動画配信するワケ「個性だとわかって」自閉症の娘との暮らし “楽しさも難しさも” ありのままを《長崎》
自閉症の娘との日々を動画配信する家族に密着しました。
ありのままを伝え、誰もが生きやすい社会に。
未来を描きながら発信しています。
元気いっぱいに駆け回る遊び盛りの2人の子どもたち。
優しく見守るのは、お母さんの平山 愛理さん 31歳です。
(平山 愛理さん)
「こっちが長女の愛鈴(あられ)ちゃん、長男の新心(あらし)くんです」
4歳の愛鈴ちゃんは、2歳10か月の時『知的障害を伴う自閉症』と診断されました。
(平山 愛理さん)
「1歳半くらいの時は20単語くらい話せていたが、徐々に話せる言葉がなくなって2歳の時には、話せる単語が “うん” だけになった」
言葉を発することが成長するにつれて後退する、“折れ線型”の自閉症だと言います。
愛鈴ちゃん、今は、ほとんど話すことはありませんが、家族は、表情や反応でコミュニケーションを取っています。
この日は、昼食のカレー作りのお手伝い。
(平山 愛理さん)
「お野菜チョッキンできる?」
(愛鈴ちゃん)
・・・うなずく
(平山 愛理さん)
「手っ手、アワアワしようか?」
野菜を切るのも 上手です。
(平山 愛理さん)
「料理大好きで、休日は1日キッチンにいる」
夢中で作りますが、食べる時間になると、 ご機嫌ではなくなりました。
(平山 愛理さん)
「いただきます。なんかイヤね。よしよし」
手に持ったリンゴも口をつけただけで、お皿の上に落としたりと、落ち着かないようです。
カレーをご飯にかけたのが気になったようで、背中をさすって気持ちを落ち着かせます。
夫の甚也さんは大型船に乗っていて、長期間、家を空けることが多い平山家。
愛理さんの両親がサポートに来てくれるそうです。
笑顔で子どもたちと向き合う愛理さん。
かつては、1人で悩みを抱え込むことも多かったそうです。
(平山 愛理さん)
「(自閉症の診断前)、いろんな場所に連れていって下さいとか、いろん人と関わらせてあげて下さいというアドバイスばかりで、なんとなく私の育て方を否定されているような感覚になって」
『自閉症』を知ってもらい、“同じ悩みを持つ人たちの居場所をつくりたい”。
その思いで始めたのが、“動画の配信”でした。
おじいさんの畑では。
(平山 愛理さん)
「お野菜、採ろうか」
(愛鈴ちゃん)
・・・カブを抜きとる
去年12月に「あられちゃんねる」を開設。
すでに4000人近いフォロワーがいます。
娘 愛鈴ちゃんの普段の様子を、“ありのまま” に発信。
伝えたいのは “自閉症の娘と暮らす日々の楽しさ” です。
(平山 愛理さん)
「私が悩んでいた時にあまり明るい動画がなくて、自閉症についてマイナスなイメージを持ってしまったことがあった。自閉症の子を育てるってものすごく楽しいことだよとか、自閉症はマイナスじゃなくて、むしろポジティブな個性だよということを伝えていきたい」
愛鈴ちゃんは、弟・新心くんと幼稚園に通っています。
(平山 愛理さん)
「あーちゃん、今からご飯食べたら歯磨きします。歯磨き終わったら幼稚園。幼稚園行くよ」
首を横に振る愛鈴ちゃん。
(平山 愛理さん)
「イヤだ?」
春にクラスが替わり、新しい環境となったことで、最近の愛鈴ちゃんは。
(平山 愛理さん)
「保育園自体は大好きなんですけど、行くまでがたぶん、いろいろと考えて行けない日もある」
その後も。
(平山 愛理さん)
「きょうリトミックだって。ダンス、イヤだ?」
背を向けたまま、首を横に振ります。
(平山 愛理さん)
「絵本は?絵本」
こうした朝の様子は、毎日 “一冊のノート” にしたためます。
(平山 愛理さん)
「私とあられの先生とのやりとりです。あられのきょうの状態を書いて先生に伝える。(先生から)きょうは楽しく過ごせたとか、お友だちと遊べたとか(知って)、安心したりしている」
幼稚園バスを待っている間、愛理さんに抱き着いて離れない愛鈴ちゃん。
(平山 愛理さん)
「行けたら行こうね。イヤやったらやめとこうね。先生が来るまで、ママがギューッとしとく」
お迎えのバスが到着しました。
(先生)
「おはようございます」
先生に手を引かれ、バス乗り込みます。
▼愛鈴ちゃん 勇気を出して保育園へ行く
(先生)
「ニコニコだね。よいしょ」
バスの中から、愛鈴ちゃんが元気に手を振ります。
(平山 愛理さん)
「いってらっしゃーい。すごい。行けたね」
去年から通っている佐世保市の「江迎青い実幼児園」。
この日は自分の名前の札が出ると、手を挙げて名前を言う練習をしました。
サポートする3人の先生が見守る中、愛鈴ちゃんも自分の番が来ると、元気よく手を挙げて、名前も大きく口を動かし、表現しました。
リトミックの時間は、リズムに合わせて体動かします。
屋外でも、お友だちと仲良く遊びました。
(入園当初からの担任)
「最近はクラスも変わって心配していたが、笑顔も出てきた。声は出ないが、口を動かして知らせようとしたり、周りの子にとってもいい影響になっているのかなと思う」
子どもたちが幼稚園にいる間、愛理さんは、動画の編集作業に励みます。
卵を焼くお父さんに愛鈴ちゃんが何か伝えています。
(平山 愛理さん)
「ここも拭いてと、指差しだけで伝えてくれている。私も見落としてしまう部分があるのを伝えてくれているんだなと」
部屋の壁には 4つの言葉の張り紙が。
「触らない」「話さない」「見ない」「笑わない」
愛鈴ちゃんは、パニックになることがあるので、その際に落ち着いて行動できるようにと対応の方法を貼ったそうです。
この対応方法も動画を撮影し、編集する過程で気づいたといいます。
(平山 愛理さん)
「今まで障害とか福祉について、全く考えるきっかけなかったが、愛鈴のお陰でいろんな特性がある人のことを知った。愛鈴のためだけじゃなく、いろんな人のために何かしたいと思うようになった」
愛理さんは、新たなつながりを求め、初めての会合に向かいます。
県自閉症協会佐世保地区の集まりに参加し、自閉症の子どもを持つ先輩たちに今の悩みを打ち明けようと考えました。
(平山 愛理さん)
「年中さんになって、保育園に行きたがらなくなって」
(参加者)
「本当に行きたくない時に出されれば、トラウマになる。今は観察の時期じゃないかな」
(参加者)
「障害児を授かったことは大変だが、それは決して不幸ではない」
(平山 愛理さん)
「私の中で一つ居場所ができたなと思って、きょうの会でものすごく心がスッキリした」
障害が “ある” “ない” に関わらず、相手を思いやることが当たり前に。
居場所があり、みんなが生きやすい社会に。
愛理さんは動画の配信を続けながら、子どもたちが笑顔であり続ける未来を描いています。
(平山 愛理さん)
「愛鈴と新心には、親としてはできるだけ長い時間笑っていてほしい。
私が愛鈴から誰かの助けになりたいという意志を持たせてもらったように、愛鈴や新心も誰かの助けになりたいと思ってもらいたい。
障害の有無に関わらず、みんなが過ごしやすい世の中や社会になってほしいと思う」