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被爆二世 証言を通じて継承される平和のメッセージ

2023年6月28日 0:00
被爆二世 証言を通じて継承される平和のメッセージ

原爆投下から、間もなく78年。
「あの日」のヒロシマを知る被爆者の思いを伝える「つなぐヒロシマ」です。今回の主人公は、95歳の父親とその体験を語り始めた被爆2世の男性です。

細川洋さんは、被爆2世です。

■細川洋さん
「なかなかね大丈夫じゃろ思っていたが夕べくらいからドキドキしてきて夜中に目が覚めたりね」

県立高校の校長を最後に、教職から退いて2年余り。
この日被爆2世として、原爆について語ります。

原爆投下から間もなく78年。被爆者の平均年齢は、2022年初めて84歳を超えました。この現状を受け、新たな証言や語ることが難しくなった体験をその身内が伝えていくのが「家族伝承者」です。
広島市が、2022年新たに募集を始めました。細川さんが語り継ぐのは、父・浩史さんの記憶です。

■浩史さん証言「(妹が)行ってきますと言って駆け出した音が今も耳の底に残っている。それからもう帰って来なかったですけど」

被爆したのは、17歳のときでした。

その体験を「語り部」として話し始めたのは60歳を過ぎてから。欠かさず伝えたのは4歳下の妹のことでした。妹の森脇瑤子さんは、爆心地から700メートルの場所で全身を焼かれました。13歳の死でした。

施設の浩史さんは、その悲しみを20年以上にわたり語ってきました。
3年半前に体調を崩し、証言活動はかなわなくなっています。そんな姿を、間近にみてきた細川さん。退職を機に、父親の悲しみを語り継ぐことを決心しました。

■洋さん  やあ久しぶりじゃね浩、よく来てくれました
■洋さん  元気にしとった?
■浩史さん まあね
■洋さん  お昼食べた?
■浩史さん 食べた食べた食べたかいね?忘れた

浩史さんは、高齢者施設で暮らしています。
しかし、コロナ禍が証言を受け継ぐと決めた細川さんに立ちはだかります。親子が顔を合わすのは10か月ぶり。そして焦りも募ります。

■細川洋さん「父が元気で生きて話ができる時間というのはそんなに長くはないでしょうから、家族としてどれだけ(記憶を)掘り起こして父親の思いに迫れるかなというのを改めて思いました」

講義など広島市が掲げる研修期間は、原則2年間。
原子爆弾の威力について学ぶ講習や、証言を詳細に聞き取り、原稿にまとめる時間も必要です。しかし、浩史さんは今95歳。この1年は病気やけがで入退院を繰り返し、一時は命の危機に晒されたこともあると言います。

今でなくては間に合わない。細川さんは。原稿の作成を急ぎました。そして、原則2年とされた研修を1年で終了。浩史さんが大量の資料や原稿を自宅に保管していたことが、期間の短縮に繋がりました。

4月。細川さんら7人が「家族伝承者」の1期生として委嘱を受けました。

■細川洋さん「お父ちゃんの体験を引き継ぐ許可証をもらったけんね」
■浩史さん「そうか!驚いた驚いた」

父・浩史さんに真っ先に報告したのは、言うまでもありません。

■細川洋さん「お父ちゃんの気持ちをそのまま伝えていくようにがんばりますので」
■細川浩史さん「こういうことを僕は予想してないですからね」「後継者ができたって言うことは僕もある一つの安心した、という区切りができますね」

証言の場を離れたことを、思い悩んでいた父。ヒロシマの記憶が受け継がれます。


■洋さん「爆心地…瑤子ちゃんが亡くなった(被爆した)のが小網町の電停」

細川さんが初めて「家族伝承者」として証言を始めていました。
父・浩史さんとその妹の瑤子さんの人生に、およそ15人が耳を傾けます。

■細川洋さん「8月6日早朝、行ってきまーすと元気よく懸けだしていった瑤子さんの足音がいまも耳に残っているんよと父は言います」

家族として見つめてきた父・浩史さんの姿を思い描きながら語る、ヒロシマの悲しみです。

■聴衆「(家族の話を)記録に残されていること表に出して発表されることとても大切だな」

■聴衆「私も被爆二世で両親が被爆しているんですがやっぱり聞き取れなくて二人とも死んでしまった浩史さんが生きていてこどもが伝えていくのはとても大事なこと」
■細川洋さん「子どもたちや若い先生たちを父の話を繋いで育てていきたい種をまくことを広い範囲でしていきたい」
去年の8月6日以降、広島市が新たに死亡を確認した被爆者は4200人余り。
かつて37万人以上を確認した全国の被爆者は、現在およそ11万人とみられます。
残された時間には、限りがあります。
【2023年6月27日放送】

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