新型コロナ「全数把握」見直し開始 専門家は「大事な方向性」
新型コロナウイルスのすべての感染者の情報を集める「全数把握」の方法が、26日から全国一律で見直されます。
依然感染者が多い中、見直しで何が変わるのか、なぜ見直しが必要なのか。厚生労働省の専門家会議の構成員などを務める東邦大学教授の舘田一博医師に聞きました。
■感染者の「全数把握」とは
新型コロナ感染者の「全数把握」は、医療機関がすべての陽性者の氏名や住所、電話番号などを記入し、保健所に提出する「発生届」をもとに行われます。
しかし感染の第7波では感染者が急増し、この発生届の記入が医療機関の負担になっているとの声が多くあがりました。
政府は入力項目を減らすなどして対応してきましたが、連日感染者数が過去最高を更新する中で、さらなる負担軽減が求められていました。
オミクロン株の感染が主流となってからは、ほとんどが軽症者、その多くが自宅療養で対応出来ることなどから、政府はすべての陽性者の詳細な情報を把握するのをやめ、9月26日から全国一律で発生届の対象者を限定することとしました。
対象となるのは65歳以上や入院を要する人、重症化リスクがあり、コロナ治療薬や酸素投与が必要だと医師が判断した人、妊婦です。
それ以外の感染者については、医師から保健所に年齢別の人数のみを報告します。
発生届の対象者はこれまで通り保健所が健康観察し、対象外の人は自治体の健康フォローアップセンターなどに相談できるようにします。届け出がない場合でも、治療費は無料です。
政府は26日を待たずに、申し出のあった都道府県は発生届の対象を限定する措置をすでにとっていています。
■「全数把握」の見直しは妥当?
「全数把握」を見直すことは、感染状況を把握する上で問題はないのか。感染制御学が専門の舘田一博医師は、今回の見直しは「大事な方向性」だと話します。
東邦大学教授 舘田一博医師
「10万人、20万人というような感染者数が出ている状況で、軽症者も多いため、おそらく検査を受けていないような陽性者がたくさんいらっしゃるような状況。そんな中いつまでも全数把握を続けていくというのは、無理があるし効率もあまり良くない」「すべての感染者を把握する、その分母はしっかりおさえながら、調査するのは重症化リスクの高い人たちにしぼり、重点化を進めるのは大事な方向性だと思います」
その上で、新しい変異株の出現や、感染状況が変われば、感染動向の把握のためにも、またすべての感染者の発生届を出す方式の全数把握に戻すことも念頭に柔軟な対応が必要だと指摘します。
■だんだんと緩和?コロナの扱いは
舘田医師は、感染者の多くが軽症である第7波のような感染状況においては、対応の見直しをしていく必要があると言います。
その上で、新型コロナを感染症法上の「2類相当」(医療機関に全患者の氏名などの報告が求められる)として扱っている今の状況についても変更を考えるべきだとしています。
舘田医師
「国内で2000万人が感染するような感染症になってきている。そして第7波では、1000万人が感染をし、1万人が亡くなっている。その死亡率は0.1%。そういう状況になってきている中で、2類相当で見ていくということに関しては、そろそろ限界に達している。対策そのものを見直すべき状況です」
■「全数把握」の届け出対象でなくとも基本的な感染対策を
「全数把握」が見直され、政府や自治体が呼びかける対策が緩和されても、マスク着用、手洗い、密の回避、換気など基本的な感染対策は引き続き行う必要があります。
舘田医師は次の感染の波が来る可能性を指摘し、ワクチンを接種するなどひとりひとりの感染対策の徹底を呼びかけています。
舘田医師
「第7波は行動制限をかけずに感染のピークを乗り越えることができた。 ただ医療現場は非常に厳しくて、医療のひっ迫、一部医療の崩壊に近いような状態が見られてしまった」「療養期間も徐々に短縮されていますが、仕事に早く復帰するにしても、自分はまだウイルスを持っている、ウイルスを出している可能性があるというふうに考えて、基本的な感染対策を徹底していくということが大事になります」「第8波が来る可能性が高い。 そういう状況の中で、基本的な感染対策はまだしっかりと維持していただきながら、ワクチンの接種の接種券が届いたら、できるだけ早く接種を進めていただくということが大事になると思います」
終わりの見えない新型コロナの感染の波ですが、うまく対策に緩急をつけ、医療提供体制と社会経済活動を両立させることが改めて求められています。