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【特集】亡き母の着物はコートに…古くなった服を“蘇らせる”奈良のスゴ腕の縫製職人に密着 遠回りして見つけた“居場所”「東京にこだわる必要はない」

2023年12月2日 12:00
【特集】亡き母の着物はコートに…古くなった服を“蘇らせる”奈良のスゴ腕の縫製職人に密着 遠回りして見つけた“居場所”「東京にこだわる必要はない」
服を蘇らせる縫製職人・鹿岡淳一さん

 奈良にある洋服のリペア・リメイク専門店。店主の鹿岡(かのおか)淳一さんは、着なくなった服や傷んだ服を蘇らせる縫製職人です。座右の銘は、「一枚の服を大切に着る」ということ。さまざまな想いで大切な服を託す人々と、遠回りして見つけた“居場所”で輝く職人に密着しました。

それぞれのストーリー、それぞれの想い…服に新たな命を吹き込む職人が営む4坪の店

(女性客)
「このブラウスが、衣替えをしていたときに出てきて。テンションを上げたいときとか、気持ちを上げたいときに、よく着ていたんです」

 長年愛用していたものの、年齢的に着づらくなったブラウス。女性客は「使い続けるために別の物に仕立ててほしい」と依頼したところ、日常使いができる「マイバック」に生まれ変わりました。

 服を蘇らせる縫製職人・鹿岡淳一さん。ひとたび彼の手にかかれば、使い古したサッカーのユニフォームやネクタイが、オリジナルの「スポーツバッグ」や「めがねケース」に。

 20年以上着続けてボロボロになったベストも、破れた襟と袖口をポイントとなる切り返しで、見事に生まれ変わらせました。

(妻)
「すごいすごい、めっちゃかわいい。ありがとうございます」
(夫)
「いいわ。最高。また着られる」

 奈良で最も古いと言われている商店街「奈良もちいどのセンター街」。その一角にあるのが、洋服のリペアやリメイクを専門にしている鹿岡さんの店「縫製基地」です。

 この日も、女性客がやって来ました。

(鹿岡さん)
「こんにちは。この間のですね?じゃーん、こんな感じで」
(女性客)
「すごーい」

 女性の依頼は、「着なくなったベストとスカートをリメイクしてほしい」というもの。鹿岡さんは、一枚のワンピースとして生まれ変わらせました。

(女性客)
「これで、また着られます。ずっとタンスの中で眠っていたので。でも、このチェック柄が気に入っていたから、処分するのもしのびないし。生まれ変わりましたね、新しい一枚に。この『上下をくっつける』という発想は、素人には全くなかったので。『自分だけの一着』という愛着があるし、手を掛けてもらったという付加価値があるから、すごく気に入っています。ありがとうございます」

 鹿岡さんがこの店を開いたのは、2022年3月。腕の確かさが口コミで広がり、わずか4坪の小さな店に、月に100件以上の依頼が舞い込みます。

(女性客)
「これを、またお願いしたいです。亡くなった母の着物で、これを羽織り物にしていただきたいんです。おばあちゃんが母に、嫁入り道具で持たせてくれたやつでしょうね」

 自分が着ることはないだろうと、しまい込んでいた母親の遺品。しかし、時間が経つにつれて、その思いに変化があったようで…。

(女性客)
「仲が悪かったんですよ、すごく親子の仲が悪くて。でも、亡くなったら、いろいろと悪いことをしたなぁって、感傷に浸ってしまって。着たいけど、着方もわからないし。それだったら、洋服に。ここなら面白いもの作ってくれるだろうと」

(女性客)
「とりあえず、そのへんに売ってそうな平凡なやつは、やめてください。あまりない物が欲しいので。お願いします」
(鹿岡さん)
「わかりました」

 「着物を洋服に仕立ててほしい」という、鹿岡さんにとって初めての依頼です。まずは糸をほどいて、一枚の生地にしていきます。

(鹿岡さん)
「絶対に生地を破ったり、傷つけないように。一番ミスをしてはいけない、緊張する瞬間です」

 そして、自分が思い描いたデザインを基に型紙を作り、それに合わせて生地をカットしていきます。作業には、繊細さが求められますが…。

(鹿岡さん)
「それぞれのストーリーがある服をお預かりしているので、それを蘇らせる、生き返らせることは、すごく嬉しいです」

「ありがたくて、ミシンを踏みながら泣きそうに」上京・挫折…遠回りして見つけた“自分の生きる道”

 奈良で生まれ育ち、小学生のころからファッション雑誌を読み漁っていた鹿岡さん。大学卒業後は就職をせず、服飾の専門学校に3年間通いました。

(鹿岡さん)
「1回東京で挑戦してみてやろうと思って、何の伝手もなく、就職もせず、そのまま東京に行ったんです」

 目指した花の都・東京。ファッション雑誌のスタイリストのアシスタントを経て、タレント専属のスタイリストに。自信をつけた鹿岡さんが自分で作った服を販売する店を持ったのは、上京して10年目のことでした。ところが…。

(鹿岡さん)
「本当に、3日間売上なしとか、そういうのもあって、あの時は本当につらくて、うつになりかけたりとか。『俺って何も必要とされていないのでは?』という思いを感じる時期でした。その途中から、服のお直しの依頼がちょっとずつ増えだして。お客さんに喜んでもらえる顔を見て、そこで自分の生きる道が見えました」

 東京にこだわる必要はない、と地元の奈良に戻り、洋服のリメイクとリペアの専門店を開くことにしました。その決断に今、思うことは…。

(鹿岡さん)
「自分が探していた宝物が意外と、遠回りしたけど、奈良にあったんだと。ほんまにありがたくて、ミシンを踏んでいるときに、泣きそうになることが何回もあります。あの苦しかった日々を今、自分に見せてあげたいと思うぐらい(笑)」

一番嬉しい言葉は「また使えます」 一枚一枚、大切に命を吹き込む

 奈良にあるライブハウスで出番を待つ、川北信吾さん。鹿岡さんの店の常連客です。服のリペアを頼まなければならない「理由」が―。

 川北さんは9年前、右腕の肘から先を、仕事中の事故でなくしました。それでも好きだったギターへの思いは捨てがたく、娘に手助けをしてもらい、義手を使った演奏をひたすら練習、ステージに立てるまでになりました。

(鹿岡さん)
「義手が太くて、袖口のボタンを留められないらしいです。そうすると、ギターを弾くときに袖口がぶらぶらして、弦が見えにくいと」

 そこで鹿岡さんが提案したのは、袖を短くしてデザインし直すことでした。

(川北さん)
「ヤル気スイッチというか、お気に入りの服ができたら、『ちょっとあそこに行くときには、これを着ようか』とか、気持ちも昂りますし」

 気持ちが軽くなれば、また頑張れます。

 別の日、飛び込みでやってきたのは、外国人観光客。日本の古着屋で買ったジーンズを、短くカットしてほしいとのことでした。

(外国人観光客)
「すごい!Perfect!カッコイイ!ありがとう」

Q.外国人観光客からの依頼は多いですか?
(鹿岡さん)
「多いですね。バックパッカーの人が、リュックが破れたから直してほしいというのが、めっちゃ多いです。あと、鹿に角でダウンコートを破られたとか(笑)海外の人は、『直して使う』という文化が根付いています」

 痛んだ服の補修依頼も多く、この日は、シャツの破れた裾を直していました。

(鹿岡さん)
「表に見えてくる修理なので。でも、『これが味になって良い』『愛着が湧く』という人も、けっこういて。ジーパンとかでも、自分が育てている気持ちになると、よく言われますね」

 このシャツのリペアを依頼したのは、あるきっかけで「服を大切にするようになった」という尾崎ばねっささんでした。

(尾崎さん)
「海外に行ったときに、自分の中でボロボロになった服を、荷物を減らす目的で捨てて帰ってくることをしていて」

 タイに旅行をしたときでした。いらなくなった服を、ホテルの部屋にあるゴミ箱に捨てて外出。ところが夕方、部屋に戻ってみると、捨てたはずの服がきれいに畳んでベッドの上に置かれていたといいます。

(尾崎さん)
「『これ、ゴミじゃないよね』と、間違って捨てたと思われたのかなと。それで反省というか、格好悪いなと。それで、買ったらそれを大事に使う、長く着る前提で服を見るようになりました」

(鹿岡さん)
「日本人から、『買ったほうが安い』という言葉を何度聞いたことか…そういう買い方をされる服も、かわいそうだと思います。愛着が持たれないですから」

 母親の遺品である着物を洋服に仕立て直す初めての依頼を受けて、1か月。いよいよ、完成しました。

(女性客)
「どんなのが出来上がったか、楽しみです」
(鹿岡さん)
「こんな感じで」
(女性客)
「すごい、すごい、すごい。きれいにしてくれたんや」

 誰も再び着ることがなかった、母親が残した着物。鹿岡さんの手で、唯一無二のコートに生まれ変わりました。

(女性客)
「こんなのになっているとは思っていなくて、びっくりしました」
(鹿岡さん)
「似合いますね」
(女性客)
「すごい。これは嬉しい。ありがとうございます」
(鹿岡さん)
「安っぽくしたくなかったので、全部手で縫いました」
(女性客)
「めっちゃ感動やわ。これは嬉しい。ありがとう」

(鹿岡さん)
「喜んでもらえて、『また使えます』という言葉が、一番嬉しいです」

 「縫製基地」―ここは、遠回りしたからこそ見つけた居場所。必要としてくれる人がいる限り、服に新たな命を吹き込んでいきます。

(「かんさい情報ネットten.」2023年11月13日放送)

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