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全国最大の34.4ⅿの津波予測の黒潮町 『命を守るまちづくり』への取組みを取材【高知】

2025年3月11日 18:58
全国最大の34.4ⅿの津波予測の黒潮町 『命を守るまちづくり』への取組みを取材【高知】
東日本大震災から3月11日で14年となりました。
あの日の教訓を胸に刻み南海トラフ地震への備えを続けてきた高知県黒潮町では行政も住民も課題を抱えながら命を守るまちづくりに取り組んでいます。

3月9日日曜、黒潮町錦野地区の公園で行われた炊き出し訓練。
作っているのは、カレーです。この炊き出し訓練は南海トラフ地震の発生3日後から4日後を想定して地区で初めて行われたもので、保育園児から高齢者まで約100人が参加しました。

■参加者
「おいしい」
「バタバタしたけど経験したこと は良いことかなと思う」
■松下健一区長
「これだけ年齢幅が広く集まって 活動できたということが一番の成果。下の方から皆さんが避難してここに来ると思うのでその時に何かの手伝い助けになればいいと思う」

この公園は、津波が浸水しない「高台」にあり地区外から避難してきた人たちを受け入れることも想定しています。町内で活発に行われる南海トラフ地震を想定した様々な訓練。

■大西勝也町長
「心強いの一言。各地区色んな地区で自主的に訓練をやっていただいていて、きょうも炊き出し訓練にたくさんの方にご参加いただいて心強い限り」

高知県県西部の沿岸に位置する黒潮町。人口9800人あまりが暮らす海辺の町です。

■井手上キャスター
「漁業やホエールウォッチングなど豊かな海の恩恵を受けるこの町は、あの日から防災の町として走り続け、町の風景も大きく変わりました」

2011年3月11日に発生した東日本大震災。沿岸部を襲った巨大な津波は東北地方を中心に甚大な被害をもたらし多くの命を奪いました。その1年後。

■中川正春 防災相(当時)
「最大級津波あるいは地震という言葉で表すことができると思う」

国の有識者会議は南海トラフ地震の津波高予測を発表。黒潮町には全国最大の34.4メートルの津波が予測されました。これまでの想定をはるかに超える津波の予測。そこで黒潮町は「あきらめない町」として先進的な防災の取り組みをはじめます。

全国最大の津波予測が出た2年後には黒潮町缶詰製作所を稼働。マイナス材料を逆手に34メートルをラベルに配した防災缶詰を全国に売り出しました。

さらに2017年3月には高さ25メートル収容人数230人という国内最大級の津波避難タワーが佐賀地区に完成。その後、全国から見学希望者が訪れるなど津波避難タワーを観光資源に活用した防災ツーリズムも活発になり、見学者は今年度初めて1000人を越える見込みです。また地元ガイドの案内料はタワーに備蓄する消耗品の購入費に充てていて観光と防災の好循環が生まれています。

ハード面の整備は他にも。
黒潮町役場は2018年に高台へ移転。役場前の国道56号も整備され町の中心部は様変わりしました。

また黒潮町は被災後の復興を少しでも早めようと2月20日、高知県内ではじめて事前復興まちづくり計画を策定しました。

■情報防災課長・村越淳さん
「これから町をどのように復旧復興するのかっていうのを住民のみなさんに集まってもらい話し合わなければいけないが被災した状態ではそういった時間とか人の集まりとかって取れない、取りにくい。なのでまだ被災していない平時の今のうちにもし被災すれば町をどのように復旧復興するのかということを事前に住民のみなさんと決めておく。東日本大震災と比べると2年は早く復旧復興ができるのではないかと言われている。2年とはいえ早く町が復旧復興すればそれだけ住民のみなさんの(生活)再建も早くできるし、町外に転出することも少なからず防げていくのではないかと思っている」

今回の事前復興まちづくり計画は佐賀地区を対象にしていて、中心拠点を内陸部の高知自動車道黒潮佐賀IC付近と海に近い土佐西南大規模公園東公園付近に造成する高台の2拠点に分ける計画です。
総事業費は916億円あまり。このうち町の負担金は324億円あまりでこれは町の年間予算の約3倍にあたります。

■情報防災課長・村越淳さん
「もちろん財政のこととかもあるので一足飛びにやることはなかなか難しいこともあるが町の未来の絵図ができたっていうことはこれからのまちづくりをどのようにすればいいかという指針になる。そこを目指して新しいまちづくりを進めていくことができるのではないかという風に考えています」

一方で、暗礁に乗り上げた課題もあります。

2013年、黒潮町出口地区では住民が国の事業を活用して集団高台移転を目指し、1年あまり県や町と協議を重ねたものの町の負担金だけで8億から9億という大きな財政負担を理由に2015年、被災前の高台移転は「困難」という結論に至りました。

あれから10年。出口地区の今はどうなっているのか。区長の吉福猛さんに話を聞きました。

■出口地区 区長 吉福猛さん
「大地震が来て津波がきた場合はすぐ(浸かる)。ここで(最大津波)20メートルの想定になっているので (集団高台移転は)費用的な問題で国も町も個人的にもなかなか難しいという形にはなったが、それ以降は地域の中でできることをみんなで考えながら進めています」

吉福さんに集団高台移転の候補地だった場所の一つに案内してもらいました。

ここは海抜34メートルを超える地元の三浦小学校の裏手とその向かいの高台にある民間所有地ですが、吉福さんによりますと国の補助金を利用して農地として造成した土地のため宅地に転用することができず現在も宅地利用は進んでいません。それでも地区内のほかの場所では少しずつ個人での高台移転が進んでいるといいます。

■出口地区 区長 吉福猛さん
「地区を整備して道路を広げて宅地化して高台にという形で、何軒かは動いているということはある」

出口地区は現在154世帯が暮らしていますが、今もその半数近くの住宅が浸水エリアにあり、この10年の間に4世帯が高台を求めて移転。このうち2世帯は地区内の高台へ移ったといいます。また災害時の重要な拠点も移転していました。

出口地区では2021年に浸水エリアにあった消防団の屯所と地域の集会所をまとめて高台に移転。ここで年2回の避難訓練を行うなど地域の防災拠点になっています。集団高台移転はできなかったものの、この10年で出口地区は地域でできることをひとつひとつ積み重ねていました。

■出口地区 区長 吉福猛さん
「(地区の防災力は上がったと)思いますね。みんなの意識が変わっていると思いますので。訓練するって言ったら参加もしてくれますし、地域を守っていかないかんという気持ちで自分たちはやっていますので。少子高齢化にはなっていますけどそのなかでも高齢化のなかでできることは何か、っていうことを考えながら地域を守っていくっていうことは大事だと思っていますので。みんなでがんばってまた進めていきたいと思います」

政府の地震調査委員会は南海トラフ地震が起こる確率について今年1月時点、今後30年以内で80パーセント程度に引き上げました。

東日本大震災から3月11日で14年。
あの日の教訓を胸に刻み南海トラフ地震への備えを続けてきた黒潮町では行政も住民も課題を抱えながらも命を守るまちづくりを進めようと前を向いています。
最終更新日:2025年3月11日 18:58
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