48歳で“若年性認知症”「世間に示したい」働き続ける男性の思い 新薬も登場…課題は?北海道
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若くても発症することがあり、誰もがなり得る「認知症」。
このうち、アルツハイマー病は新しい薬が登場し、北海道内でも治療が始まっています。
「治らない」と言われてきた認知症とどう向き合うか。
患者の思いを取材しました。
(松本健太郎さん)「2000円分、2000円分、2000円分…」
注文を忘れないように繰り返し声に出す男性。
北海道赤平市の松本健太郎さん51歳です。
(松本健太郎さん)「売り上げ、売り上げ…36、36、どうぞ灯油36リットルです」
給油口も指差し確認。
(松本健太郎さん)「例えば3000円と言われて満タン入れちゃったり、おつりを渡す時にすごく不思議そうな顔をされて、全然おつりの額が違ったりすることがある」
病名は若年性アルツハイマー型認知症。
(松本健太郎さん)「弁当のこだわりは玄米にソウダガツオ。塩振ってあると思うけど、おにぎり風にして作りました」
(松本健太郎さん)「うまい!きょうはうまくできてる」
自分で作った弁当と一緒に必ず持ち歩くのが調味料。
(松本健太郎さん)「味付けしたつもりがしていなかったり、逆にすごくしょっぱいこともある」
認知症と診断されたのはおよそ2年前。
妻と娘を支えるため、今の会社で営業として働いていた時でした。
(松本健太郎さん)「1枚5分で終わる伝票を極端な話、半日かけたりとか、やる気ないのではと思われるような感じの仕事をずっとやっていた。(会社から)病院に行って検査を受けた方がいいのではと言われた」
『あるつは今』
診断された当時の思いをブログに綴っていました。
(ブログ)「寿命は診断後、10年から15年と言われた」「どうしても信じられない」
失意の中、大きな壁となったのは「働き続けること」。
若年性認知症の患者が抱える課題の1つです。
診断後、半数以上の患者が退職するというデータもあります。
松本さんは管理職から離れましたが、職場の理解もあり、同じ会社のガソリンスタンドで働くことになりました。
(松本健太郎さん)「雇ってくれる会社がありきだが、子どもの進学も控えているので、死んでいる場合じゃない、稼がないとと思いました」
2か月に1回の診察。
(主治医)「調子はどうでしたか?」
(松本健太郎さん)「調子は変わらずです」
仕事や日々の出来事は、タブレットに記録して主治医に報告しています。
(主治医)「仕事は順調に行けていましたか?」
(松本健太郎さん)「はい、順調です」
(主治医)「全体的には変わりはないかなと。薬をまた処方しておきます」
進行を遅らせる薬を飲んでいますが、症状を治すものではありません。
松本さんのブログには、こう綴られていました。
「できることなら現状から快復したい」
根本的な治療法が確立されていない認知症ですが、その6割以上を占めるアルツハイマー病の新薬が登場し、いま注目されています。
夫と一緒に1日のスケジュールを確認するのは、札幌市の恵子さん(仮名)77歳。
(恵子さん(仮名))「いつ忘れるかわからないので、前の日に聞いていても忘れてしまうので、メモに書いてもらったら見ながら『そうだった』って思い出せる」
2024年5月、アルツハイマー病と診断されました。
(恵子さん(仮名))「料理酒を定期的に買いすぎちゃって、『お母さんこんなにお酒どうしたの』って娘に言われた」
実家を訪れた娘が、異変に気付いたと言います。
(恵子さんの夫)「特に忘れ物がだんだんひどくなってきたというのはあったが、娘が『お母さん何かおかしいんじゃない?』って話になって受診した」
楽しかった家族の思い出も今は…
(恵子さんの夫)「ハワイとマレーシアに少し行ってて」
(恵子さん(仮名))「よく覚えているね、わたし全部忘れちゃってる」
(恵子さんの夫)「(当時)過ごしやすいところなんだなと、物価が高いなと感じた」
(恵子さん(仮名))「そうだった?どの写真を見ても全然わからない、ここにいたのかみたいな感じで。記憶がなくなるというのは楽しいことも忘れるのかなって思う」
恵子さんは今、ある治療に取り組んでいます。
アルツハイマー病の新薬「レカネマブ」。
病気の原因と考えられている物質を脳から取り除く、初の治療薬です。
(恵子さん(仮名))「治ることはないと言われているが、ここで(症状が)とどまってくれればいいなという思い」
早期の症状や若年性認知症が対象で、平均およそ3年進行を遅らせることが可能とされています。
一方、副作用として脳のむくみや出血などがおこる可能性も…
それでも夫婦はその効果に期待を寄せています。
(恵子さんの夫)「前よりは少しよくなったのではと娘が言った。外部から見るとそう見えるんですかね」
課題は高額な薬の価格。
年金生活で高額療養制度を使える恵子さんは、毎月1万8000円を負担しています。
(北海道医療センター 新野正明 認知症疾患医療センター長)「非常に高い、年間で300万円くらい薬代としてかかる薬になってしまう。(症状が)進んだ状態では薬の適用はもうないと考えていいので、いかに早期に見つけていくかが大事」
札幌を訪れた松本健太郎さん。
新薬を使っていませんが、治すことはあきらめていません。
(横山弥生さん)「私はさっきなんて言ったっけ、もう(注文)頼まれている気がする、頼んだよね?」
(松本健太郎さん)「間違いなく頼んでる」
同じ若年性認知症を患う横山弥生さんです。
(横山弥生さん)「何か仕事をしたいなって思ってしまう自分がいまだにいて」
(松本健太郎さん)「それは応援しますよ。運転はできないけど給油と洗車とオイル交換はできますって今は言えるから。できることであれば単純作業でも」
仕事だけでなく、人と関わることが大切だと感じています。
(砂川市立病院精神保健福祉士 大辻誠司さん)「本人も刺激を受けて、それがあすからの生活の糧になる。間違いなく社会交流が(松本さんにとって)薬になっているんじゃないかなって、この1年見てそう思う」
(松本健太郎さん)「仕事をして、働けるんですよと世間に示せたらなと思う。現役でできる限りやって、ほかの同じ病気の人を元気づけられたらいいなと思う」
自分の経験が誰かの力になれたら…
この思いが松本さんの原動力になっています。