと思います。昨年もお話ししたとおり、皇室の活動についての情報発信を考えるのに当たって、その前提として、皇室の在り方や活動の基本に立ち返って考える必要があると思います。皇室の在り方や活動の基本は、繰り返しになりますが、国民の幸せを常に願って、国民と苦楽を共にすることだと思います。そして、時代の移り変わりや社会の変化に応じて、状況に対応した務めを果たしていくことは大切であると思います。皇室を構成する一人一人が、このような役割と真摯に向き合い、国民の幸せを願いながら一つ一つの務めを果たし、国民と心の交流を重ねていく中で、国民と皇室との信頼関係が築かれていくものと考えております。国民と心の交流を重ね、国民と皇室の信頼関係を築くに当たっては、皇室に関する情報を、国民の皆さんに、適切なタイミングで、分かりやすく発信していくことは大事なことであると考えています。具体的な情報発信の行い方については、現在、宮内庁で検討が進められていると承知しております。
【関連質問1】
お誕生日、おめでとうございます。先ほどの、愛子様に関するところの関連でお伺いしたいのですが、陛下がずっと成長を見守ってこられる中で、愛子様が福祉ですとか日赤に関心を寄せられるきっかけとして思い当たるものが何かおありかどうか、また日赤に就職をしたいというお話をお聞きになったときに、陛下は率直にどのように思われたか、お聞かせいただけますでしょうか。
【陛下】
愛子は私たちの手元で育って、そして私たちが色々やっていることを間近に見てきていると思います。そのような中で、私たちも福祉についての話を愛子にすることもありましたし、いつの時点で、愛子が福祉に関心を持つようになったか、その辺はよくは分かりませんけれども、私たちの話などを聞きながら、そしてまた、自分自身でも自然にそういった福祉について関心を持つようになり、そして、今も話しましたけれども、何か福祉を通して人々の役に立ちたいという気持ちが徐々に形作られていったのではないかというように思います。そのようなこともあって、大学でも福祉の授業を履修しましたし、それから日赤に入りたいということを聞きました時は、やはり、雅子も私もとてもいい考えではないかというように思いましたし、これからも愛子のことを応援していきたいなというように思いました。
【関連質問2】
おめでとうございます。今の質問にも関連してしまうのですけれども、実際に今いい考えだとおっしゃいましたけれども、愛子様の海外での御生活、例えば留学生活とか、そういったことについては、どのようなお話し合いがあったのか、今後の可能性も含めてお話しいただければと思います。
【陛下】
愛子は私たちの元で育てましたけれども、海外からのお客様、特に王族の方々などがお見えになった時には、愛子もできるだけ、都合のつく限りは同席してもらって、そしてその外国の王族の方々などとも、王族に限りませんけれども、色々な方と交流を深めて、そして外国に対する、日本の国以外に対する、外国についても色々理解と知識を深めていってもらいたいというようなことで、今までも育ててきたように思います。大学では、本人も興味があって、英語以外に第二外国語、スペイン語を履修しましたけれども、これはまたこれで非常に良かったのではないかなと思いますし、それから高校生の時に、イートン校に短期留学でしたけれども夏の間お友達と一緒に留学をして、その際はもちろん語学の勉強もありましたけれども、オックスフォードを含めて、イギリスの中を何か所か回って、イギリスに対する理解も深めることができたと思いますし、もうちょっと遡りますと小さい時にオランダに連れて行ったということもありますので、そういうことを通して、海外に対する関心とか理解というものが深められていったのではないかと思います。この間はケニアの大統領御夫妻をお迎えしての宮中午餐(ごさん)に同席いたしましたけれども、今後やはり海外からのお客様と接する機会というのは増えてくると思いますし、一つ一つの機会を通じて、海外に対する理解を深めていってもらいたいと思いますし、いずれ海外への訪問というものもあるのではないかというように思っております。
いずれにしても、前にも話したことだと思いますけれども、日本にいるといろんな情報がインターネットなどを通じて分かりますけれども、やはり外国に行って実際にその場所を見るということはやはり何物にも代え難いものがあるように思いますし、実際にその場所に行って、そこにいる方々とお話をして、その国の社会や文化に接することによって、また更に大きく成長していってもらいたいというように思っております。