統合失調症の姉を20年にわたり撮影した話題作 監督が語る“家族にカメラを向ける葛藤”
厚生労働省によると、統合失調症は心や考えなどがまとまりを欠いた状態になる病気のことで、主な症状に幻覚や妄想、意欲の欠如などがあるといいます。
2024年12月の公開当時はわずか4館での上映でしたが、その内容が反響を呼び、興行収入は1億5000万円を超え、上映館数も130館まで拡大することが決定しています。(2月10日時点・配給会社発表)
この映画をどうして見ようと思ったのか、観客に話を聞くと「友達に“いま話題になっている映画がある”って言われて、いまいろんな病気をSNSを見ていて知ることがあったので。でも、身近にはいないというところで興味は持っていて、(監督が)20年間撮り続けたのも気になって」という声や、「精神的な病や障害など、ちょっとタブーっぽい、なかなかオープンにしないことが特にこの社会では多いと思うんですけど、それを結構まっすぐ扱っていて、そこで“こんな映画があるんだ”ってビックリして、すごく時間をかけて作っているというのも書いてあって」という声が上がりました。
■「うちのようなことが防げないかなと」 映画製作の理由
家族の病気を題材にした理由について、藤野監督は「この作品はドキュメンタリーを作ろうとしている人の家に起きたことではないわけです。むしろ、記録を残そうというところから撮っていて。お姉さんが早く精神科を受診できる状況を作らなければいけないと思っていたので、そのために役立つ記録として撮っていたつもりだったんです」と、当初は映画にする気持ちはなかったといいます。
では、映画として公開しようと思ったきっかけは何なのか聞くと、「新聞やテレビのニュースを見ていて、気になるものがあった。例えば、子どもを長い期間監禁して餓死させたという事件もあって。親や家族が(病院や行政などに相談できず)必要以上に責任を感じてしまっているような状況というのが起きていたと思う」と明かし、「これで僕が撮ったものをなかったことにして黙ってしまったら、またどこかで同じことをゼロから始める家があるかもしれないと思った。一人ひとりの社会の中の考え方が少しでも変わることで、うちのようなことが防げないかなと」と思いを語ります。
■「映像を撮るというのは暴力的だと思うんです」語った覚悟
20年にわたり家族にカメラを向け続けた藤野監督。映画には、姉が外に出ないように家の玄関に南京錠がかけられている様子や、姉が両親に対して暴言を吐く様子など、当時の家庭のままならない実態が収められています。
藤野監督は、「映像を撮るというのは暴力的だと思うんです。どういう形にしても加害的というんでしょうか、そういう部分はあると思います」と語り、「撮った側が(映像を)どう使うかを一人で決めてしまうという意味において、加害的になりうる行動だと思いますね。それに関する責任が私にはある。あるんだけれども、これを公開する意味もあるだろうと思っていて、それが(加害性を)上回るだろうと思っているからやっているということです」と覚悟を明かします。
そして、映画が大きな反響を受けていることについて「題材も題材だから、ドキュメンタリーとして受け止めてもらえるかどうかというのも心配だったんですよ。よくわからないという反応が返ってきたり、“これはドキュメンタリーじゃない”って言われたりするんじゃないかなと思っていたのが、結構受け止めてくれているんで、そこは(受け入れられて)驚きました」とコメントしています。
■「自分の家族だったらどうかな」 観客の感想は
映画を見た観客に感想を聞くと、「かなり心に重い何かが残るような感覚ですね」(27歳・会社員)と言葉にできない思いを語る声や、「自分の家族だったらどうかな、というのはすごく思って、リアルだったなって」(35歳・会社員)と自身に重ねる声も上がりました。
また、30歳・教員の観客からは「(鑑賞後の)今でもどこで誰がどうすべきだったかを考えてしまう映画でした」とし、「家族の映画だし個人の病の話かもしれないですけど、社会の問題でもあったと思うんですね。隠さなきゃって思わせちゃう社会。見ている私たちに、深く問いかけてくるタイトルなんだろうなと思います」という感想が聞かれました。