「具体的危険があるとは認められない」伊方原発の運転差し止め訴訟 松山地裁が住民の訴え棄却

愛媛県の住民らが、四国電力伊方原発3号機の運転差し止めを求めていた裁判で松山地裁は、住民の訴えを棄却しました。
この裁判は、2011年の福島第一原発の事故を受け伊方原発でも地震や津波などによって重大事故が発生する危険性が高いとして同じ年の12月に愛媛県の住民など300人が原発の運転を停止するよう求めて訴えを起こしたものです。
これまでに6回の提訴を経て、現在、原告団の数は県内在住者を中心に1502人。裁判では、地震・火山への安全性、避難計画の有効性などが争点となっていました。
住民らはこれまで、伊方原発3号機について「具体的危険が認められるため運転は差し止められるべき」などと訴えていたのに対し、四国電力は「安全確保対策を講じて万全を期している」などと訴えを退けるよう求めていました。
提訴から13年あまり。
きょう午後2時半に判決が言い渡された直後松山地裁前では、原告団が「不当判決」「司法は義を失い、民は滅ぶ」と書いた旗を示しながら、思いが届かなかった悔しさと怒りをあらわにしました。
原告団 須藤昭男共同代表:
「国民は一体何に頼ったらいいんだ!皆さんしっかり伝えてくださいこの事実を」
きょうの判決で松山地裁は、原子力規制委員会が基準に適合していると判断した場合は、「原子力発電所に求められる安全性を具備するもの」とし、立証責任については、「原告らは生命および身体等が侵害される具体的危険が存在することを主張立証する必要がある」と、判断の枠組みを示しました。
そのうえで「地震」については、住民側が、「四国電力の基準地震動は余りにも過少である」などと主張していましたが、松山地裁は、最新の専門技術的知見を集約した新規制基準における四国電力の基準地震動の策定手法は合理的であり、住民側が訴えている「逆断層の可能性」も認めることはできないとし、「伊方原発の耐震安全性の評価に 不合理な点はない」と結論付けました。
火山に対する安全性については、住民側はこれまで、「阿蘇山で過去最大の噴火が起きた場合、火砕流が3号機に 到達する可能性が十分小さいとはいえない」などと訴えていました。
松山地裁は、「地球物理学的調査の結果や知見を考慮すると、阿蘇の地下深部に大規模なマグマ溜まりは存在しないと考えるのが合理的で、巨大噴火が差し迫った状態にはない」
「阿蘇草千里ヶ浜噴火の火砕物密度流は、伊方原発の敷地に到達していないから、立地不適にはならず、四国電力の評価に不合理な点はない」と四電の主張を認めました。
「避難計画」については避難が実行されるのは重大事故等が発生した場合であり、「重大事故等が起きるおそれがあるとはいえない場合に避難計画が不備であることのみが、原告らの生命等に直接的かつ重大な被害が生じる具体的危険が生じることはなく」「検討するまでもない」と住民側の主張には理由がないと退けました。
松山地裁の菊池浩也裁判長は「原子炉がその安全性を欠いているとは認められず、原告らの生命および身体等を侵害する具体的危険があるとは認められない」として住民の訴えを棄却しました。
須藤共同代表:
「あっさりと棄却してしまいました。一体、福島の事実は何だったんですか。そしてさらに熊本で能登でこの事実を前に一体何が真実なんですか。控訴します。どこまでいっても闘う」
四国電力・原子力本部 佐々木広行副部長:
「当社のこれまでの主張について裁判所に認めていただけたものと思っております。今後とも安全・安定運転に万全を期してまいりたい」
伊方原発3号機の運転差し止めを巡る裁判では、大分地裁と広島地裁の判決でも住民の訴えが棄却されていて、いずれも住民側が控訴しています。
愛媛の原告団もきょうの判決を受け、控訴する方針です。