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【パリ五輪の裏側】「汚すぎる」と酷評…『セーヌ川』の運河をディレクターが実際に泳いでみた!

2024年8月18日 13:00
【パリ五輪の裏側】「汚すぎる」と酷評…『セーヌ川』の運河をディレクターが実際に泳いでみた!

 “花の都”フランス・パリで開催された2024年オリンピック。パリでの開催は100年ぶり3度目となったが、街では様々な試みがみられた。俳優トム・クルーズ氏が空から登場して話題となった閉会式の当日、取材班が足を運んだのは閉会式の会場ではなく、セーヌ川につながる運河だった。「汚すぎる」と話題になった水質の実態を調べるため、ディレクターが実際に水に飛び込み、文字通りの『体当たりリポート』を敢行した。(報告:読売テレビ・パリ五輪取材統括 佐藤翔平)

■「汚すぎる」セーヌ川 政府は約2300億円を投じて貯水施設整備

 パリ市の中心部を流れるセーヌ川。数々の映画やドラマのロケ地としても有名で、パリオリンピックの開会式での圧巻の演出は世界を驚かせた。しかし、開幕前から指摘されていたのが『水質問題』だ。

 取材班が初めてセーヌ川を見たのは、開会式前日の7月25日。ルーブル美術館やノートルダム大聖堂のすぐ隣を優雅に流れる姿にはクルー全員がうっとりした。しかし、水に目をやると緑色と黄土色が混ざったような色。ゴミやヘドロのような浮遊物も至るところで確認でき、パリ市民からも「汚すぎる。泳ごうとは思わない」と冷ややかな声が聞かれた。

 セーヌ川は、これまで約100年にわたり遊泳が禁止されてきた。理由はもちろん「水質の悪化」だ。大雨が降ると下水があふれて川に流れ込むことがあり、大腸菌の値が泳ぐための基準を上回ることが多々あった。

 しかしパリオリンピックではセーヌ川を舞台にした競技が複数予定され、水質改善は急務となっていた。フランス政府は約2300億円をかけて地下に貯水施設を整備し、セーヌ川を迂回して下水処理場に水を流すことができるようにした。さらにパリ市のイダルゴ市長も選手の健康を懸念する声を払しょくするべく、自ら川に飛び込み「素晴らしかった。水温は快適で、汚くもなかった」と報道陣に語っていた。

■開会式は「めったにない」大雨 水質の懸念は現実に…

 読売テレビのNNNパリ支局特派員によると、パリ市内で大雨が降ることはめったにないという。しかし開会式当日の7月26日、不運にもパリ市内には大粒の雨が降った。その後も雨が降る日が続き、セーヌ川の水量は増えているように感じた。

 そして懸念されていた事態が起きてしまった。

 7月30日に予定されていたトライアスロン男子は水質の悪化を理由に延期に。翌日には改善したとして女子と同日開催となったが、参加した各国の選手からは皮肉を込めたコメントが寄せられた。米メディアは、カナダ代表の選手がレース終了後に10回ほど嘔吐したと報じた。疲労で体調不良となるケースもあり原因が水質によるものかは不明とした。

 また別の海外メディアは、出場した南アフリカの選手の話として「後で必ずトイレに行くだろう。私は何ガロン(1ガロンは約4リットル)もの水を飲んでしまったから、レースの後は面白いパーティーになりそうだ」と冗談交じりに語ったと報じた。

 8月9日にはマラソンスイミング男子の決勝が行われたが、選手2人はレース前に棄権し、レース中にも4人が途中棄権したという。日本代表の南出大伸選手は「整腸剤を飲んで準備した。運営の方々が大丈夫と判断したので、水質に関しては心配せずにレースに集中した」と語った。

■閉会式当日「川を泳げる」との情報が!

 大会前半の取材を担当した読売テレビの足立夏保アナウンサーは中継でセーヌ川の水質についてリポート。川から直接水をすくい紙コップに入れると少し黄ばんでいて、黒い沈殿物が確認できると伝えた。少量の水では臭いは感じなかった。

 ただ、この時はまだ我々取材班が実際に川に入ることなど想像もしていなかった。

 8月11日、17日間にわたって開催されたパリ五輪の最終日。

 読売テレビ取材班は、閉会式のチケットを持っていなかった。高額なうえに円安の影響もあり手が出せるものではなかったからだ。取材を統括していた筆者は、最後の現地中継を前に「何か特別な取材はできないか」と頭を悩ませていた。

 その時、現地コーディネーターから連絡が入った。

「セーヌ川につながる運河で遊泳イベントがあるそうですよ」

 筆者はすぐに飛びついた。取材班には学生時代に水球部だった土屋洋之ディレクターと報道局の潜水班に所属する河越幸平カメラマンがいた。長く続いた五輪取材の最後を締めくくるべく、彼らに文字通りの『体当たり取材』を託した。

■先着300人限定遊泳後はシャワーを浴びることが参加条件

 遊泳イベントの会場はセーヌ川につながるサン・マルタン運河。遊泳後はシャワーを浴びることが参加の条件とされた。

 先着300人限定とあって、開始1時間前には多くのパリ市民らが駆けつけていた。中には午後1時の開始を待ちきれずに飛び込む者もいた。

 多くの人が川に飛び込むのを見て土屋ディレクターも意を決して運河に飛び込んだ。

 酷暑の日本よりはやや涼しいパリ市内。水は少し冷たく感じた。水質は遊泳の基準をクリアしているとのことだったが、やはり緑色と黄土色が混ざったような色だ。

■「思ったより臭いは気にならないが…浮遊物が体に。気持ちよくはない」

 水中にカメラを沈めてみると1m先がギリギリ見える程度の透明度だった。

 気になる臭いについて、土屋ディレクターは「近づけるとドロ臭いが、泳いでいる分には気づかない程度」と表現し、悪臭は感じなかったという。

 遊泳後に感想を尋ねると、「人がたくさんいるので途中から違和感はなくなったが、泳ぐには決してきれいな川ではないし、気持ちよくはない。思ったよりも臭いは気にならなくなったが、浮遊物が体につくのと、呼吸をするときに目を開けたくなかった」と苦笑いしていた。

 土屋ディレクターに付き添う形で、水中撮影にも対応できる小型カメラとともに運河に入水した河越カメラマン。

 撮影後、「少し水を飲んでしまった。味はなかったが、口はしっかり洗いたい」と語った。

■泳いだパリ市民や旅行客から喜びの声

 初めて泳いだというパリ市に住む夫婦は「ここに来るまでは『本当に泳げるのかしら』と思っていたが、泳いでみるとすごく気持ちが良かった。藻などは気にならなかった」と話した。

 その上で、今後の遊泳に関しては「良いことだと思うが、安全性や水質の問題は管理を続けていかないといけないよね」と懸念も口にした。

 チェコから来た女性は「自然の中で泳いだことがなかったのでどうかなと思っていたが、泳いだらモイスチャーな(しっとりとした)感じがありとても満足している。ネガティブな要素はなかった。機会があればまた来たい」と嬉しそうだった。

 パリ五輪の取材を終えて、取材班は帰国の途についたが、入水した2人の健康状態に今のところ影響は出ていない。

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