「20番でもいい」駿河台大 念願の箱根へ
◇第98回箱根駅伝(2022年1月2日、3日 東京・読売新聞社前~箱根・芦ノ湖間 往路5区間107.5キロ 復路5区間109.6キロ 合計10区間 217.1キロ)
2021年10月、箱根駅伝予選会を8位で通過し、念願の初出場を決めた駿河台大学。駅伝部を率いるのは、就任10年目の徳本一善監督です。
大学時代は法政大学のエースとして、箱根駅伝に4度出場。当時、オレンジ色の髪にサングラスと、ど派手な姿で注目を集め、「ビジュアル系ランナー」と呼ばれていました。
2年生の時には1区で区間賞を獲得、その後2年連続でエース区間の「花の2区」を走りましたが、4年生の時、右ふくらはぎの肉離れで無念の途中棄権。襷(たすき)をつなぐことができませんでした。
大学卒業後は実業団の選手として活躍し、2012年に駿河台大学の監督に就任しましたが、当時は決して箱根駅伝を目指せるチームではなかったといいます。
中には週3回でパチンコに通う選手もいたそうで、「なんとかパチンコを週1回に減らしてくれないかと交渉をした。『箱根駅伝を目指すスポーツの学生が、パチンコに行ってると、応援してくれている人が聞いたらどう思う?』『自分たちがどうやって応援してもらえるようなチームにするのかを俺は考えている』という話をした」と当時を振り返りました。
「箱根駅伝にとらわれた人生って、僕が一番なんじゃないかと思う」と語るほど、箱根駅伝に強い思いを残してきた徳本監督。“いつかまた、箱根の舞台に立ちたい”“応援されるチームを作りたい”という思いで、これまで指導にあたってきましたが、ある学生との出会いに運命を感じていました。
それが31歳の4年生・今井隆生選手です。おととしまで埼玉県の中学校で体育教師をしていましたが、“より生徒の気持ちに寄り添える教師になりたい”と去年、心理学部のある駿河台大学の3年生に編入。高校時代から憧れていた箱根の舞台に挑戦するため、駅伝部へ入りました。
徳本監督は、今井選手について「起爆剤だったなって。今のチームの強さの秘けつ」と語ります。
面倒見がよく、チームの精神的な柱として、駅伝部を引っ張ってきた今井選手。しかし、今年の箱根駅伝予選会では、悔しい思いをしています。初出場がかかる大一番で「動揺していた」という今井選手は、思うような走りができず、結果はチーム10番手と振るいませんでした。
「自分自身ふがいない走りで、ここまで1年半積み上げてきたのにあの走りかと自分の中でがっかりした」とレースを振り返った今井選手。
それでも徳本監督は、「僕が箱根駅伝で20年前に途中棄権してしまって、監督になって節目の10年で箱根に行ける。20年の月日の中で箱根に戻ってこられた流れの中に今井がいる」とした上で、「今井はずっと箱根駅伝に恋い焦がれて、出たいという思いで実現させた。あいつの中で伝えられるメッセージがあると思う」と期待を寄せました。
来年の4月からは教職に復帰する今井選手は、今回の箱根駅伝が最初で最後の挑戦になります。
今井選手は「(箱根駅伝の舞台は)体育の先生になるという夢と、小さい頃、箱根駅伝走りたいなと思っていた2つ目の夢が叶(かな)えられた場所。初出場だからこそたくさん注目される。テレビの前で見てくださる方々の目に焼き付く走り、自分たちのチームカラーを箱根路に残していきたい」と熱い思いを語りました。
そして、20年ぶりに箱根駅伝の舞台に戻ってくる徳本監督。目標を尋ねると「箱根の目標はないです。選手には『区間20番でもいいよ』と言っている。責任は僕が取ればいいだけ。でも、『終わった時に必ず話聞かせてね』と言っていて。一から作ったチームで、初めて箱根に行く選手たちが、終わった時に、何て言葉を僕に言ってくれるかすごい楽しみ」と目を輝かせながら答えてくれました。
「今のチーム、最高のチームですよ。言うことないです。また来年も、『どんなチームですか?』って言われた時に『最高のチームですよ』って言えるようなチームにしたい」と、うれしそうに語った徳本監督。来年1月2日、3日、学生たちとともに、熱い思いで、再び箱根路を駆け抜けます。
※左)徳本一善監督 右)今井隆生選手