“貴族”が営む店!? どんな色味も自由自在に操る万年筆用インクの調合 岐阜・大垣市「懐憧館」
岐阜県のとある店。ステンドグラスやランプ灯がおしゃれな外観ですが、中で売られていたのは、瓶に入ったカラフルな液体の数々…一体何のお店でしょうか?
9月に岐阜県大垣市にオープンしたお店。“貴族”が営む店だといいます。
川崎紘嗣さん:「色彩の錬金術師インクバロンと申します」
名刺に堂々と書かれた文字は「バロン」、つまり“男爵”。
記者:「誰が名付けた?」
川崎さん:「私が名付けた名前になります」
川崎紘嗣さん(47)。ある文房具のファンの間では有名な人物です。
それがインクの調合。万年筆用のインクを客の希望通りの色に、自由自在に作るのです。
客:「いいなぁ、いいけどもうちょい青のせます?」
川崎さん:「(もえぎは)奥行きのある色味なので僕はグレーも少し(入れたい)」
客:「なるほど、くすみ的な」
作業開始から50分後、ようやくできあがりました。
ここは、万年筆とインクの専門店。川崎さんを慕って多くの客が集まります。
客:
「今までもいろいろな色を買ってます。俳句をやっているので万年筆で書くと良い俳句ができた気になる」
川崎さん:「最近はやっぱり遠方から東京、大阪、遠くは海外からも(客が来る)。サンフランシスコとかハワイから」
記者:「海外から来た人は何を目当てに来た?」
川崎さん:「僕に会いに来たと」
そして、万年筆は初心者だという女性。最初は別のペンを見ていたのですが…。
川崎さん:「こういう1000円のやつとか」
女性客:「あ、結構、そんなにしない」
川崎さん:「これだとインク吸いあげる機械が別売りなので、それがプラス700円ぐらい」
女性客:「これってガラスペンですか?」
川崎さん:「これ万年筆です。インクの吸い上げ方もよかったらお伝えしましょうか」
安いものなら数百円からある万年筆。しかし、主力としたいのは2万円ほどの商品です。
高いものなら10万円を超えるものも。中身のインクも、使う人は限られるのが現状。
なぜ、万年筆とインクに絞った店を開いたのでしょうか。答えは店の隣にありました。
実は川崎さん、大正時代から100年続く文具店の5代目。生まれたときから文房具に囲まれて暮らしてきました。
川崎さん:
「店の商品勝手に使って怒られてましたけど、(友達に)この色知ってる?みたいな。誰も知らないような色も(使っていた)」
跡を継ぐのが当たり前だという感覚が大きく揺らいだのは、20年ほど前。
川崎さん:
「大きな会社がインターネットとかカタログ販売に移行して」
街の文具店の大きな収入源だった、地元企業からの発注が激減。さらに、市場全体もデジタル化やテレワークの流れで、縮小傾向を迎えています。
先代の父親からは「もう、文房具屋さんはやめた方がいい」と言われます。しかし諦めがつかなかった川崎さんが、代替わりとともに取り扱いを増やしたのが万年筆でした。
川崎さん:
「最初はこれだけしかなかったです。インターネットとかの店で売っていないような文房具を皆さんにご紹介したいっていう思いからスタートして」
次々と仕入れ始めた万年筆。妻の恵子さんは不安だらけでした。
妻・恵子さん:
「届いたものの金額をつけるじゃないですか。何万円となったとき、毎日クラクラしながらこれ本当に売れるの?これ仕入れて大丈夫?って本当に毎回思っていました。最終的には応援する形になりましたけど」
豊富な知識を武器にファンを増やし、専門店を新しく持てるほど評判となった、川崎さんの店。
2階にはカフェスペースも。お客さんが風呂敷から取り出したのは…もちろん、万年筆です。
お客さんたち:
「これだけ買わされたんや、川崎さんに」
「このケースだけで軽自動車の中古車1台買えるかなってぐらい」
「これぜひ書いてみて」
自分の万年筆プレゼン合戦が始まりました。
買って終わりではなく、いろんなインクを試したり、書き心地を追求したり、語り合ったり。奥が深い万年筆の世界。
川崎さん:
「唯一無二自分だけの相棒を育てていけるのはいろいろな文房具がありますけど、万年筆が筆頭に上がるかな」
その案内人である川崎さんの挑戦は続きます。
【中京テレビ 「キャッチ!」 10月19日放送より】