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【一問一答】新ロシア大使を直撃!

2024年7月13日 13:01
【一問一答】新ロシア大使を直撃!
ノズドリェフ大使

ことし5月に就任したニコライ・ノズドリェフ駐日ロシア大使。これまで記者会見も開かれず、メディアの取材には一切答えてこなかった“謎に包まれた”大使が今回、日本テレビの単独取材に応じた。ウクライナ侵攻、「もしトラ」、日露外交、北方領土、中国・北朝鮮・グローバルサウスとの協力…初めて明らかにされるロシアの思惑とは?

■「日露関係の基盤は破壊」…留学経験もある“知日派”大使が見た変化

──国際基督教大学に留学していたノズドリェフ大使。改めて来日して、現在の日本についてどう感じるか?

日本は大きく変わった。東京も空に向かってのびていく姿を楽しく見ている。日本に来る度に、いつも新しいものに出会っている感じがする。同時に、伝統そのものをきちんと守っているという側面があると思う。前に何回も訪れたところの姿はまったく変わらず美しく、それを眺めていくということ自体は本当にうれしく思っている。また、特に重要なことで変わらないのは、日本の人々だと思う。優しさ、そして本当に驚くほどの勤勉さは、まさに日本の方々の大きな特徴と言える。

──大使として、やりたいことは?

大使の仕事で一番大きな課題は、二国間関係を発展させ、新しい協力分野を探るということだと思うが、残念なことにここ数年、大きく変わった。数年前まではロシアと日本は本当に幅広い分野において関係を築き協力できていたと思うが、残念なことにそのしっかりした基盤は今はもうほとんど破壊されていると思う。

岸田政権は「同盟の連携」という口実をあげて、両国の国益に合致した協力を取り消すということだけではなくて、ロシアに対しては、「戦略的敗北」という方針を正式に宣言し、それを実施してきた。私の仕事で一番大きな課題は、あくまで二国間関係を安定させ、限られた分野であっても協力を保全し、何らかの形で発展していきたい。

■キーウの小児病院攻撃は迎撃ミサイルの“誤った操縦”と否定

──二国間関係に影を落とすのがウクライナ侵攻。8日にロシア軍がキーウを攻撃し、小児病院などで大きな被害が出たが、民間人が犠牲になる現状についてどう考えるか?

破壊をしたのはノルウェー製のNASAMSという対空防衛システムのミサイルだった。つまりロシアのミサイルを迎撃しようとして最終的に誤った操縦があったかもしれない。

──停戦の条件とは?

ロシアが望んでいるのは停戦ではなくて最終的な合意、つまり戦争をきちんと終結させるということだと思う。まず、今のドネツク・ルガンスク(ルハンシク)、ザポロジエ(ザポリージャ)、ヘルソンの行政区域からのウクライナ軍の完全撤退。もう一つは、NATO加盟を正式に諦めること。歩み寄る余地は今のところ見当たらない。

──それではウクライナに事実上の降伏を求めることになるが?

実際の降伏とは全く違う。国そのものを保全させるという利益は極めて大きいと思う。特にこの1年をみると、ウクライナ軍は極めて数多くの犠牲者を出して、逆に今は戦場で不利になっているので、おそらくあと1年から1年半ほどたてば、最終的に決断をするのではないかと思う。戦い続ければ、国そのものが極めて弱くなると思う。

■西側諸国の武器供与が“市民の苦しみ長引かせる”

──今後、核兵器の使用に至る危険性はあるか?

それは、まずないと思う。西側諸国はさらなるエスカレーションをしないように、今の状況はきわめて複雑だという考え方をはっきりと示すことだと思う。

──状況がエスカレートしていく道しかないのか?

アメリカと違い、グローバルサウスの国でブラジルや中国は平和のためのいくつかの提案を出している。それに対して、ロシアも極めて高く評価している。問題は、西側諸国のスタンスだと思う。自分がウクライナに兵器を提供して戦わせるという基本的な立場は根本的に間違っていると思う。最終的にそれはウクライナにとって手助けにはならず、市民の苦しみが長引く結果を招くのではないか。

■G7中心の枠組みは「変わりつつある」

──プーチン大統領が中国、インド、北朝鮮と相次いで首脳会談をした。「反アメリカ」「対米の枢軸」を意識か?

それは恐らくそちらの感じ方だと思うが、全く違ったものだと私は個人的に思う。実は、ロシアは国際舞台においては極めて肯定的な将来に向けたアジェンダを推薦している。

そのアジェンダは我々の良きパートナーでもあるグローバルサウスの国がよく理解している。今まで共通の問題解決のための回答を探るために数多くの国といろいろと協力している。中国もインドもそうだと思うが、中央アジア諸国は、依然として伝統的にしっかりした関係を持っており、これからもあらゆる分野においても協力していきたいと思う。

グローバルサウスの中に経済力・政治力を上げている国はたくさんあって、もっと平等な世界を作りたいと基本的に考えている。西側諸国については、国際貿易を見るといろいろ障壁を作っている。それに対しては、グローバルサウス諸国からは不満の声が出ている。これらの国はお互い力を合わせて自分の利益に沿ったアジェンダを率先していきたいと思っている。G7を中心とした現在の枠組みは今変わりつつある。

■中国・インドは「極めて重要」、北朝鮮は「隣国」と表現

──中国は欠かせない存在か?

中国はロシアにとって極めて重要な戦略的パートナーで、中国は13年にわたり、ロシアの貿易第一相手国だった。ロシアは中国の第三の相手国になった。これからも発展していきたい。

──インドは必ずしもロシアを全面的に支持ではなく、やはり、インドはインドで西側諸国とのコミュニケーションも考えているように思うが…

日本を例に挙げましょう。日本は全面的にアメリカを支持しているか?

──日本は日本の主権を持って…

どの国も自分の主権をもって自分の利益を大事にして国際協力をしていると思う。インドも全く同じだと思う。インドはロシアにとって戦略的にきわめて大事なパートナーで、その二国間関係は長い歴史を持っている。本当に複雑な状況においては協力を行ってきたと思い、これからも二国間関係の歴史を大事にして新しい未来も作っていきたい。上海協力機構も、BRICSも重要だと思う。

──北朝鮮とは「包括的戦略パートナーシップ条約」を結んだが?

北朝鮮はロシアの隣国なので、ロシアとしては隣国とできれば良い関係を築いていきたいと基本的に思う。「包括的戦略パートナーシップ条約」の重要なところは、さらなる協力の土台を作るということ。

■トランプ氏再選の場合「楽観的に見る余地はない」

──トランプ氏はロシアとウクライナを停戦させると話しているが、停戦交渉のテーブルにつくことはあり得るのか?

第一にトランプ氏の考え方がわからなければいけない。大統領になって、まわりの人と相談して最終的に出すと思う。交渉については、しっかりとした提案があれば可能性は十分ある。これまで交渉に積極的に取り組んできた流れがあるが、残念なことに成功していない。

──トランプ氏が大統領になった場合、ウクライナ支援や欧米の結束が乱れる可能性もあるがどう考えるか?

トランプ氏もここ数年変わったと思う。大統領になれば新しい点が出てくると思う。今予想するのは不可能だ。

──内々に話を通じていることは?

それはないと思うが、ロシア、アメリカ関係にとっては極めて複雑な時期だった。楽観的に見る余地は全くないと思う。

──トランプ大統領になっても状況は変わらないと思うか?

おそらく最終段階はあまり変わらないのではないかと思う。

■アメリカ人記者拘束「プロなら線引きわかるはず」

──アメリカのウォールストリートジャーナルの記者がスパイ容疑で収監されているが、どういうことなのか?

こうした活動をするとこのような状況になるというのは重要なことだと思う。今回が初めてアメリカ人が拘束された事件ではないと思う。今までも何回もスパイ活動をして最終的にロシアの法的機関によって拘束されたケースは多かった。

──国連人権理事会の作業部会は根拠もなくスパイだと主張した恣意(しい)的な拘束だと認定したが?

それはまったく根拠がないと、私は個人的に思っている。ご存じの通り、私は2007年から2010年までロシアの北米局で課長をつとめていたが、こうした事件は時々起こる。残念なことに、明らかなスパイ行為だといえる。

──取材なのにスパイ行為に見えてしまうと?

それは取材ではなくて、実際にしている行動や情報による。その線引きはプロのジャーナリストならわかるはずだ。

■“敵対的な態度の撤去”しない限り、日本との「対話はない」

──プーチン大統領は2000年に大統領として初めて来日し、1956年の日ソ共同宣言の有効性を認めると話した。歯舞・色丹の2島は平和条約締結後に日本に返還される56年宣言を出発点と再確認し議論が始まった。それから20年以上で状況が変わった。2016年にプーチン大統領にインタビューした際は、「領土問題は存在しない」と。返還した北方領土に米軍基地がつくられるかどうかも気にしていた。ロシア政府としては、領土の返還は米軍の基地が置かれないことが前提になるのか?

戦後すぐ締結される平和条約という文書だが、80年という長い月日がたっている今、全く同じような条約について議論すること自体が現実を無視することだと思う。

だから、ここ数年ロシアとしては平和条約ではなく友好平和そして協力といった包括的な文書について、日本側と積極的に交渉を続けた。ただ今の状況においては、岸田政権はロシアに対して「戦略的敗北」を正式に実施しており、そういう環境のなかで極めて重要な文書について議論するということは残念だが不可能だと思う。

──過去の宣言は、効力がなくなっているのか?

ロシアとしては、もともと過去ではなく未来の方向へ新しい関係を作るという希望があったと思う。そういった立場で議論してきたが、今の状況のなかでは議論の内容について意見することは難しく思う。

──プーチン大統領も平和条約交渉について「今は条件が整っていない」と発言しているが?

プーチン大統領の発言は、今の状況のなかで二国間関係において極めて重要な問題について議論すること自体難しく思う。

──今後、岸田首相や上川外相と対話の可能性は?

大使館なので日本側といろいろ接触はあると思うが、今のところ、高い政治レベルの会話は止まっている。おそらく、これからも続くのではないかと思う。ただ、もちろん具体的な分野に関する関心事項があり、それをテーマにこれからも意見交換して限られた形であっても協力していく。

──今の日本に期待することは?

極めて難しい状況のなかで一番重要な課題は関係を安定させることだと思う。さらに悪化させないということで、岸田政権の行動次第だと思う。

──経済制裁が一番大きい?

二国間関係において一番重要なのは、敵対的な態度の撤去だと思う。岸田政権は今でも非友好的な路線を続け、その環境のなかでは対話の再開の可能性はまずないと思う。

──民間のつながりはできるか?

今まで大使館は、文化交流の分野ではいろいろ努力してきたと思う。毎年行われるロシアの文化フェスティバルなど数多くのイベントを予定している。文化交流だけではなく、学生交流やスポーツにおける交流など、新しい可能性ができれば良いと思う。