【避難所を考える】「暑くて眠れない…」「腰が…」エアコンがない酷暑の避難所を想定した“全国初”の宿泊訓練 体育館で24時間過ごして見えた課題
能登半島地震の発生から1年。国は先月、自治体向けの避難所運営の指針を見直し、一人当たりの居住スペースの広さや、トイレ・入浴施設の数について、目安となる数値を示しました。能登の被災地でも、災害関連死の増加が問題となる中、避難所環境の改善は待ったなしです。
読売テレビ「ウェークアップ」は、去年夏に行われた避難所訓練に参加。エアコンがない体育館で24時間過ごすと、避難生活の思わぬストレスが浮き彫りになりました。
■気温35.4℃、体育館にはエアコン無し…“全国初”酷暑での避難所生活を想定した訓練
(山本隆弥キャスター)
「厳しい暑さが続く中、小学校の体育館を使って、1泊2日で酷暑期避難所演習が 行われるということです」
去年7月、正午から始まった、酷暑での避難所生活を想定した24時間の宿泊訓練。「避難所・避難生活学会」が主催したもので、“全国初”だと言います。
参加したのは、医療従事者や自治体職員など約70人。被災地支援に入っても、避難所に泊まることは「ほとんどない」ということで、実際に体験してみる取り組みです。課題を見つけ、災害関連死や熱中症の防止につなげることを目指します。
(『避難所・避難生活学会 』植田信策代表理事)
「能登半島地震が起こり、私たちもすぐに向かいましたが、(避難所に)行ってみると土足と雑魚寝の状態。何らかの対策を打っておかないことには、夏の避難所は、本当に人が生きていける状況じゃないと思います。」
この日の最高気温は、35.4℃で猛暑日となりました。サーモグラフィーで見てみると、天井部分は表面温度が50℃を超えるところも。しかし、体育館にエアコンはありません。扉を開放し、可搬式のクーラーや扇風機を設置するなど、熱中症への対策をとりました。
実際に被災地で導入された組み立て式シャワーも。
(山本キャスター)
「ホースを通じて水がろ過されて、ボイラーで温められたお湯がシャワーヘッドから出てきます。しかも、学校のプールの水や、川の水を使用できる画期的なシステムになっているということです」
■「どこが過ごしやすいのか?」体育館の内外で『暑さ指数』を計測 軒並み“危険”を示す数値が…
体育館の中は、研究の場でもあります。
(山本キャスター)
「これは何ですか?」
(計測健康啓発協会・望月計さん)
「これは暑さ指数計、WBGT(暑さ指数)を測るものです。体育館は広いじゃないですか。その暑さ指数のばらつきを測るためにセットしました」
暑さ指数・WBGTとは、熱中症警戒アラートの発表基準になっているもので、気温・湿度・地面などからの輻射熱の3つの要素から計算されます。暑さ指数が31以上になると「危険」とされています。
望月さんは計測器を10個設置。午後5時の時点で、2階に設置した計測器の数値を見てみると、10分ごとの暑さ指数が表示されていて、西日などの影響で、軒並み「危険」となっていました。計測器は体育館の外にも…。
(望月さん)
「(外も含め)避難所で快適に過ごせる場所はどこなのか。そういうデータが取れると良いなと思っています。」
計測は夜通し行うと言います。結果は、どうなるでしょうか。
■避難者の環境を体験する
午後7時。被災者が置かれた環境を、身をもって体験することも訓練の大事な目的。
夕食は自治体が備蓄した非常食を床に座って食べ、午後8時には就寝準備を始めます。
(山本キャスター)
「暑い中でダンボールを運んで移動させるのも一苦労です」
このダンボールベッドは実際に避難所で活用されていて、8トンの重さにも耐えられる強度があり、組み立ても簡単です。
訓練には、熱中症対策に詳しい専門家も参加していました。「各家庭で備える必要がある」と指摘します。
(中京大学・松本孝朗教授)
「(避難所に)エアコンがあったとしても、電気が止まっていたら意味がない。(少なくとも)1日分のドリンクを冷やしておけるようなクーラーボックスとアイスパックを常備していただきたいです」
(山本キャスター)
「まもなく午後11時。消灯の時間を迎えようとしていますが、気温は29.8℃、湿度は75%あります。寝苦しい夜となります。」
山本キャスターは、ウレタン素材のマットで一夜を過ごすことにしました。計測器のデータでは、夜間も体育館の気温は30℃前後、湿度は60%後半から70%台で推移。扇風機の音が体育館中に響きわたり…眠れない様子で、深夜に立ち上がる参加者も多くいました。
午前5時すぎには、一部の参加者が目を覚まし始めましたが、この時点でも、気温は30℃近く。山本キャスターも起床しました。
(山本キャスター)
「暑さによって深く眠ることはできませんでした。腰や首のあたり、ずっと床に接していた、かかとに少し痛みを感じます」
参加者らは、どう感じたのでしょうかー
(参加した大学生)
「夜中は寝られず、1時半とか2時に起きてしまった」
(石巻赤十字病院の看護師)
「足音が伝わってきた。振動など、ほかの人の音が気になって眠れなかった」
(石巻赤十字病院の医師)
「自分たちが思っていたよりも(被災者が)きつい状況で避難されていることが分かったのが一番の学びだった」
■“エアコンなし”避難所体験で見えた課題
望月さんが設置した、暑さ指数計の計測結果はどうなったでしょうか。
緑色は体育館の外、紫色は体育館の舞台の近く、水色は体育館の扉の近くで山本キャスターが寝ていた場所のデータの推移。まず体育館の内部(紫色と水色)で比べると、暑さに差があることが分かります。そして体育館の外のデータを見ると、夜間は内部よりも暑さが和らぐ時間帯がありました。
(望月さん)
「夜はプライバシーの問題もあるが、外で寝られるようなものを準備することも検討事項です」
避難所生活のストレスを減らすには、細やかな配慮が必要なことも分かりました。
(参加者)
「ダンボールベッドの高さだと、扇風機の風は来たけれど、床で寝ていると、扇風機の方が高さが上だから(風が)来ない」
(参加者)
「シャワーを浴びられなかった人もいた。どの人まで浴びたのかが分からなくて、工夫があったらいいのかなと思いました」
もし真夏に災害が起こったら…。備蓄の見直しはもちろんのこと、家族や親族、友人の家など、避難先の選択肢を普段から考えておくことも重要です。
■<取材後記>
「避難所・避難生活学会」の指導の下、番組スタッフも訓練に参加させて頂きましたが、24時間過ごすだけでも、疲労が溜まりました。この状況で被災者が何か月も過ごすことになると考えると、全国で早急に避難所の環境改善を進めなければならないと改めて感じます。
避難所生活を体験したからこそ見えた“ストレス”もありました。こうしたストレスを減らしていく、地道な積み重ねも大切です。このような訓練が全国に広がり、被災者に“優しい”避難所が整備されていくことを願います。
(読売テレビ「ウェークアップ」2024年8月3日放送分を一部加筆・編集)