“不正改造車”タイヤ脱落の真相 家族の日常はなぜ奪われたのか 事故原因を独自調査 北海道
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家族の日常はなぜ奪われたのかー
札幌市西区で2023年、不正改造車のタイヤが脱落した事故では、ナットの緩みが原因だったと検察は主張しました。
改造との因果関係は果たしてなかったのかー
独自に事故原因を調査すると、タイヤが脱落した真相が見えてきました。
意識不明の娘…病室での面会が日常に
3人の子どもに恵まれたひとりの男性。
病室での娘との面会が日常に変わりました。
(事故にあった女の子の父親)「きょうは、お風呂上りにすぐに暖かくなれるように毛布を持ってきたのと、絵本を読んであげました」
娘が父の日に描いてくれたという似顔絵。
いまは、クレヨンを持つこともできなければ、目を開けることもできません。
静かな病室には、父親や母親の言葉だけが残っていきます。
(事故にあった女の子の父親)「まだ5歳なので、1週間に1回しか会えないってすごい寂しくさせている罪悪感もあるので。本当に意識があればそれが一番なんですけど」
いまも溢れる思い。
あの事故さえ、なかったらー
初公判で起訴内容を認めた男2人
2023年11月、札幌市西区で軽乗用車のタイヤが脱落し、当時4歳の女の子に直撃した事故。
女の子はいまも意識不明のままです。
軽乗用車を運転していたのは、若本豊嗣被告。
車を不正に改造し、車両の点検を怠った結果、ナットの緩みに気付かないまま運転。
女の子にけがをさせたとして、道路運送車両法違反と過失運転致傷の罪に問われています。
同じく車の所有者・田中正満被告も、車を不正に改造した罪に問われています。
1月の初公判で起訴内容を認めた2人。
検察は「ナットの締め付けが不十分だったことが、タイヤが脱落した原因」などと主張しました。
車検に通らない仕様…改造と脱落の因果関係は?
当時4歳の女の子が意識不明のままという痛ましい事故。
タイヤの脱落に至るまで、改造したことがどのような影響を与えていたのかは明らかになっていません。
改造との因果関係は果たしてなかったのか。
取材を進めると、車に取り付けられていたこのパーツが、ナットの緩みを加速させていた可能性がでてきました。
(百瀬記者)「これが事故を起こした車と同じ車種?」
(ジムニーワールド札幌 山北泰史さん)「同型車ですね」
私たちは自動車販売店に協力してもらい、事故を起こした車の同型車を用意。
これまでの取材をもとに、ナットの緩みにつながった背景を探りました。
(百瀬記者)「スペーサーってありますか?」
(ジムニーワールド札幌 山北泰史さん)「スペーサーありますね」
これは「ワイドトレッドスペーサー」と呼ばれるカスタムパーツ。
事故を起こした車を見ると、タイヤの取り付け部分には赤いパーツが…
このパーツの厚みで車体からタイヤがはみ出るように改造。
本来なら車検に通らない仕様でした。
基本的にこのスペーサーは、ナットの緩みなどを防ぐため、一般的な業者では販売もしていないパーツの1つだといいます。
(ジムニーワールド札幌 山北泰史さん)「走破性やカスタムして格好よくなるからという理由で付けられる方は見受けられる。購入はネットで売っているものを買うしかない。これは客のパーツを取り外し、たまたま置いているだけでこれを付けることはないです」
たどり着いた事故原因 改造が「助長」
このスペーサーに注目したのが、神戸大学の福岡俊道名誉教授。
これまで全国のタイヤ脱落事故で警察などの捜査に協力してきました。
(神戸大学 福岡俊道名誉教授)「改造によって、たとえ車体の重量が同じであっても、はみ出したことによって、ナット・ボルトの部分にかかる曲げの作用が、明らかにスペーサーの分だけ大きくなっている」
本来どの車にも、車体の重さと地面からの反力で、タイヤがついているボルトには、ボルトを湾曲させたり曲げたりする力が働いています。
普段簡単にタイヤが外れないのは、この力に耐えられる計算されたボルトがつけられているためです。
では、あの改造車のボルトに加わる力はどのくらい変わってくるのかー
同型車を見せてもらった際、車体の重さが加わる部分からボルトまではおよそ26センチ。
事故を起こした車には、6センチのスペーサーが取り付けられていました。
福岡名誉教授は、この6センチのスペーサーによって、ボルトに加わる力がおよそ23パーセント増加していたと算出。
つまり、スペーサーを取り付けた改造が、ナットの緩みを加速させていたと結論付けました。
(神戸大学 福岡俊道名誉教授)「設計段階では、このような荷重がかかるということは全く考えていない、想定外。ボルトにかかる力の変化量が大きくなって、当然緩みを助長するというのは間違いない」
不正改造車が重大な事故を起こしたことに対し、父親は憤りを隠せません。
(事故にあった女の子の父親)「なによりも訴えたいのは、事故の原因が単なる整備不良であるという言葉で済ませたくない。被告人らは違法な改造をした車を運転していて、日常的に安全に配慮するという意識があったとは到底思えませんでした」
「無責任な趣味で人生を奪って…」罪に問えない現実
そして、父親にはもう一つ訴えたいことが…
事故直後の混乱した現場で何もできず呆然と立ちすくむ男…
若本被告とともに改造を行っていた田中被告でした。
被害にあった女の子の幼稚園では、現場にいた2人を目撃。
当時の様子を初めて明かしてくれました。
(幼稚園の職員)「所有者の方が、運転していた方に「脱輪したタイヤを探してこい」っていう話をしていた」
園長は事故直後、田中被告と会話をしていたといいます。
(幼稚園の園長)「どういう状況かわかりますかって伺ったら、実は偶然後ろを走っていたらタイヤが転がっていったので、いま見ていたんですという話をされた。ニュースで所有者だと知って、どうして最初うそをついたんだろうっていうのは本当に許せない気持ちですよね」
警察は2024年6月、田中被告も過失運転致傷と道路運送車両法違反の疑いで逮捕。
車を運転していない者を過失運転致傷の疑いで逮捕することは極めて異例でしたが、札幌地検はこれを不起訴にー
そこには司法の壁が立ちはだかりました。
(事故にあった女の子の父親)「自分の無責任な趣味で人生を奪っておいて、その程度の責任しか問われないのは間違っていると思います」
父親は田中被告の処分について、検察審査会への申し立てを検討し、オンラインでの署名活動を開始。
さらに、事故の詳細などを伝えるため、SNSでの情報発信を始めました。
(事故にあった女の子の父親)「なるべく長く罪を償ってほしい、責任を取ってほしいというのは感じているが、正直な気持ちとしては、被害者側が受けているダメージに対して刑罰のバランスがとれていないとすごく感じます。家族が一緒にいるだけで幸せだったので。そのときに戻りたい」
たどり着いた事故原因。
しかし、それでも罪に問えない現実。
事故に関わった2人に司法がどのような判断を下したとしても、家族の日常が戻るわけではありません。