命を守る最後の砦 葛藤する救命救急の現場 医師にも時間外制限 医療の2024年問題
いわゆる「2024年問題」は物流に限った話ではありません。
4月から医師にも時間外労働の上限規制が適用となり、各地で医療への影響が懸念されています。
葛藤しながら「働き方改革」に取り組む現場を取材しました。
時間外規制…葛藤する救命救急の現場
24時間365日動き続ける医療の現場。
いま、ある問題が持ち上がっています。
2024年問題です。
(手稲渓仁会病院 奈良理救命救急センター長)「規制がかかるとなかなか人のやりくりが難しくなるんじゃないかなと」
札幌市の手稲渓仁会病院です。
(手稲渓仁会病院 奈良理救命救急センター長)「重症患者はまっすぐこの部屋に入ります。平均すると1日の救急車は15から20件なんですけど、多い時は30件を超えたりする日はあります」
ここは市内に5か所しかない「三次救急」を担っています。
命の危険が迫っている患者にとって、いわば“最後の砦”です。
しかし、今後の対応に不安を抱えています。
勤務医の残業 原則年間960時間の上限
(手稲渓仁会病院 奈良理救命救急センター長)「(2024年問題で)二次救急が飽和状態になると、必然的に三次にくる。やっぱり限界はあると思います」
4月から医師の時間外労働は、原則年間960時間の上限が設けられました。
違反した場合は病院側への罰則があります。
(ドクターヘリの無線)「年齢不明の男性、意識がないとの119番通報」
札幌市内の救急出動の件数は年々増加していて、2022年は9万人以上が搬送されました。
受け入れられない患者が増える恐れも
この救命救急センターでは、以前から医師のシフト制を導入しているため、制度改正による人手への影響はありません。
しかし、ほかの病院で二次救急までの医療がひっ迫すれば、これまで以上に受け入れられない患者が増える恐れがあるのです。
(手稲渓仁会病院 奈良理救命救急センター長)「救急隊が複数の病院をあたらないと受け入れ先が見つからないというようなことが起きると思います。間違いなく言えるのは、いままでと同じことをしていたら当然そういう厳しい状況になる」
多い時で5件の手術 外科医の1日に密着
なぜ、医師の働き方を見直さなければならないのか。
(旭川赤十字病院 真名瀬博人医師)「おはようございます」
旭川赤十字病院の外科部長・真名瀬博人医師です。
出勤は朝8時、当直明けの医師との引き継ぎから1日がスタートします。
(旭川赤十字病院 真名瀬博人医師)「きょうは緊急手術とか臨時の手術も2つくらいあったりして、ほかのスタッフも結構忙しく動いています」
消化器系のがんなどの手術を担当する傍ら、若手の執刀をサポートすることも。
外科医は多い時で1日5件もの手術を受け持つことがあるといいます。
(旭川赤十字病院 真名瀬博人医師)「11時半くらいになったら自分の部屋に検食が届けられています。きょうは若鶏の照り焼きですかね。結構おいしいんですけど」
昼は週に一度、患者に出す食事を試食します。
休憩をとる時間帯は日によってまちまちです。
昼どころか夕食も食べられない時も
(旭川赤十字病院 真名瀬博人医師)「(休憩が)全くない時もありますね。昼どころか夕食も食べられず。危なかったなとか思いますね、脱水とか。本当にひどい時は朝から(手術室に)入って、12時間とかは普通で。最長で24時間ぐらいのときはありましたけど。トラブルとか難しい手術だと」
国の調査では、全国で2割以上の医師が「過労死ライン」に相当する年間960時間以上の時間外労働をしています。
この病院では2018年度、10人もの医師が960時間を超えていて、真名瀬医師もその1人でした。
医師不足の地方はギリギリの体制
(旭川赤十字病院 真名瀬博人医師)「骨とか少し痛んでくるとみなさん数値が高めに出るので」
いまは、夜間にも行っていた患者への説明を夕方までに終わらせるなど、何とか上限を超えないように取り組んでいます。
その代わり、医療体制に余裕はなくなります。
(旭川赤十字病院 真名瀬博人医師)「いまのところは何とかぎりぎりといったらあれですけどね。年配の医師も当直を組むとか、協力して何とかこなしている。地方に行くと仕事を代わってと言っても代わってくれる人もいないとか、(制度改正は)厳しいというか矛盾がある。医師の確保もできていないのに制度がどんどん先行していっているとは思います」
医師の負担を減らす「特定行為看護師」
医師の負担を減らす「カギ」が看護師の育成です。
15年目の森田翔さんは手術室を担当しています。
(旭川赤十字病院 看護師 森田翔さん)「大変なこともたくさんあるけど、患者さんが良くなって帰っていく姿を見たりとか、頑張ってよかったなと思いますね」
手術室へ向かう時には赤い服を着ます。
特別な役割を担っているからです。
(旭川赤十字病院 看護師 森田翔さん)「人工呼吸器の設定を変更したりとか、あと点滴の調整ですね。この点滴が終わった後にまたこれにするのか違う点滴にするのかという判断を、医師に確認しなくても実施できるというのが主なところ」
森田さんは3年前「特定行為看護師」の試験に合格しました。
医師の代わりに一定の医療行為を行うことができ、この病院の手術室では森田さんただ一人です。
一定の医療行為可能も“なり手不足”
(旭川赤十字病院 看護師 森田翔さん)「自分が活動している日は麻酔科の先生が1日当たり3時間半ぐらいほかの業務に当たってもらうことができている。こういう看護師が増えていくことは重要だとは思うけど、その分看護師に負担のしわ寄せがきてしまっては意味がないとは思っているので、その辺を改善していかないといけない。マンパワー不足というのもあるので、看護師の」
特定行為看護師は道内にわずか139人。
道は2029年度に550人まで増やすことを目指していますが、研修には1年から2年かかります。
看護師にも時間外労働の上限規制があり、ただでさえなり手は足りていません。
多くの病院が育成に二の足を踏んでいるのが現状です。
(旭川赤十字病院 牧野憲一院長)「手術室の特定行為看護師に関しては、まだまだ足りません。現在2人が学校に通って養成しているところです。医師というのは若いうちにかなりのトレーニングを積まなくてはいけない。集中的にやらなくてはいけない時期というのがあるんですよね。(時間外の上限規制は)そこに影響が出てくると考えています。患者さんに不利益のあることも当然起こっています」
残業規制…試行錯誤が続く医療現場
病院の窓口が閉まる午後5時。
日勤の職員は退勤する時刻ですが、真名瀬医師の仕事は続きます。
時間外に会議が入ることもしばしば。
終わった後もカルテに目を通していました。
これが日常です。
(旭川赤十字病院 真名瀬博人医師)「あしたのための予習といったらあれですけど。治療とか対策とかそういう話ができた方が良いので、あまり長く残っていると働き過ぎじゃないかというチェックもあるので、我々も気を受けないと。ほかのドクターに示しがつかないので」
医師の健康を守りながら、どのように体制を保っていくのか。
解決策を「丸投げ」された医療の現場は試行錯誤を続けています。