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【特集】『運転手不足』と『2024年問題』で相次ぐ路線バスの廃止「1日15時間勤務」元運転手語る過酷な労働実態…“地域の足”が迫られる選択の時

2023年11月22日 15:00
【特集】『運転手不足』と『2024年問題』で相次ぐ路線バスの廃止「1日15時間勤務」元運転手語る過酷な労働実態…“地域の足”が迫られる選択の時
「路線バスの廃止」の動きは街にも…

 関西各地で相次いでいる、路線バスの廃止。背景にあるのは、「運転手不足」です。さらに運転手の時間外労働が規制される「2024年問題」が追い打ちをかけます。“地域住民の足”は、どうなってしまうのか―。バス業界の現状と対策を追いました。

波は都会にも…相次ぐ路線バスの「廃止」

 緑の車体が目を引く「金剛バス」。大阪府南部の富田林市、河南町、太子町、千早赤阪村の4つの市町村を走るこのバスは、2023年12月20日の運行を最後に、15の路線全てを廃止すると発表しました。

 富田林市立東条小学校では、全児童77人のうち51人が登下校に「金剛バス」を利用していて、バスがなくなると、通学への影響は大きくなります。

(子ども見守り隊)
「東条小学校まで歩いて30分ぐらいかかるし、狭い道路で交通量も多いので、非常に危ない。バスがなくなったときに、どう対応すればいいのかというのは、我々以前に保護者が心配したと思います」

 大切な“地域の足”だった、金剛バスの廃止。最大の理由は、「運転手不足」です。

 1便あたりの乗車数が5人以下となっている路線も多く、2021年には7000万円以上の赤字に。厳しい財政状況のなか給与を上げることも難しく、10人以上の運転手が退職したことで、ついに運行を断念しました。

 こうした事態を受け、バス路線のある4つの自治体は、行政が費用負担する「コミュニティバス」方式での継続を検討しています。行政が年間数億円を税金で負担していくことになりますが、実際の業務は別のバス会社に委託するため、結局「運転手不足」で運行ができなくなる恐れもあります。

 路線バスの廃止は、地方だけの問題ではありません。大阪の中心地・梅田を発着する便にも、廃止の波が押し寄せてきています。大阪府や兵庫県を中心に運行している「阪急バス」も、梅田~阪急園田駅(兵庫・尼崎市)を結ぶ路線など4つを廃止しました。

(利用者)
「廃止にするような路線とは全く思っていなかったので、かなり衝撃を受けているのが本音です」
「梅田まで出てくるのに車がなかったら困るし、お年寄りの人は結構免許返納しているし。タクシーでも、梅田まで3500円ぐらいかかるので」

 さらに、京阪バスも大阪・守口市や京都・京田辺市などを走る計16路線を、2024年春までに廃止すると発表しました。ここでも廃止の理由として挙がったのは、「運転手不足」でした。

1日15時間勤務…バス運転手の過酷な労働体制とは

 日本バス協会や国土交通省によると、2017年には13万人以上いたバスの運転手も年々減少し、2030年には9万3000人ほどになると予測されています。また、バス会社の94%が赤字経営となっていて、バス運転手の年間所得額は399万円と、全産業平均の497万円に比べて100万円近く低くなっています。

 4年前まで、関西で路線バスの運転手をしていた男性は、厳しい勤務状況を口にします。

(路線バスの元運転手)
「勤務は、長くて15時間。休日出勤ばかりで、6~7連勤して1日休み、というサイクルを続けていました」

 この男性の場合、毎朝午前4時半に起床し、午前5時半ごろ出社。通勤ラッシュの午前6時から午前10時まで運転し、途中で昼食や休憩を挟みながら、帰宅ラッシュの時間が終わる午後8時ごろまで運転を続けます。仕事を終えて、家に着くのは早くて午後9時ごろ。翌日にはまた、午前4時半に起きて出社します。

 しかも、渋滞などで遅れが生じた場合は、休憩時間を削って遅れを取り戻すことになります。運転中はトイレに行くこともままならず、食事や水分補給を控えるなど、過酷な勤務が続くといいます。

 男性は7年ほど勤務したものの、結婚を機に転職を決意しました。

(路線バスの元運転手)
「もともとバスが好きなので、憧れで入った職業ですが、いざ結婚するとなったときに、配偶者に家で会えない。家にいる時間がほとんどない。ご飯食べてお風呂入って寝るだけ。そこで、子どもができたときに子育てなんかできたもんじゃない、と気づいてしまって…」

 ドライバーの長時間労働は、全国的な問題です。国は、これまで制限のなかったドライバーの時間外労働を、2024年4月から年間960時間までに制限します。その結果、一人当たりの労働時間が制限され、あらゆる業界で「運転手不足」が起きています。これが、“2024年問題”です。

(路線バスの元運転手)
「バス会社は、今までよく持ったなというのが、素直な感想です。単純にドライバーの数を30%ぐらい増やさないと、2024年問題は乗り越えられません。運転士の数が少ない、それを改善するための原資がない。法律から変えるぐらいのことをしない限りは、このまま廃れていく一方だと思います」

あの手この手で人材を…全国各地で運転手の争奪戦

 兵庫県を中心に運行し、約1200人の運転手が勤務している「神姫バス」。そのバスの車体には、所属する運転手たちの顔がラッピングされています。その名も、「神姫バスのヒーローたち」。運転手不足を解消するため、あの手この手で人材を集めています。

(神姫バス担当者)
「今までは大型2種免許が必要だったが、今は普通免許から応募できますし、その代わり、大型2種を取得できる支援制度も、しっかりと制度として設定しています。また、働き方も多様化していて、週1日の出勤など短時間型の働き方ができます」

 また、SNSを通じて運転手の魅力を発信するなど、若い層へのPRにも力を入れています。

(神姫バス担当者)
「いきなり応募してほしい・受験してほしいと言ってもハードルが高いので、運転手の裏の顔や雰囲気、仕事内容などを身近に感じてもらって、バス運転手になろうと、地域に貢献したいと思ってくれる人を募っています」

 運転手の争奪戦は、激しさを増しています。2023年9月に大阪市で行われたのは、西日本のバス会社を中心に77社が集結した「就職イベント」。運転手を確保しようと、各社の採用担当者によるアピール合戦が繰り広げられていました。

(沖縄の担当者)
「インターンという形で沖縄のバス会社にいらした際に、『渡航費を全額補助する』という事業をやっています」

(大分の担当者)
「別府市に移住していただきましたら、『最大400万円の移住支援金をお渡しします』というスキームでさせていただいています」

「オンデマンドバス」「ライドシェア」…代替手段の実現は?

 “地域の足”が失われる危機的な状況に、国や行政の動きが加速しています。代替手段の1つとして実証実験が進められているのが、「オンデマンドバス」。特定の路線を持たず、予約に応じて運行する「乗り合いバス」のことで、複数の予約状況からAIが最適なルートを算出するシステムを使うなど、本格的な導入に向けて動き出しています。

 さらに最近、注目を集めているのが「ライドシェア」です。海外では導入している国も多い仕組みで、一般のドライバーが自家用車を使って、有料で人を送迎します。

 11月4日には、全国に先駆けて「ライドシェア」を導入した兵庫・養父市を、河野太郎デジタル相が視察しました。運転手不足を解消する一手として、期待されています。

(河野太郎デジタル大臣)
「非常に快適でした」

 一方で、路線バスの代わりにはならないと指摘する声もあります。

(地域交通に詳しい 宇都宮浄人教授)
「一度に何十人という人が利用するバスを、オンデマンドで賄おうとか、ライドシェアでタクシーのような形で1人・2人・3人を運ぶ、これでは賄いきれません。本来であれば、バスのような人々の暮らし、経済活動にとって基礎的なインフラとなるものは、しっかり公的に支えていかなければならないものです。そこの議論を抜きにして、別のことを考えてはいけないと思います」

 税金を使って路線バスを残していくのか、廃止を受け入れて新たな方法を探るのか―。“地域の足”も、選択を迫られる時がすぐそこまで来ています。

(「かんさい情報ネットten.」2023年11月16日放送)

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