余り生地「残反」が“繊維業界”復活の立役者に!? メタバースやSNSを駆使したデジタル戦略も好影響
コンサルで培った手腕が、岐阜の“繊維業界”を盛り上げる。SNSやメタバースなどデジタル展開を武器に、破棄の対象となっていた良質な「残反」を“求められる生地”に転換。ハンドメイド作家たちからも注目を集める、「生地のM」(株式会社BISITS)社長・宮島大輔さんの活動を追った。
「残反」に新たな価値をつけて“安く”販売
岐阜県各務原市で行われたイベント「Mシェ」。多く目についたのは、布製のハンドメイド作品。個性豊かな作品が並ぶなか、作品にはある“共通点”があった。
売られている布草履に注目してみると、台と鼻緒に使用されている布がそれぞれ異なることが分かる。実はこのイベントで販売されている作品に使用されている布は、すべて「残反」だったもの。作家さん達曰く「オンラインショップ「生地のM」で購入した布」がほとんどだそうだ。
「普通の生地屋さんで手に入らない布が手に入ったり、割とお手頃で購入できる」と、作家さんたちから人気を集める「生地のM」。「残反」とは、アパレル業界で洋服などを作る過程で余ってしまった生地のこと。上質な生地であっても、通常は売られることはなく、破棄されてしまうことがほとんどだ。
「生地のM」は、そんな“残反”に新たな価値をつけ、“買ってもらうもの”として市場にリリースするオンラインショップ。その仕組みには、「生地のM」社長・宮島大輔さんが抱く、岐阜の“繊維業界”の復活への夢が託されていた。
コロナ防護服が型紙用生地に変身!
岐阜県美濃市にある「生地のM」オフィス。物流倉庫には、全国各地から買い取った様々な「残反」が積み上がっていた。保管されている残反の長さを合算すると、およそ50キロメートル、名古屋駅から蒲郡駅に届くほどの長さになるという。
残反を買い取り、ハンドメイド作家さんに再販することで、質の良い生地を市場に“戻すこと”が「生地のM」の狙い。残反のため仕入れ値もおさえられることから、オンラインショップ内で通常の半額ほどの価格で安く販売することができるのだ。
なかには、コロナ禍の暮らしを思い起こさせる「残反」も。「これは不織布になるんですけど、コロナ防護服に使われていた生地なんです」と、防護服の素材である不織布を手にとる宮島さん。
「生地のM」では、コロナの感染縮小に伴い余った、約1万5000着分の防護服の生地を買い取り、型紙用として販売。破棄される運命あった生地に新たな使い道を見出しながらも、生地を生かすことで“コロナ禍”の記憶を人々の目に届く場所に残し続けることができるのだ。
メタバースで情報交換!SNS配信でお客さんと質疑応答タイム
「生地のM」がハンドメイド作家から多くの支持を集めている理由は、“値段の安さ”だけではない。オンラインが主流となった現代に馴染む、デジタルツールを生かした情報発信も人気を集めている。「生地のM」の公式SNSアカウントでは、宮島さん自らが登場するライブ配信を実施。お客さんと直接話せる機会を増やし、生地の説明や質問に答える時間を作っている。
また、「生地のM」主催でメタバース上に、ハンドメイド作家たちが集う空間を設置。作家たち同士が交流を通して、生地や出店情報など様々な情報交換ができる場となっている。
「地元を活性化させたい」新ビジネスに込めた願い
現在は岐阜県を拠点に、様々な方法で「残反」を“商品”として発信し続ける宮島さん。元々の職業はコンサルタントで、生地とは無縁の生活をしていたという。宮島さんを突き動かしたのは、同級生から聞いた“繊維業界の現状”だった。
この取り組みのキッカケについて、宮島さんは「僕の同級生がたまたま生地の事業をやっていまして。繊維業界ではアパレルの残反を破棄されていること、良い生地なのに海外に安く流されてしまっていることなど様々な現状などを聞いて、何かできるんじゃないかなということで(この取り組みを)スタートしました」と当時を振り返る。
日本有数の規模を誇り、岐阜県の発展も支えてきた繊維業界。地場産業として、岐阜県に多くの雇用も生み出してきた存在だ。しかし、現在では国産生地は安い値段で海外に流れ、その大半が「残反」となり行き場をなくしている。
「生地のM」の取り組みを通して、再び岐阜の繊維業界を盛り上げることが宮島さんの目標だ。今後の展望について、「この場所(岐阜)が僕はすごく好きで、地元を活性化させていきたいっていう思いがある。繊維をきっかけに世界展開できる事業を立ち上げて、より多くの人が働ける場所をこの岐阜に作りたい」と語った。
循環型社会を目指し、“今あるもの”を生かし続ける取り組みが注目される近年。「残反」が新たな価値と居場所を開拓し、日本の繊維業界を再び盛り上げる“立役者”となる日が楽しみだ。