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【無痛分娩】女性の体に負担「人権の問題」仏は約30年前から保険適用 国に先駆けて東京都が助成へ…提供体制の課題は?

2025年1月23日 11:00
【無痛分娩】女性の体に負担「人権の問題」仏は約30年前から保険適用 国に先駆けて東京都が助成へ…提供体制の課題は?
東京都が無痛分娩(ぶんべん)の費用を最大10万円助成する方針を明かしました。安全な提供体制への課題が指摘されますが、専門医からは、都の税金での助成は「理にかなっている」という声も。自らも無痛分娩を経験したnews every.の松坂くるみディレクターと深掘りトークします。

◾️ “無痛”分娩のはずが「人生で最も痛い経験」

報道局ジェンダー庭野めぐみ解説委員:
無痛分娩とは、麻酔を用いて陣痛に伴う痛みを和らげながら出産をおこなうことです。局所麻酔で妊婦さんの痛みを和らげますが、赤ちゃんに麻酔がかかることはありません。また、陣痛の痛み以外の感覚は残るので、助産師さんの指導を受けながら妊婦さんがいきんで産むことができるとされているといいます。

松坂さんは実際に経験したのですよね?

news every. 松坂くるみディレクター:
第1子の出産時に無痛分娩をしましたが、“無痛”のイメージとは違い、人生で最も痛い経験でした。

「麻酔を入れたいと思ったらいつでも入れていいので言ってください」と言われていたのですが、初めてのことなので加減が分からず、ある程度まで我慢してから、「麻酔お願いします」と言ったんです。ただそのときに、麻酔科の先生が他の患者さんに対応していたこともあり、1時間ぐらい待ちました。その間にどんどんお産が進んでいき、人生で最も痛かったです。

麻酔を入れたら一瞬でおなかの痛みはなくなりましたが、お産の進みが早かったので、痛くなる箇所が腰とかおしりに降りていきました。それに麻酔が追いつかず、全く痛くない時間はあまりなかったです。

“無痛”分娩という名前とのギャップが疑問だったので、無痛分娩についての著書もある神奈川県立保健福祉大学の田辺けい子准教授に話をききました。そもそも分娩が始まっている、すなわち、陣痛がきたことを確認しないと麻酔ができないそうです。

庭野:事前に打って、いつ陣痛がきても大丈夫ということではないんですね。

松坂:それに加えて、日本ではまだまだお産の麻酔に対応できるスキルを持った麻酔科医の先生が少ないので、私のように待ち時間が発生するケースがあるそうです。

さらに技術の差が激しいことに加え、医師や病院の考え方によって痛みのコントロールをどれだけするかもばらつきがあるそうです。

庭野:痛みが少ない分、出産後の回復が早いともいわれますが、どうですか?

松坂:田辺先生は、出産の方法に関わらず、産後の体はどんな体も産後の状態だと話していました。無痛分娩は回復が早いと強調されて、“じゃあ楽なのかな”というイメージが広まることで、周囲や本人が産後の体のことを安易に考えてしまうのはすごく危険なことなので、出産方法に関わらずしっかりと体を休めてほしいと警鐘を鳴らしていました。

◾️「無痛分娩を選ぶことについて」20代の90%が“賛成”

庭野:東京都によると、都在住で出産経験のある人を対象にしたアンケートでは、無痛分娩を希望するという産婦は6割を超えていたということです。

庭野:しかし、無痛分娩を実際に選択する割合は低く、厚生労働省の調査では日本全体で8.6%となっています。

日本テレビでは2023年に、無痛分娩に関するアンケート調査を行いました。リサーチ会社に登録しているモニターを対象に、20代以上の1054人から回答を得ています。

その結果、「無痛分娩を選ぶことについて」は「賛成」「やや賛成」の合計が80.9%とかなり高い割合でした。年代別で見ると、若い世代でより無痛分娩が支持されています。20代では、「賛成」「やや賛成」が90%を超えていますが、60歳以上では70%台になっています。

松坂:私も、世代間で出産の痛みに関する認識に差があるのではないかと感じていました。

無痛分娩をする際、親に「何かネガティブなことを言われたらどうしよう」と思うと、積極的には言えませんでした。

しかし、出産が近づく頃に母から「無痛にするの?」ときかれ、「そうだよ」と答えたら、「私のときも無痛があったらそうしたと思う」と言われて、「あ、そっちだったんだ」と安心しました。

アンケートを見てみて、これだけ多くの人が賛成していると認知されると、「無痛分娩を希望しています」ともっとオープンに話せるようになるのかなと思います。

◾️なぜ広がらない?費用は10万円超えも

庭野:日本テレビが行ったアンケートでは、「無痛分娩するかどうかは女性の意思によるべき」に「そう思う」「ややそう思う」と回答した人は全体の71.5%でした。

松坂:都の調査でも6割以上の方が無痛分娩を希望しているのに、なぜ実際には選択する人が少ないのでしょうか?

庭野:明確にはわかりませんが、費用負担の大きさが原因の1つになっています。日本テレビのアンケートでは、「無痛分娩は費用負担が大きい」と答えた人は、「そう思う」「ややそう思う」を合わせると54.7%と半数を超えました。

さらに、男性が48.5%に対し、女性は60.6%と、女性の方が費用負担の大きさを気にしています。

松坂:自分が耐えればお金を節約できると考えるのかもしれませんね。

松坂:田辺先生によると、フランスでは無痛分娩が全額保険負担になった翌年の1995年から合計特殊出生率が回復し始めたそうです。ただ、無痛分娩になったからという簡単な話ではなく、同時に産後ケアなど生まれた後のサポートも充実させたということです。

さらに、フランスでは出生率を上げたいからというより、女性の体にかかる負担を減らすための助成であって、人権の問題だという考え方だそうです。

庭野:痛みを我慢すべきではなく、取り除く方法があるなら、人権のために進めていきましょうということですね。しかも、30年前から全額保険負担であると。

日本では「出産は病気ではないから」ということでまだ保険適用になっておらず、政府は2026年の4月からの出産に保険を使えるようにしようと検討を進めています。

■都が無痛分娩に助成へ…東京と地方で格差

庭野:東京都は今年10月から、無痛分娩の費用に対し最大10万円を助成する方針です。都によると、無痛分娩にかかる費用を調査した結果、平均で12万円弱だったとして、自己負担を減らすことを目的に助成額を最大10万円に設定したということです。

さらに、安全に無痛分娩を選択できる体制づくりとして、医療従事者向けの研修や最新の知見を共有する会議を実施するとしていて、これらを含め、無痛分娩費用助成事業として2025年度予算案に12億円を計上しました。

松坂:都が公式にバックアップしてくれるのは心強いですよね。田辺先生も、賛否はあると思うが、女性の痛みに対して都が目を向けて発信してくれていることはかなり評価できると話していました。

また、産婦に対して助成金を出すだけでなく、安全に実施するための体制づくりにも予算をつけて、の両輪でやっているところが重要だということです。

庭野:無痛分娩を行う施設とも連携し、東京都内のクリニックで診療している産婦人科医の稲葉可奈子医師は、「ここ数年の急激な分娩数の減少を背景に、分娩数確保のためにも無痛分娩のニーズにこたえる必要がでてきて、都内では総合病院も続々と無痛分娩をはじめています。麻酔科と連携して安全に行われている施設が年々増えていて、環境が整っている東京都で、都の税金によって助成するというのは、理にかなっていますし、無痛分娩を望む方にとってはありがたいことです」と話していました。

松坂:日本産婦人科医会の調査によると、2023年の全分娩に占める無痛分娩率を見ると、東京が一番高くて30%近いのに対し、5%にも満たない県もあるんです。

庭野:少子化で閉鎖されたり統合されたりと、無痛分娩どころか分娩できる施設も地方には少なくなっています。

庭野:小池都知事は、「希望する人が安全・安心に無痛分娩できるよう、ニーズに応じて体制づくりを進めていく」と述べています。

また、稲葉医師は「虫歯の治療や手術も、その時だけだからと麻酔なしで行わないのと同様、安全に痛みを和らげる方法は活用してよいと思います」とコメントしています。

「昔は我慢していたから」「痛いのは当たり前だから我慢するんだ」ではなく、痛みを和らげる選択肢があるなら、それを選べるべきです。そのときに、地域や経済的な問題、あと知識の量とかで差がつくのではなく、無痛分娩を選びたいと思えば、どういう人でも選べる環境が整うといいですよね。

■Talk Gender~もっと話そう、ジェンダーのこと

日テレ報道局ジェンダー班のメンバーが、ジェンダーに関するニュースを起点に記者やゲストとあれこれ話すPodcastプログラム。MCは、報道一筋35年以上、子育てや健康を専門とする庭野めぐみ解説委員と、カルチャーニュースやnews zeroを担当し、ゲイを公表して働く白川大介プロデューサー。 “話す”はインクルーシブな未来のきっかけ。あなたも輪に入りませんか?

番組ハッシュタグ:#talkgender

最終更新日:2025年1月23日 12:50
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