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【記者解説】「不適切受給や見逃し指示はなかった」旅行支援事業めぐる外部通報で第三者委が結論

2024年4月11日 19:59
【記者解説】「不適切受給や見逃し指示はなかった」旅行支援事業めぐる外部通報で第三者委が結論
調査委員会・渡辺絵美委員長代理

熊本県の旅行支援事業をめぐり、TKUヒューマンが補助金を不適切に受給し、県の幹部がこれを見逃すよう指示したとの外部通報があった問題で、県が設置した第三者による調査委員会は11日、「不適切な受給や見逃し指示はなかった」とする調査報告書をまとめ、蒲島知事に提出しました。

この問題は去年9月、公益通報者保護法に基づき“公益通報者”から代理人弁護士を通じて、報道機関に外部通報が寄せられたものです。問題とされたのは、熊本県が新型コロナウイルスの経済対策として旅行業者を対象に行った支援事業、「くまもと再発見の旅」をめぐる補助金です。

外部通報では、テレビ熊本の関連会社「TKUヒューマン」が販売したタクシー券を使った旅行商品で、補助金の不適切な受給の疑いがあると指摘しました。さらに、県の幹部が担当課に疑いを見逃すよう指示した結果、見逃した不適切な受給額が約2000万円にのぼると訴えました。外部通報を受けて県は、弁護士による第三者の調査委員会を設置していました。

そして11日。
■福田淳記者
「県庁の知事応接室です。まもなく注目の調査報告書が手渡されます」

11日午後、蒲島知事に報告書を手渡した調査委員会の渡辺絵美委員長代理。この後、記者会見を開き、71ページにわたり「不適切受給はなかった」などとする報告書の内容を説明しました。それによりますと、調査委員会は去年10月から4月10日まで34回開かれ、関係者15人にあわせて17回ヒアリングを行ったということです。

■渡辺絵美委員長代理
「不適切受給も、見逃し指示もなかったので、県民に損害を与えたこともなかった。通報内容についてはいずれも該当しなかったという判断になる」

報告書では、県の旅行支援事業の助成要件が固まっておらず、旅行業者に対して十分な周知ができていなかったと指摘。旅行業法に抵触するなどの不適切受給があったという通報の主張については、「違反がないか、違反があったとしても不適切受給ではない」と判断しました。

また、「見逃し指示」については、県の幹部が「県の対応に問題がなかったのか見直す必要があるのでないか」という意図で発言したものが、「旅行業者の不正を見逃すように指示されたと受け止める結果となった」と判断。「見逃し指示はなかった」とするものの、誤解が生じないように明確な発言を行うべきだったとしました。

その上で、不適切受給も見逃し指示もなく、県民に損害を与えたことはなかったと結論づけました。

【スタジオ】
(緒方太郎キャスター)
ここからは取材した福田淳記者です。

(福田淳記者)
外部通報で指摘があったのは、主に2点、行業法に抵触するおそれのある商品で不適切受給の疑惑があった、県幹部の見逃し指示があったというものです。

このうち、不適切な受給についてですが、報告書では、「くまもと再発見の旅」は、コロナ禍で苦しむ観光業界の窮地を救おうと急いで制度設計したもので、地域の事情に応じて要件を決められるという前提で運用されたものだったとしてます。
しかし、助成要件そのものや、修正・見直しなどについて旅行業者に対し、県の周知が不十分だったとして、「不適切な受給ではない」と結論づけました。また、助成要件について、県の内部でも認識が一致していなかったという問題も浮き彫りになりました。

こうした中、「見逃し指示」について、報告書では県の幹部が「県の対応に問題がなかったのか見直す必要があるのでないか」という意図で発言したものが、「旅行業者の不正を見逃すように指示された」と受け止める結果となったと判断し、「見逃し指示はなかった」としました。ですが、「ミリミリ詰めなんとか」、「もうよかろう」などの発言は誤解を招きかねないとして、誤解が生じないように明確な発言を行うべきだったと苦言も呈しました。

一方で、報告書では、去年3月、県がTKUヒューマンも含め14社で、補助対象外商品が約4500万円あったとして、その後、弁済したケースにも言及しました。これについても同様に不適切な受給とは言えないのではないかと指摘しました。

(緒方キャスター)
報告書を受けて蒲島知事は、「いただいた指摘や提言に関して真摯に受け止め、県としての対応策を検討してまいります」と述べました。

(平井友莉キャスター)
蒲島知事は12日午後に臨時の記者会見を開き、提言を受けた今後の対応について説明する方針です。

(緒方太郎)
今回の調査委員会の報告書をどう評価すべきか、専門家に意見を聞きました。

【VTR】
政治学が専門の熊本大学伊藤洋典教授は、この報告書の内容について、「不適切受給も見逃しの指示も認めなかったことは驚き」と話しています。その上で、調査報告書が「事業の助成要件が固まっていないことが原因」とした点に注目し、規定や職員の認識があいまいだったために生じた誤解が原因だとする結論の出し方に疑問を呈しました。

■熊本大学 伊藤洋典教授
「皆があいまいなまま進めていきました、 共通の了解がここではなかったんだと。こういう通報があったのも、ある種の思い込みで通報があっただけで、 実際に不正であるかという詳細な検証がないままで通報があったという形でおさめてしまっている。いってみればゼロ回答」

報告書は県民の疑問に答えていないと指摘した上で、県に対しては疑惑を持たれたことを重く受け止め対策をとるべきとしました。
■熊本大学 伊藤洋典教授
「内部から職員が疑問を呈していますから、そういった時には疑問を皆で共有して詳細に検討するとか、避けられるチャンスはあったわけですから、避けられるチャンスを生かす仕組みを意識してやっていく必要がある」

【スタジオ】
(福田記者)
報告書を受けて、公益通報者の代理人弁護士は、「この度の結論の根拠とされている前提事実に誤りがあると考えています」とコメントしています。

伊藤教授の厳しい意見もありましたが、県幹部による見逃し指示とされる発言について、なぜ、そういう状況でそのような言葉が出たのか、すべての疑問が解消されたわけではありません。

報告書では、県に対する提言として、「県は強大な公権力を有することを自覚し、疑義が生じた場合には県の対応や取扱いに問題がなかったかという意識で物事を見直す姿勢を持つことが重要である」としました。県民に疑念を持たれないような県政運営に努めてもらいたいと思います。

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