遭難事故は前年より減少も死者数増加の富士山…お盆期間の登山の実態は?県警山岳遭難救助隊に同行(静岡)
7月10日、富士山の静岡県側の登山ルートが開通。山梨県側で入山規制が始まった今シーズンも多くの人が富士登山に訪れています。県警によりますと、静岡側が開山した7月10日から8月18日までの間に起きた遭難事故は38件と、2023年より7件少なくなる一方、4件の死亡事故があり、2023年より3人多くなくなっています。
登山者の不測の事態に対応するのが、県警の山岳遭難救助隊。1972年に御殿場口で発生した大規模な雪崩事故をきっかけに発足し、主に富士山を管轄する御殿場、富士宮、裾野の各警察署や、南アルプスを管轄する静岡中央警察署に配置されている29人の警察官で構成されています。
富士山の火口付近では、開山直前の6月、3人の死亡が確認された遭難事故が発生。この時の救助活動に山岳遭難救助隊として参加したのが、御殿場署の渥美聡孝警部補42歳と野中啓斗巡査長25歳の2人。野中さんは、この時の出動が県の山岳遭難救助隊になって初めての出動だったと話します。
(静岡県警山岳遭難救助隊 御殿場警察署 野中 啓斗 巡査長)
「県隊員としての初めての活動はこの活動になりました」「長年救助隊をやっている人でも、いままで火口に降りたことがない人も多いので、その様な中、初めて降りたので、本当に危険だったし怖いと思いながらもやっていました」
経験のある渥美さんも、火口付近での活動にはリスクもあったと話します。
(静岡県警山岳遭難救助隊 御殿場警察署 渥美 聡孝 警部補)
「当時と全然状況は違うんですけど、雪もびっしりついている状態だったので、ここが唯一安全に降りられる箇所かなと。降りて、今、岩場に隠れている、さらに奥の方に(遭難者が)いらっしゃった状態だった」「見ての通り落石があれば一発でアウトなので」「隊員も命がけではやっていると思う」
さらに、これは7月11日、県警の山岳遭難救助隊が救助に向かうときの様子です。
(静岡県警山岳遭難救助隊)
「進まない、みんなで固まって行こう」
この映像は、渥美さんが撮影しました。まさに命がけの任務と分かります。今回、取材班はこの2人に同行し、お盆期間中の富士山を取材しました。
救助隊は開山期間中、常に2人の隊員が2泊3日の交代で富士宮口9合目にある山小屋に宿泊しながら、24時間体制で救助要請に備えます。取材当日の15日は、台風7号が近づいていたこともあり、普段より登山客が少ない状況。それでも、9合目に向かう道中、疲労で座り込んでいる外国人登山者に遭遇すると、安全確認のため声をかけます。
(渥美 警部補)
「大丈夫?OK?OKね。ファイト、頑張って」
道中の7合目では、勤務を終えて下山してきた山岳遭難救助隊と合流。簡単な引継ぎを行い、再び宿舎の山小屋へと向かいました。
************
(下山する隊員)
「お疲れ様でした、お願いします」
(渥美 警部補)
「ありがとうございます」
(下山する隊員)
「上はお願いします。下に行きますので」
(渥美 警部補)
「気を付けて」
この日は快晴で登山には申し分のないコンディション。特に救助要請もなく、到着からしばらくしたその時…突然、渥美さんの携帯電話が鳴りました。
(渥美 警部補)
「茶髪、赤色のTシャツ、短パンの人がいるかどうか?了解。とりあえず山小屋を見てみるよ」「(通報者の)息子さんだと思うんですけど、山頂から降りましたよという話はあるんですけど、そこから連絡がつかないと。連絡がつかないからどこかに行っちゃったんじゃないかなという、心配の通報らしくって」「もしかしたら下に降りちゃてるかもしれないし、わからないんですけど」
その後、男性の携帯電話の電源が切れていたことがわかり、男性は無事に下山でき大事には至りませんでした。
そして、翌朝…。強い勢力を保ちながら時速15キロのゆっくりとした速度で県内に接近した「台風7号」。この影響で、伊豆では一時波浪警報と暴風警報が出されるなど警戒が呼びかけられました。一方、午前3時ごろの富士山では、風は出ていたものの、雨はまだ降っていない状態でした。すると…。
(勝俣 宜彦 記者)
「下からライトの光が見えます。登山者が登ってきているのが確認できます」
8合目などの山小屋に宿泊していた登山者が続々と山頂を目指して登ってきました。
(東京から来た登山者)
「もともと(山小屋の)予約をとった時は15日、16日が晴れだったんですよ唯一。この日に行こうってなったんですけど」「さっき富士宮口のバスが止まっちゃったらしくて、どっちにしろ帰るんだったら山梨側に行かないといけないので、上って帰る感じです」「御来光見えなかったら帰りますね。自己責任なんで登山は」
登山者のお目当ては「御来光」。しかし1時間も立たないうちに、天候は急速に悪化。
午前4時ごろになると、身動きが取れないほどの強い雨と風が吹き荒れ…外に出ると一瞬でびしょ濡れになる程の悪天候。一歩間違えれば命の危険があるほど危ない状況に。中には、たまらず山小屋の中へと避難する人の姿も。よく見ると小さいお子さんを連れた家族でした。
(勝俣 宜彦 記者)
「どちらから登ってきました?」
(避難した人)
「8合目に泊まっていたんです」
(宿泊客)
「とりあえず体を拭いて、体をこすって」
(勝俣 宜彦 記者)
「御来光を見ようと登ってきた?」
(避難した人)
「8合目は全然(雨が)降っていなかったんですよ。8合目はネオンも見えて。途中から暴風雨になって」
(宿泊客)
「天気予報は見てこなかったんですか?」
(避難した人)
「天気予報はきょうはまだ行けるって。きょうの夕方4時くらいからあかんて書いていたから…」
(宿泊客)
「もうこういう状況なので、山頂に上がらない方がいいですよ。死にますよ、お子さんいるんで」
その後、この家族は山小屋に宿泊することになり翌日、無事に下山していきました。
この日は夜まで天候が回復しませんでしたが、その中でも下山しようとする人の姿が後を絶ちません。渥美さんもその後の天候を気にしていました。
(静岡県警山岳遭難救助隊 御殿場警察署 渥美 聡孝 警部補)
「ちょうど天気がね、本当にここから(悪く)なんだよね。ほら(降水量が)真っ赤だよ。真っ赤。(救助要請が来ても)無理だよ。あと35分後、この天候で山頂から降りてくるのは危ないよ。午前9時になれば少しは弱くなるかな。今から強くなる…」
命あっての登山。しかし、あいまいな見通しで動き出してしまう登山者が多いのも富士山の現状なのです。
台風から一夜明けた17日。9合目には午前3時ごろから「御来光」を見ようと山頂を目指す登山者の姿が。
こちらは、フランスから来たという5人組。
(フランスから来た登山者)
「午後8時に(ホテルを)出て10時について、ずっと登っています」「(御来光は)人生で一度はやりたいと思った。日本に来たからにはやりたいと思った」
この時の気温は6度。青年たちはかなり軽装に見えますが・・・
(フランスから来た登山者)
「服装は大丈夫です。これ一つと、これと、まだもう一つと、またもう一つと普通のTシャツ。これでも寒い」「フランス人皆が知っているわけでもないんですけど、日本に興味がある人は、やっぱり富士山を知っていて登りたくなると思う」
そして、午前5時を過ぎた頃、雲の隙間から太陽が。この幻想的な瞬間を一目見ようと、数多くの人が山頂を目指しやってきます。
御来光から約1時間後、山岳遭難救助隊が山頂のパトロールに向かいました。この日は、前日の台風の影響で朝からバスが運行を中止していたこともあり、山頂での混雑はありませんでした。そして、山頂に着くと、9合目で会ったフランス人の青年が。どうやら無事御来光を拝めたようです。
(フランスから来た登山者)
「想像できないくらい本当にすごくきれいで、天気が良くてよかった。(台風の影響で)バスが無くて富士登山をあきらめかけていたんですが、本当に登れてよかった」
閉山する9月10日まであと21日。国内外の多くの人に富士山の美しさを知ってもらいたい一方で、あらめて富士登山への準備や心構えなどを浸透させることが必要です。
今回、私たちが取材した期間に救助の出動要請はありませんでした。しかし、危険につながりかねない登山者の行動を目の当たりにすることもあり、ひとたび事故が起きれば隊員は命を懸け現場に向かうことになります。
(静岡県警山岳遭難救助隊 御殿場警察署 渥美 聡孝 警部補)
「本来は私たちが活躍する場というのは、無い方がいいと思うんですね。ただ、何かあった時に支えというか頼りになる存在じゃなければいけないので」「心の支えになるような、最後は救助隊がいるからというところで、(遭難者が)自分が生きて帰ろうと思いとどまれるような、諦めない様な存在になっていきたいと思っています」
登山者の不測の事態に対応するのが、県警の山岳遭難救助隊。1972年に御殿場口で発生した大規模な雪崩事故をきっかけに発足し、主に富士山を管轄する御殿場、富士宮、裾野の各警察署や、南アルプスを管轄する静岡中央警察署に配置されている29人の警察官で構成されています。
富士山の火口付近では、開山直前の6月、3人の死亡が確認された遭難事故が発生。この時の救助活動に山岳遭難救助隊として参加したのが、御殿場署の渥美聡孝警部補42歳と野中啓斗巡査長25歳の2人。野中さんは、この時の出動が県の山岳遭難救助隊になって初めての出動だったと話します。
(静岡県警山岳遭難救助隊 御殿場警察署 野中 啓斗 巡査長)
「県隊員としての初めての活動はこの活動になりました」「長年救助隊をやっている人でも、いままで火口に降りたことがない人も多いので、その様な中、初めて降りたので、本当に危険だったし怖いと思いながらもやっていました」
経験のある渥美さんも、火口付近での活動にはリスクもあったと話します。
(静岡県警山岳遭難救助隊 御殿場警察署 渥美 聡孝 警部補)
「当時と全然状況は違うんですけど、雪もびっしりついている状態だったので、ここが唯一安全に降りられる箇所かなと。降りて、今、岩場に隠れている、さらに奥の方に(遭難者が)いらっしゃった状態だった」「見ての通り落石があれば一発でアウトなので」「隊員も命がけではやっていると思う」
さらに、これは7月11日、県警の山岳遭難救助隊が救助に向かうときの様子です。
(静岡県警山岳遭難救助隊)
「進まない、みんなで固まって行こう」
この映像は、渥美さんが撮影しました。まさに命がけの任務と分かります。今回、取材班はこの2人に同行し、お盆期間中の富士山を取材しました。
救助隊は開山期間中、常に2人の隊員が2泊3日の交代で富士宮口9合目にある山小屋に宿泊しながら、24時間体制で救助要請に備えます。取材当日の15日は、台風7号が近づいていたこともあり、普段より登山客が少ない状況。それでも、9合目に向かう道中、疲労で座り込んでいる外国人登山者に遭遇すると、安全確認のため声をかけます。
(渥美 警部補)
「大丈夫?OK?OKね。ファイト、頑張って」
道中の7合目では、勤務を終えて下山してきた山岳遭難救助隊と合流。簡単な引継ぎを行い、再び宿舎の山小屋へと向かいました。
************
(下山する隊員)
「お疲れ様でした、お願いします」
(渥美 警部補)
「ありがとうございます」
(下山する隊員)
「上はお願いします。下に行きますので」
(渥美 警部補)
「気を付けて」
この日は快晴で登山には申し分のないコンディション。特に救助要請もなく、到着からしばらくしたその時…突然、渥美さんの携帯電話が鳴りました。
(渥美 警部補)
「茶髪、赤色のTシャツ、短パンの人がいるかどうか?了解。とりあえず山小屋を見てみるよ」「(通報者の)息子さんだと思うんですけど、山頂から降りましたよという話はあるんですけど、そこから連絡がつかないと。連絡がつかないからどこかに行っちゃったんじゃないかなという、心配の通報らしくって」「もしかしたら下に降りちゃてるかもしれないし、わからないんですけど」
その後、男性の携帯電話の電源が切れていたことがわかり、男性は無事に下山でき大事には至りませんでした。
そして、翌朝…。強い勢力を保ちながら時速15キロのゆっくりとした速度で県内に接近した「台風7号」。この影響で、伊豆では一時波浪警報と暴風警報が出されるなど警戒が呼びかけられました。一方、午前3時ごろの富士山では、風は出ていたものの、雨はまだ降っていない状態でした。すると…。
(勝俣 宜彦 記者)
「下からライトの光が見えます。登山者が登ってきているのが確認できます」
8合目などの山小屋に宿泊していた登山者が続々と山頂を目指して登ってきました。
(東京から来た登山者)
「もともと(山小屋の)予約をとった時は15日、16日が晴れだったんですよ唯一。この日に行こうってなったんですけど」「さっき富士宮口のバスが止まっちゃったらしくて、どっちにしろ帰るんだったら山梨側に行かないといけないので、上って帰る感じです」「御来光見えなかったら帰りますね。自己責任なんで登山は」
登山者のお目当ては「御来光」。しかし1時間も立たないうちに、天候は急速に悪化。
午前4時ごろになると、身動きが取れないほどの強い雨と風が吹き荒れ…外に出ると一瞬でびしょ濡れになる程の悪天候。一歩間違えれば命の危険があるほど危ない状況に。中には、たまらず山小屋の中へと避難する人の姿も。よく見ると小さいお子さんを連れた家族でした。
(勝俣 宜彦 記者)
「どちらから登ってきました?」
(避難した人)
「8合目に泊まっていたんです」
(宿泊客)
「とりあえず体を拭いて、体をこすって」
(勝俣 宜彦 記者)
「御来光を見ようと登ってきた?」
(避難した人)
「8合目は全然(雨が)降っていなかったんですよ。8合目はネオンも見えて。途中から暴風雨になって」
(宿泊客)
「天気予報は見てこなかったんですか?」
(避難した人)
「天気予報はきょうはまだ行けるって。きょうの夕方4時くらいからあかんて書いていたから…」
(宿泊客)
「もうこういう状況なので、山頂に上がらない方がいいですよ。死にますよ、お子さんいるんで」
その後、この家族は山小屋に宿泊することになり翌日、無事に下山していきました。
この日は夜まで天候が回復しませんでしたが、その中でも下山しようとする人の姿が後を絶ちません。渥美さんもその後の天候を気にしていました。
(静岡県警山岳遭難救助隊 御殿場警察署 渥美 聡孝 警部補)
「ちょうど天気がね、本当にここから(悪く)なんだよね。ほら(降水量が)真っ赤だよ。真っ赤。(救助要請が来ても)無理だよ。あと35分後、この天候で山頂から降りてくるのは危ないよ。午前9時になれば少しは弱くなるかな。今から強くなる…」
命あっての登山。しかし、あいまいな見通しで動き出してしまう登山者が多いのも富士山の現状なのです。
台風から一夜明けた17日。9合目には午前3時ごろから「御来光」を見ようと山頂を目指す登山者の姿が。
こちらは、フランスから来たという5人組。
(フランスから来た登山者)
「午後8時に(ホテルを)出て10時について、ずっと登っています」「(御来光は)人生で一度はやりたいと思った。日本に来たからにはやりたいと思った」
この時の気温は6度。青年たちはかなり軽装に見えますが・・・
(フランスから来た登山者)
「服装は大丈夫です。これ一つと、これと、まだもう一つと、またもう一つと普通のTシャツ。これでも寒い」「フランス人皆が知っているわけでもないんですけど、日本に興味がある人は、やっぱり富士山を知っていて登りたくなると思う」
そして、午前5時を過ぎた頃、雲の隙間から太陽が。この幻想的な瞬間を一目見ようと、数多くの人が山頂を目指しやってきます。
御来光から約1時間後、山岳遭難救助隊が山頂のパトロールに向かいました。この日は、前日の台風の影響で朝からバスが運行を中止していたこともあり、山頂での混雑はありませんでした。そして、山頂に着くと、9合目で会ったフランス人の青年が。どうやら無事御来光を拝めたようです。
(フランスから来た登山者)
「想像できないくらい本当にすごくきれいで、天気が良くてよかった。(台風の影響で)バスが無くて富士登山をあきらめかけていたんですが、本当に登れてよかった」
閉山する9月10日まであと21日。国内外の多くの人に富士山の美しさを知ってもらいたい一方で、あらめて富士登山への準備や心構えなどを浸透させることが必要です。
今回、私たちが取材した期間に救助の出動要請はありませんでした。しかし、危険につながりかねない登山者の行動を目の当たりにすることもあり、ひとたび事故が起きれば隊員は命を懸け現場に向かうことになります。
(静岡県警山岳遭難救助隊 御殿場警察署 渥美 聡孝 警部補)
「本来は私たちが活躍する場というのは、無い方がいいと思うんですね。ただ、何かあった時に支えというか頼りになる存在じゃなければいけないので」「心の支えになるような、最後は救助隊がいるからというところで、(遭難者が)自分が生きて帰ろうと思いとどまれるような、諦めない様な存在になっていきたいと思っています」