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今の望みは「家族と普通の話をすること」、ウクライナ人デザイナーが“自動販売機”に描いた平和への願い

2023年11月13日 19:06
今の望みは「家族と普通の話をすること」、ウクライナ人デザイナーが“自動販売機”に描いた平和への願い

ウクライナから避難してきた、ウクライナ人デザイナーのエリザベータ・コロトコヴァさん。離れて暮らす家族と再会したとき、彼女が一番したいこと。それは、争いが始まる前まで当たり前だった、“普通の日常”を家族全員で過ごすことだった。

白鳩のイラストに託した世界平和の願い

今年9月、岐阜県岐阜市の柳ヶ瀬商店街に一台の自動販売機が設置された。販売しているのは、地元名物のどて煮やケイちゃん焼き、ウクライナの伝統料理「ボルシチ」。販売機には、青空へ向かって咲く大きなひまわりとオリーブをくわえた白鳩のイラストが描かれていた。イラストデザインを手がけたのは、ウクライナ人デザイナーのエリザベータ・コロトコヴァさん。去年3月にウクライナ・イルピンから名古屋に避難、現在はグラフィックデザイナーとして活動している。

自身がデザインした自動販売機を前に、「信じられないほど嬉しい!」と満面の笑みを浮かべるエリザベータさん。彼女曰く「自動販売機の文化がない」というウクライナ。エリザベータさんが手がけた自動販売機は、イラストを通して2つの国の文化が重なった交流の証にもなった。

イラストに込めた想いについて、「鳩は世界平和のイメージがあるので、“ウクライナに平和を”という想いで描きました」と流暢な日本語で語るエリザベータさん。そんな様子を笑顔で見守り、彼女が紡ぐ言葉にうなずく男性がいた。エリザベータさんにデザインの依頼をした、岐阜市の弁当製造会社「ニシキフード」の岩田国大社長だ。

“ウクライナの支援になれば”とデザインを依頼、販売商品に「ボルシチ」を提案したのも岩田さんだった。販売の経緯について、「ボルシチはウクライナで言うと、日本のみそ汁に近いと聞いた。(ウクライナの)戦争が起こる前の日常を、他の方にも興味を持ってほしいと思った」と語る。ボルシチは販売前に、もちろんエリザベータさんが試食。「塩を少々加えると、もっとおいしくなる」などエリザベータさん自らが意見を出しながら、岩田さんと試行錯誤を繰り返して仕上げたこだわりの味にも注目だ。

YouTubeチャンネルも開設!避難民の生活を日本語で配信

避難してから約1年半経った今、岩田さんや取材スタッフと日本語でスムーズに会話するエリザベータさん。しかし、日本に来たばかりの頃は、岩田さん曰く「通訳がいないと意思疎通もとれない」状態だったという。日本語を理解するため、毎日欠かさず日本語を猛勉強。現在の流暢な日本語は、エリザベータさんの努力の賜物なのだ。

日本語の成長も相まって、グラフィックデザイナーとしての仕事の依頼も少しずつ増加。さらに、半年前から、YouTubeチャンネル「BetKor」を開設。“避難民の生活について、もっと知ってもらいたい”と想いのもと、エリザベータさん自らが日本語で、日本での暮らしを紹介している。浴衣を着て夏祭りへ出かけたり、打ち上げ花火を見たり、日本の文化を学んでいく様子が公開されている。

家族みんなが一緒に眠るイラストに込めた想い

エリザベータさんに、新しいイラストデザインの依頼が舞い込んだ。依頼人は、岐阜県美濃加茂市の寝具会社「夢幸望」早川義則社長。エリザベータさんが手がけたイラストは、巨大な看板となって「夢幸望」に掲げられた。完成した看板を見て、「すごいね、(実物は)やっぱり違います」と喜びを滲ませるエリザベータさん。依頼理由について、「(彼女の)イラストの独特なタッチが良かったのでお願いした」と彼女ならではのデザインを挙げた早川さん。看板を眺めながら、「ぴったりなイメージが出来上がったので良かった」と満足げな表情を浮かべた。

今回のイラストは、エリザベータさん自身の“家族”をイメージ。離れて暮らす家族とは、もう2年ほど会えていないという。看板には、両親と一緒に毛布にくるまって、ぐっすり眠っている小さな女の子が描かれていた。イラストに込めた想いについて、「私の家族は夜になったら、一緒に動画を見たり、今日の出来事を話し合っていました。今は、毎日連絡できなくなってしまったので、また同じことをしたい。そんな懐かしい気持ちで描きました」と家族との思い出を振り返った。

国連によると、ロシアによるウクライナ侵攻以降、国内での民間人の死者は9,900人にのぼるという。さらに先月からは、ウクライナだけでなく、イスラム組織「ハマス」とイスラエルの衝突も始まり、多くの命が失われている。

激しさの強まる戦況に、エリザベータさんは「イスラエルに避難したウクライナ人も多い。どうしてそういうことをするのですか?どうして争いをしているんですか?すごくひどいと思います」と苦しい胸の胸中を明かした。続けて、「早く争いが終結し、ウクライナで家族に会いたい」と切実な願いを口にした。

家族と再会できたら、エリザベータさんにはやりたいことがあるという。それは、「家族と普通の話をする」こと。“自分の経験や自分が頑張ったことについて、家族に話したい”、それが彼女が抱く一番の願いだ。

「夢幸望」の看板に描かれた家族のイラストには、そんな当たり前に存在していた“幸せな日常”への憧れが詰まっている。

いまだ争いの終息がみえない日々について、エリザベータさんは「頑張るしかない」と力強く語る。彼女が描いていく平和な日常が、早く現実となることを祈るばかりだ。

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