【新サッカースタジアム】夢の器 まちなかスタジアムを支える裏方の日々
10日こけら落としを迎える、J1・サンフレッチェ広島の新たな本拠地「エディオンピースウイング広島」。
集客や周辺の混雑・騒音など、山積する課題に向き合いながらも、新たな舞台で飛躍を誓うクラブの裏方に密着しました。
開業を待つばかりとなった「エディオンピースウイング広島」。
山路瞬さんは、指定管理者・サンフレッチェ広島の職員。開業の「推進リーダー」として、スタジアムでの演出を担当するなど、魅力向上を図ります。「その素晴らしさを知ってもらいたい」。マスコミ向けのこの内覧会も、そんな思いの一環です。
■サンフレッチェ広島 事業プロモーション部 山路瞬さん
「今日もうね、ドタバタしすぎて正直、なんとか無事に成功するようにという思いしかない。」
リーダーに抜擢されてからの1年間は、怒濤の日々でした。
■山路さん
「今日の記者会見室になります。 一応準備完了。大丈夫です」
分刻みのスケジュールと急な変更への対応も、欠かせません。
■職員との会話
「今ね、事務所の中のミーティングルームにマスコット待機させとる。13時半。この時間しかないけんアテンドできる?」
■会話
(どんな会話を?)
「内覧会のスケジュールで、マスコットのアテンドが不足していたので、急遽人員配置を変えて。回りそうです。」
内覧会は、試合で予定する演出を試す舞台でもあります。
■担当者カウントダウン
「5、4、3、2、1…」
しかし、大型ビジョンが点灯した一方で。
■担当者
「みなさんすみません。本当は照明との連動がありますので、もう一回やらせてください」
■山路さん
「昨日までリハーサルうまくいっていたんですが。ギリギリだったので1日、2日くらいしか(リハーサルが)できていない。」
2度目の実演では。
■山路さん
「うまくいきました。大丈夫でした。安心しました。」
鳴りやまぬ電話の対応と、現場の調整に奔走した5時間。ようやく、内覧会終了です。
■山路さん
「率直に疲れました。へとへとです。我々が見ていただきたかった場所や思いというのは伝えることができたんじゃないかなと思っています。」
スタジアムのそばには、竣工から45年余りが経つ集合住宅「基町アパート」があります。
■住民
「いろんな人が来てくれたらいいですよね。」
(騒音は?)「それはやってみないと分からないですよね」
(今は不安より期待の方が大きい?)「ちょっとはね」
騒音などを懸念する人も少なくありません。
そんな声を前に山路さんが心掛けるのは、地域とのつながりです。
かつては活気に満ちていた基町アパート一帯。
住民の高齢化が進みます。
今は、閉まったままのシャッターが目立ちます。
こけら落としを翌週に控えたこの日。
向かったのは、アパートの商店街にある馴染みの店です。
■山路さん
「やっぱりそこにスタジアムができたので、経済的な貢献ではないですけど意識はしますよね。(地域の人には)頑張りますんで、何かあったら僕に言ってください、っていう感じの会話をします。改善案を出して近隣の方に迷惑がかからないように最善の努力をしようと」
■中華料理居酒屋 四季 上條俊偉さん
「もともと中央公園が好きだったので、壊されるとなると複雑な気持ちがあったので、多少不安がありました。今出来上がってみて、人の流れも変わるので、活気がまた戻るかなと期待しています」
期待と不安が交錯する地元・基町です。
広島市などは、戦災で焼け出された人たちの為に、基町に公営住宅を建設しました。
原爆で壊滅したヒロシマ。爆心直下の平和公園から基町にかけての整備は「復興の象徴」でした。
連合軍占領下だった1950年。
ひとつの整備計画が明らかになります。
ここには、スタジアムの構想が盛り込まれていました。
計画をまとめた、世界的建築家の丹下健三。
かつて、広島で過ごしていました。
慰霊碑と原爆ドームをつなぐ「平和の軸線」と呼ばれる1本の直線。
丹下は、その延長線上にスタジアムを配置していました。
■サンフレッチェ広島 仙田信吾社長
「74年前に丹下健三がここに、サッカースタジアムがここにこそ必要であるということをプランとして残していたという事実を知った時に震えましたね。これはまさに歴史の宿命であると。運命づけられた土地に、74年経ってそれが生まれる。これこそが丹下の夢であり、被爆の復興にサッカーの存在があったから生きる勇気を得てきた若者たちの、その思いが結実してこのスタジアムが生まれたんだという意義を感じています」
サッカースタジアムは、広島の歴史を刻むこの地に竣工しました。
■仙田社長
「キャプテン翼の主人公、大空翼が、武器ではなく、サッカーボールで正々堂々と戦おうというメッセージを発信してくれています。このスタジアムには平和発信の機能が必要だと思っています。それこそが広島のスタジアムとしての役割だと思っています。」
多くの裏方たちが、1年をかけて取り組んできた作業の総仕上げも、いよいよあすです。
■山路さん
「プレッシャーが押し寄せてます。(ファンには)今日ここに来てよかった、一生の思い出になった、そういった1日になっていただけるような日にしたい。ただそれだけですね」
2万8500人収容のスタジアムが、満員の大観衆の歓声に包まれるのも、間もなく。新たな「夢の器」が、その時を待ちます。
【2024年2月9日放送】