北海道で相次ぐ”海の異変” イカやウニの不漁続く 漁業のマチで観光に影響も
イカの街・北海道函館市。
6月、スルメイカ漁が解禁となり初水揚げされました。
船の生け簀を見せてもらうと、とれたスルメイカは数えられる程度…
初日の水揚げ量はおよそ200キロで、去年の6分の1程度にとどまりました。
(漁師)「厳しいね」
(漁師)「20匹です。もう商売になりません」
透き通った身が新鮮な証、夏の味覚・スルメイカ。
近年、深刻な不漁に陥っています。
これは函館の市場での取扱量です。
9000トン近くあった2008年と比べて、昨年度はわずか317トン。
15年で3.5%まで減りました。
一方で価格は上昇。
10年ほど前までは1キロあたり200円台でしたが、昨年度は1344円とおよそ6倍に上がりました。
取扱量が減るなかで、観光客などからの需要が高まっているためとみられます。
イカ釣りが体験できる観光名所・函館朝市です。
釣ったイカをその場で捌いて刺身にしてもらえます。
(千葉からの観光客)「コリコリしてすごくおいしかったです。函館といえばイカで、いまも時季なのでぜひ食べたいと思った」
イカを食べたいと多くの観光客でにぎわう時期ですが、店側は不安を募らせます。
そのなか迎えたことしの初競り。
その量は、漁獲量が過去最低だった去年と比べても大幅に少ないことがわかります。
価格は去年の2倍以上、1キロ8000円の高値で取引されました。
(函館魚市場 美ノ谷貴宏取締役)「函館は新鮮なイカを食べに観光客が集まるところなので、このあと水揚げ量が増えることに期待するしかない」
(元祖活いか釣掘 小野寺透さん)「順調にはいかないでしょうね。この猛暑だから去年みたく上にあげた瞬間に海水温高くて死んじゃうみたいで、(仕入れが)ない日も出てくるんじゃないですかね」
不漁の影響は私たちの食卓にも広がっています。
函館市民の台所・中島廉売にある鮮魚店です。
この日はスルメイカ3杯で850円。
7月に入り、徐々に水揚げが増え、値段も下がってきたといいます。
それでも…
(紺地鮮魚 紺地慶一さん)「高いですよ。これ一匹で4~5年前だと80~100円でしたもん。いかんせん1箱の値段がいつもの年よりずっと高い」
庶民の味として親しまれてきたイカが、ますます手が届かない存在になってきています。
(買い物客)「いつも(例年)よりは全然買っていないです。形が大きくなると週1回食べているけど、ことしはどうかなと」
(買い物客)「安くはない。サイズの割には高いから、昔みたいにいっぱいとれている時みたいにおなかいっぱいは食べない。さびしいですよ。函館はイカの街って言われているので、なくなってくるのはどうかなと」
(紺地鮮魚 紺地慶一さん)「函館市民の庶民の魚ですから、せめて今までに近いくらい量がとれて、金額もそのくらいでってなると一番いいと思う。(安く)売りたいです。食べてほしいから」
函館水産試験場によると
・北海道に回遊するスルメイカが少なくなっている
・スルメイカは東シナ海など南でうまれて成長しながら北海道に北上するが、ことしは本州の時点で数が少ないことがわかっている
・ここ数年イカの量が減っていることから、産卵時期の水温が高いなど、海の環境の変化が影響している可能性がある
・今シーズン漁獲量の回復はあまり期待できない
さらに、同じく夏を代表する味覚「ウニ」もことしは不漁となっています。
(急式キャスター)「札幌市内のカレー店です。この時期限定の特別メニューが人気なのですが、ことしは提供できないかもしれないという危機に見舞われています」
その名も「プレミアム浜カレー」。
毎年6月から8月までの間、不定期で提供しています。
エビやイカ、ホタテなどの海の幸をふんだんに使ったカレーライスの上に、ウニをたっぷりとのせた贅沢な一品です。
その名物メニューがことしはまだ一度も登場していない理由が…
(田村岩太郎商店 田村舟也代表取締役)「ウニが高いですね、かなり。ウニ自体がことしはすごい少ないんですよ」
(急式キャスター)「お客さんの反応は?」
(田村岩太郎商店 田村舟也代表取締役)「いつやるんですか?って聞かれるんですけど、ことしはウニが…って濁しています」
カレー店のオーナー・田村さんは積丹町で海の幸を提供する飲食店も営んでいます。
積丹ブルーと呼ばれる青い海が生み出す絶景と、この時期しか味わえない極上のウニを目当てに多くの観光客が訪れる積丹町。
田村さんの店でもウニを山盛りにのせた豪快なウニ丼が看板メニューとなっています。
しかし、価格設定は年々上がっていて、お店を開いた12年前は2000円台だったウニ丼が去年は6500円、ことしは8000円から1万円ほどになるのではないかということです。
ウニ漁師でもある田村さん。
ことしは海の異変を感じているといいます。
(田村岩太郎商店 田村舟也代表取締役)「コンブも調子悪いんですね、全道的に。コンブのいるところにウニがいる。ことしはコンブがいないのでウニも見えない。さらにカラッと晴れるような北海道らしい天気が、全然天候に恵まれなくて、ウニ漁に出られる回数も少ない」
積丹町では漁師が磯舟に乗り、水中を覗く箱メガネを使ってウニを一つずつ捕獲していきます。
海がシケると当然漁にも出られず、ことしはウニ漁が解禁となった6月1日からの1か月間で、わずか6回しか漁に出ることができませんでした。
地元を代表する味覚の不漁で、積丹町を訪れる観光客にも影響が…
(田村岩太郎商店 田村舟也代表取締役)「客足もことしは積丹勢いが無いなという感じはしている。我々、飲食業だったり宿泊業だったりサービス業にとっては(ウニの値段が)適正価格を飛び越えている。際限なく(ウニを)とるのではなく、制限したりする必要が出てくるかもしれない。資源を少しでも守っていく活動をしていかないと、いずれダメになるのではないかと心配している」
今の季節にウニの旬を迎える日本海側の主な3つの地域の漁獲量を去年と比べてみるとー
・小樽市漁協では10%減
・余市郡漁協では36%減
・東しゃこたん漁協では49%減
東しゃこたん漁協の担当者の話では、去年は2000円ほどだったキタムラサキウニが、ことしは5000円くらいと2倍以上、値段が上がっているということです。
また、エゾバフンウニに関しては、漁獲量は去年の10分の1ほどに留まっているということです。
その理由について、海水温が関係しているのではと話しています。
ウニは水温20℃前後で活動が活発になりますが、26℃くらいになると死んでしまう。
実際に漁師さんたちも、海底にトゲが落ちて白くなったウニを見ているということです。
中央水産試験場では赤ちゃんウニ(稚ウニ)の数を調査していますが、キタムラサキウニは20~30年前に比べて半分に減っているということです。
さらに、エゾバフンウニに関しては数年間発生が見られないと話しています。
また、ウニのエサであるコンブについても生育量の調査を行っていますが、調査地のひとつ・小樽では4~5年前に比べて100分の1、寿都では数年前から「ゼロ」、つまりコンブが見られないという状況。
稚ウニは漁獲できる大きさになるまで4~5年かかるため、この先も影響が続くことも考えられます。
イカもウニもそれぞれの産地を代表する味として、そのために観光客が訪れるほど地元経済に大きく関わっています。
海水温だけが原因というわけではありませんが、気候変動を食い止めない限り、その影響は今後もさまざまな方面に影を落とすことが考えられます。