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「極刑ですら生ぬるい」法廷で直接語られた“被害者の声”【連載:京アニ事件ー傍聴席からの考察ー第5回】

2024年1月25日 8:00
「極刑ですら生ぬるい」法廷で直接語られた“被害者の声”【連載:京アニ事件ー傍聴席からの考察ー第5回】
青葉真司被告(45)

 京都アニメーション第1スタジオに放火し36人を殺害した罪などに問われている男に対する裁判の審理が、去年12月7日、検察が死刑を求刑し結審した。約3か月にわたり続いた裁判の中で最後に行われたのは、遺族や被害者らの意見陳述だった。法廷で直接語られた、失われた家族への想いや被告への感情から見えたものとは。京アニ裁判をめぐる連載、今回は、“被害者の声”について考える。
(報告:尾木水紀 阿部頼我 藤枝望音)

■「類例なき凄惨な大量殺人」「死刑は正しいのか」

 裁判は去年11月4日までに、最大の争点である刑事責任能力の有無についての審理を終え、11月末からは量刑の大きさについての審理が始まった。

 ●検察側の主張
 「類例なき凄惨な大量放火殺人。犯行の計画性や危険性、動機などが十分考慮されるべき。また亡くなった被害者の多さや遺族の受けた喪失感・絶望感・悲しみの大きさ、京アニが受けた会社としての打撃の大きさなど、被害結果の重大性も重要」

 ●弁護側の主張
 「検察側は死刑を求刑すると思う。裁判員の皆さんは、死刑を選択するべきか考える時が来るので覚悟してほしい。青葉被告に死刑を科すことが残虐な刑罰に当たらないか、人を殺すことは悪いことなのに、なぜ死刑を選択することが正当化されるのか考えてほしい」

 量刑の大きさは、「犯情」と「一般情状」の2つの要素から決まる。犯情とは、犯行の動機や方法、被害者の人数など犯罪行為そのものの事情のことで、一般情状とは、被告の生い立ちや被害者の心境など、犯罪行為以外の要素が幅広く考慮される。

 これまでの裁判で、犯情については審理が尽くされており、検察側は立証十分とした。残る一般情状について、遺族の意見陳述などから「被害者感情」についての立証が行われることとなっていた。

 一方、弁護側は、死刑制度そのものについての疑問、裁判員が死刑を選択することへの覚悟を問いかける内容となった。犯情や被告の生い立ちについても審理が終えられている状況で、弁護人が立証すべきものが限られていたことを考えると、このような方法をとらざるを得なかったのかもしれない。

■遺族としての覚悟 堅忍不抜の日々を経て…

 5日間にわたり行われた被害者感情の立証では、遺族18人・被害者5人が自ら法廷に立ち、意見を述べた。

 ●娘を亡くした父親
 「生きる意味を失われた。自分の人生と引き換えに娘の命を助けてほしい」

 ●娘を亡くした父親
 「夜になると『ただいま』と帰ってくると思ってしまう。京アニ作品を見るたびに娘の名前を探してしまいます」

 ●夫を亡くした女性
 「夫はパパじゃなくてお父さんと呼んでほしいと話していました。(当時1歳4か月だった)娘には火事でなくなったとしか伝えられていません。父がどんな人だったか聞いてくるようになりました」

 ●娘を亡くした母親
 「毎日仕事が楽しくて仕方がないと、夢がかなってよかったと(話していた)。亡くなった娘のことを思い出さない日はありません」

 ●娘を亡くした父親
 「本当につらい日々が続いています。喪失感から未だに脱出できず、弟も妹も心の穴を未だに埋め切れずにいます」

 ●娘を亡くした母親
 「まだ22歳でした。一生懸命育てて社会に飛び立ち自分の道を進み始めたばかり。娘のことを考えない日はありません」

 これらの発言はほんの一部に過ぎない。沈痛な面持ちで涙ながらに訴える遺族らの言葉からは、大切な家族を失った喪失感・絶望感から苦しい日々を過ごしていることがひしひしと伝わってきた。法廷内にも悲しみが伝播し、遺族らだけでなく裁判員までもが涙ぐむ様子がうかがえるなど、改めて失われたものの大きさ、事件の残酷さを痛感した。

 一方、特に目立ったと感じたのは、裁判での青葉被告の言動について苦言を呈すような発言だった。

 ●娘を亡くした母親
 「裁判に出席したことで、事件から続いている悲しみやむなしさが一層深くなっています。時間が経つにつれ被告人に対するうらみが募ってきました」

 ●夫を亡くした女性
 「裁判に参加し言い分を聞いて、(被告は)自分のせいで大勢の方が亡くなったことを分かっていないと感じました。自分の犯した罪に向き合わず逃げている」

 ●娘を亡くした母親
 「発言や態度を見るに深刻に受け止めているようには見えず失望した」

 ●家族を失った男性
 「被告の態度に深く傷つけられながらも、黙って見守ってきた。私たちが黙っているからといって何も思っていないと誤解しないでほしい」

 事件から目を背けたい、背けないと正常でいられないと何人もの遺族が訴えた。それでも、勇気を出して法廷に立ち被告に向き合ったのは、亡くなった家族のために、遺族として話をしなければいけないという決意の表れだったように思える。

 これまで青葉被告は犯行動機として「京アニに作品を盗作された」と訴えている。裁判の前半では、盗作とは無関係の社員が多くいたことについては、「盗作で稼いだ金を受け取っている」「知る努力をしないのが悪い」などと、犠牲となった社員らを批判するような言葉も繰り返されていた。

 このような発言、そしてどこか他人事のような態度で淡々と受け答えをする一方、自分の好きな話題については嬉々として話をする青葉被告の姿を見て、遺族として耐えがたい感情にかられたのだろう。ほぼすべての遺族らが極刑を望み、「極刑ですら生ぬるい」などと強い言葉での非難もされた。

■青葉被告 初めての謝罪も反省は…

 その後、行われた被告人質問の冒頭、廷内は異様な雰囲気に包まれた。

 弁護側は、青葉被告の現在のケガの程度、拘置所で多くの人に支えられ充実した暮らしをしている様子などについて質問を続ける。直前まで遺族らが必死の想いで訴えていたことがなかったかのようなやりとりに、遺族らも怒りの表情を抑えられていなかった。中には、過呼吸になり退廷した遺族の姿もみられた。

 その後、検察側からの質問が行われる。終始一貫して冷静な対応を、続けてきた主任検事も、この時ばかりは声色に怒りが抑えきれていないように感じた。

(検察官)「後悔というのは自分に対する感情。夢を閉ざされ命を奪われた遺族・被害者も聞いています。自分ではなく遺族や被害者に対してどのように思いますか」

(青葉被告)「申し訳ないという形でしか言えません…」

 裁判開始から3か月、形式的にではあるものの、青葉被告が初めて遺族らに対して謝罪と受け取れる言葉を口にした瞬間だった。

(検察官)「なぜ今まで吐露しなかったのですか」

(青葉被告)「…『やりすぎた』という形で言っていましたので…」

 しかし、その後も、言い訳のような答えを繰り返し、『申し訳ない』以上の反省の弁、償いの気持ちが出てくることはなかった。

 傍聴席で取材にあたる記者からしても、青葉被告が遺族らに対し真剣に申し訳ないと思い、償いの気持ちを持っているようには見えなかった。

 医療関係者や拘置所の職員など、多くの人たちの懸命な処置のおかげで、被告の命が繋がれ開かれた今回の裁判。遺族らにとっては、被告が生きていることで「なぜ事件を起こしたのか」を知ることができ、償い・反省をしてくれるのではないかという淡い期待もあったはずだ。

 ところが、その期待は打ち砕かれてしまったように思えた。裁判が開かれたことでさらに傷つき、落胆し、それでも前を向こうとする遺族らの姿が“被害者の意見陳述”を通して明らかになった。

(生き残った京アニの社員)
 「このような現実を受けてもなお希望を語れるのがアニメでありフィクション。私たちはそれを引き継ぐ、悲しみを抱えたまま前を向いて生きていく。青葉真司、聞いてるか、生きたくても生きられなかった人がいるのに、あなたは生きているんだ。その意味を考えてください」

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