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性別は“男女2つしかない”…トランプ新政権のトランスジェンダー抑圧政策とは?スポーツ/学校/軍隊から排除も──

2025年1月18日 11:00
性別は“男女2つしかない”…トランプ新政権のトランスジェンダー抑圧政策とは?スポーツ/学校/軍隊から排除も──
「トランスジェンダーの狂気を終わらせる」と発言するトランプ氏。大統領就任後、軍隊や学校などからトランスジェンダーを排除するなどの大統領令に署名するかもしれません。当事者の権利はどうなるのか、20日の就任式を前に、NNNニューヨークの末岡寛雄支局長と深掘りトークします。

■就任前に駆け込みで…第2次トランプ政権を待つアメリカ社会

報道局ジェンダー班 白川大介プロデューサー:
間もなくトランプさんが大統領に就任するという今、アメリカの社会はどんな雰囲気なんでしょうか。

NNNニューヨーク 末岡寛雄支局長:
収録しているのが1月6日なんですが、4年前、バイデンさんが大統領に就任することが決まって、議事堂にトランプさんを支持する人たちが乱入したのが1月6日なんですね。アメリカメディアは「あれから4年経った」というニュースを今日はいろいろ伝えています。

ただ、トランプさんの就任も、もう2回目になりますので、表面的には選挙結果を皆さんみんな受け入れて落ち着いているように見えます。

白川:“嵐の前の静けさ”かもしれませんけどね。

末岡:一方で、トランプさんが就任する前に駆け込みでいろんなことが決まっています。

例えば、ニューヨークは昨日から「渋滞税」という税金が課されるようになりました。マンハッタンは渋滞がすごいんです。昔ながらの街で、町中に高速が走っていないので。しかも地下鉄は老朽化していてボロボロです。そこで、マンハッタンに乗り入れる車から日中は9ドルを徴収して渋滞を緩和し、徴収したお金で公共交通機関を整備する「渋滞税」が1月5日から導入されました。

でも、トランプさんはこれに対して反対しているので、就任したらひっくり返る可能性があります。

白川:いやー…大変ですね。

■“男性性”を強調…トランプ集会の“音楽”に現れた選挙戦略 

白川:大統領選挙を振り返って印象的なことは何でしたか?

末岡:私は音楽が好きなんですが、使われている曲ひとつとっても、トランプさんの集会とハリスさんの集会では全く印象が違いました。やっぱりトランプ陣営では“男性性”を音楽でもすごく強調していたのが面白かったなと私は感じました。

白川:例えばどんな音楽だったんですか?

末岡:トランプさんが登場する時に毎回流れる「私はアメリカ人であることにプライドがある」みたいな曲があります。あとはヴィレッジ・ピープルの曲も流れます。よく知っている曲で言うと『YMCA』。

白川:日本で言うと西城秀樹さんですね。

末岡:そうです。あとは有名な『マッチョマン』という曲があるんですが、ミュージックビデオをみると屈強な男の人が出てきます。ヴィレッジ・ピープルはもともとゲイのイメージを前面に出したアーティストなんですよ。その“男性性”を切り取って、「トランプはすごく男らしいんだ」と集会の中で強調していました。

白川:LGBTQの権利とかではなくて、“ゲイを象徴する演出”だったヴィレッジ・ピープルの“男性性”の部分を記号として利用している印象ということですね。

末岡:もちろん多様性というのはすごく大事ではあるんですが、LGBTQって「性的少数者」といわれるように、少数なんですよ。多数はシスジェンダーであり、ヘテロセクシャルです。そこに対して訴求するメッセージを流して票を確実に取りに行くのがトランプさんの戦略でした。良いか悪いかは別にして、その戦略がすごく効いたと思いました。

■「狂気を終わらせる」トランスジェンダーに矛先を向けるのはなぜ?

白川:性的マイノリティーに対しては、トランプさんは第1次政権でも厳しい姿勢を示していたと思うんですけれども、今回も同じようなスタンスなんでしょうか?

末岡:選挙期間中から繰り返し、「世の中には性別は男と女の2つしかない」というような言い方をしていたんです。特にキリスト教の福音派系の集会に行くと、その発言で保守的な人はもう拍手喝采するという状況でした。

12月の演説でも、トランプさんは「トランスジェンダーの狂気を終わらせる」とまで発言をしています。元々アメリカではトランスジェンダーへの抑圧が一昨年ぐらいから進んでいましたが、さらに進みそうです。

白川:末岡さんは以前にトランスジェンダーの若者に対する性別適合治療に対して、州ごとにルールが定められ、それによって今まで受けていた治療が受けられなくなる当事者の方を取材していましたよね。

末岡:1年半前にアメリカで、トランスジェンダーの18歳未満の若者への性別適合手術やホルモン治療などを禁じる法案がどんどんできていると聞いて、アイオワ州に住む若者を取材しました。その方は生まれた時の体の性別は男性だったんですが、女性として生きようとしている人だったんですよね。

彼女は当時病院に通ってホルモン治療をしていました。でも自分の住んでいるアイオワ州ではその治療が受けられなくなってしまうので、他の州でお医者さんを探しているという状況でした。

共和党からすると、「子どもが思春期でまだ自意識もはっきりしてない時に、性別を決めて、ホルモン治療とかをやるのは良くない」というのが言い分です。しかし、当事者を取材してみると、「自分が成長期に入って声が変わったり、ひげが生えたりするのは耐えられない」と。「それで絶望しちゃうから、ホルモン治療したことによって自分は自分らしくいられた」という声を聞いたんです。

LGBTQとひとくくりにされるんですが、トランスジェンダーは“すごく異質なもの”といろんな人から見られがちなところがあります。トランプ陣営がトランスジェンダーに矛先を向ける背景には「トランスジェンダーを攻撃するとLGBTQコミュニティーを分断しやすい」みたいな狙いがあるんじゃないかと、取材をしていて感じました。

■「Kamala is for they/them. President Trump is for YOU」

末岡:白川さん、「ジェンダー代名詞」って知っていますよね?

白川:今だとSNSに「She/Her」とか「He/Him」とか書いている方が海外だと結構いると思うんですけど、そのように、「私は彼って呼ばれたいよ」「私は彼女って呼ばれたいよ」と、呼んでほしい代名詞を表明することですよね。

末岡:男性だったら「He/Him」、女性だったら「She/Her」と書く人が多いと思うんですけれども、自分の性別を定義したくないとか、分からないという方たちは、「自分の代名詞を『They』としてください」と書くんですよ。

それをトランプさんをうまいこと選挙活動に使って、「Kamala is for they/them. President Trump is for YOU」というキャッチコピーを使いました。つまり、「カマラは自分を『They』と呼ばせ、性別を規定しないやつのために仕事をしてるんだ。トランプは『You』、つまりあなたと共にある」と。これが保守的な人から受け入れられたという。

白川:「they/them」が単に「あいつら」とか「あの人たち」という意味じゃなくて、ジェンダーに対して「“男女”を曖昧にしようとしているあの人達」というダブルミーニングになっているということなんですね。悔しいですけど、言い回しとしてはちょっと上手いなと思ってしまいます。

末岡:さらにこのキャッチコピーを、ちょっと着飾ったようなトランスジェンダーの人の写真にかぶせるんですよ。「ちょっと奇抜だろうこの人達は」と視覚的にも訴えるところが、見ていて嫌だなと私は思いました。

■第2次トランプ政権発足の影響 スポーツ/軍隊/学校でも…

白川:就任した後は、具体的な政策として例えばどんなことが予想されるんですか?

末岡:トランスジェンダーの女性が女子スポーツに参加することを禁止したいと。さらに軍隊からトランスジェンダーを排除し、小中高校からもトランスジェンダーを排除するといった大統領令に署名する話が出てきています。

白川:アメリカの軍隊における性的マイノリティーというのは結構長い闘いの歴史があって、私も大学時代に学んだんですけれども、「Don’t ask, Don’t tell」、つまり「きいてはだめで、言ってもだめだ」ということで、同性愛者であることを軍側も問いたださないし、当事者の側も言わなければ軍で働いていいというルールになったのが1990年代のことです。

それからいろんな闘いの経緯があって、バイデン政権下で正式にトランスジェンダーが軍隊で働く権利が守られました。それがまたひっくり返されるかもしれないとなると、軍隊で働く当事者にとっては本当に不安ですよね。

末岡:トランスジェンダーの人たちを支援するホットラインの相談件数が急増しているそうです。AP通信が報じたんですが、過去1週間半で通常の1ヶ月間の電話件数を上回る電話がかかってきているそうで、トランプさんが就任してからどうなるか分からず、トランスジェンダーの中では不安が高まっているようです。

白川:軍隊とか教育現場から排除するというのは人権の面でもかなり踏み込んだというか、危ういメッセージかなと思います。それがトランプさんの支持者にはうけてしまう背景には、一体どういうものがあると感じていますか?

末岡:昔ながらの伝統的な価値観ですよね。家族があって、子どもがいて、郊外に住んで、車を運転して…というような昔ながらのアメリカの生活で、頑張って移民として働いてきた。自分たちが白人の世界として培ってきたものが壊される、価値観が変わっていくことに対して強烈に拒否する人達はやっぱりいて、そのパワーをトランプさんは巧みに引きずり込んできたのかなと。

ジェンダーの話とは変わりますけど、移民2世、3世の人に「アメリカは移民の国なのに、なんで新たに来る人を排除するの?」と、素朴な日本人の疑問として聞いたことがあります。すると、「移民にも良い移民と悪い移民がいる。自分たちの先祖は正当な手続きを経て、アメリカへの忠誠を誓って移民になった。でも今は違う。不法移民が『金が欲しい』『働きたい』だけで南の方からどんどんどんどん流れてきて、私たちの社会がどうなるか分かんない」というふうなことを言う人がいて、僕はすごく腑に落ちたんですよね。

移民の中でも全然考え方が違って、自分たちが培ってきたアメリカという国の土台が壊されようとしているところへの強烈な拒否感と抵抗。 “断末魔の叫び”と言うと言い過ぎかもしれませんけど、それに近いものを感じます。

■Talk Gender~もっと話そう、ジェンダーのこと

日テレ報道局ジェンダー班のメンバーが、ジェンダーに関するニュースを起点に記者やゲストとあれこれ話すPodcastプログラム。MCは、報道一筋35年以上、子育てや健康を専門とする庭野めぐみ解説委員と、カルチャーニュースやnews zeroを担当し、ゲイを公表して働く白川大介プロデューサー。 “話す”はインクルーシブな未来のきっかけ。あなたも輪に入りませんか?

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最終更新日:2025年1月18日 11:49